大運動会の勧め
晩餐会の翌日、朝食後に国王陛下に呼び出されて皆で移動中。
皆と言ってもベリーチェとシュガーは今日も朝からバルト殿下のところに遊びに行ったのでこの場にはいない。
呼び出された場所は王城の会議の間だ。
「マリア、いったい昨日の晩餐会でなにをやらかしたの?」
ルー先生のその一言に、ジーク様もアスさんも頷きながら私を見る。
誤解だ。
私は、何もやらかしてはいないぞ。
強いて言えば、軍事に関わる隠語を解読したぐらいだ。
あれ? 隠語を解読出来ちゃうのってやっぱりまずいよね?
国家機密事項が機密じゃなくなっちゃうもんね。
もしかして私の立場って物凄くヤバイ?
国外追放とかありえる?
まさか国家機密事項を知ってしまった故に命を狙われるなんてことが…
こ、ここはやはり殺られる前に国外逃亡するっきゃないか?
「何もやらかしてはいませんが…家に帰ったら国外逃亡の準備をしようと思います」
うなだれながらそう呟く私にルー先生が悲鳴をあげる。
「ちょっと! 何もやらかしてないのになんで国外逃亡の準備が必要なのよ?! いいから、なにやったか白状しなさい!」
「ルーベルト、落ち着け。マリア様もワザとやらかした訳ではないだろう」
「そうだよ。ルーさん。マリアちゃんがやらかす事なんて、どうせフォークに刺したお肉を振り回して国王陛下の顔に飛ばしたとかそんな事でしょ」
それ、どんなやんちゃ娘なんだよ。
「もう、違います! 私はそんなことしません。あのですね、私のスキルが発動して軍事に関わる隠語を解読しただけです」
「い、隠語を解読?…しちゃったの?…そう、それは、まあ、呼び出されるわね…」
ですよね…
***************
「おお、来たか。マリア、そちらに座ってくれ。護衛の者も席に着いてくれ。これで全員揃ったな。では、会議を始めよう」
二十畳ほどの部屋の中央に配置された楕円形のテーブルを囲み皆さんそれぞれ席に着いた。
メンバーは国王陛下に私達4人とお父様、サイラス伯父様、ブラウエール国のテオドルス隊長とその部下の男性一人、そしてテーブル席ではない部屋の隅っこの方にダドリーさんがちょこんと座っていた。
なるほど、ダドリーさんが耐えきれるギリギリの人数ってわけね。
それにしても、なんの会議なんだろう?
議題はなに?
まさか、私の国外追放についてか?
向かい側に座っているお父様の様子をうかがうとにっこりと笑顔が返ってきた。
うーん、あの様子だと、国外追放はない感じ?
「では、マリア、君はどこまで状況を理解しているのかな? ああ、ブラウエール国のお二人には君のスキルの事は話してある」
国王陛下の問いかけにブラウエール国とその隣国間で利益問題がおこり戦争になりそうなこと、ブラウエール国王はそれを危惧したためバルトロメーウス殿下の保護をこの国に求めてきたのではと推測している事を話した。
「ほう、こりゃすごい。ほぼ理解しているではないか。では、話が早い。ブラウエール国王は私の友人でな、彼は隣国のターレナン国と戦争など望んでいない。なんとか戦争を回避したいと思っておるのだ」
まあ、そうだろうね。
幼いバルト殿下を戦禍になりそうな自国から秘密裏に逃がすほど子供思いな国王だもの。
「そこで、マリアの知恵を貸してもらいたい。君は晩餐会で言っていたな。物を平等に分けるのにはいくつかの方法があると。どんな方法があるんだ?」
なるほど、そのために私はここに呼ばれたってわけか。
とりあえず、助かった…
隣でルー先生があからさまにホッと息をついていた。
「そうですね。一般的なところだと、例えば一つのケーキを友達と平等に分けるには片方が半分だと思ったとこで切り分け、もう片方が自分の良い方を選ぶという方法ですね」
「うむ。それだと、片方は自分が半分だと思ったところでナイフを入れたのでどちらが自分に回ってきても良いと言うわけか。そしてナイフを入れない方は自分の気に入った方を先に選べるから不満はでないと言うことだな」
「そうです。因みに両国で取り合っているのは何でしょうか?」
「山だ。ちょうど両国の国境線に連なっている。今まではその山が国境線の役目をしていたのでどちらの国にも属さない山だった。だが、ちょうど半年前にその山から鉱物が発掘された。ブラウエール国とターレナン国は協力して調査をした結果、今まで枯れ山だと思っていた山が宝の山だったと言うわけだ」
国王陛下がここまで説明した後、テオドルス隊長が話しを引き継いだ。
両国間でその山の所有権を巡って話し合いが行われた。
結果、その山をちょうど半分に平等に分けようと言うことになったそうだ。
だが、両国の地形探知のスキル持ちが示した山の国境線が微妙に異なったらしい。
お互いに自国の方が正しいと譲らず今に至っているという。
「一つ質問ですが、ブラウエール国とターレナン国の国力は同じくらいでしょうか? 国土の大きさはほぼ同じ位だと記憶してますが」
私の質問にテオドルス隊長が答えた。
「国力はどちらも同等だと思います。もともと我が国とターレナン国は言語も同じですし、昔から輸出入も盛んです。国民数もそれ程変わらないでしょう」
なるほどね。
それじゃきっとターレナン国も戦争なんて避けたいんじゃないかな。
「あの、最初に言っていた『赤い鳥達はまだ巣を出ていない』と言うのは武装した軍はまだ動かないと言う事ですよね? それってきっとターレナン国のパフォーマンスじゃないでしょうか?」
「パフォーマンスとは?」
えっと、フェイク?見せかけ?
なんだ?
「つまりですね、わざわざ武装した軍勢を見せつけると言う行為は本気で戦争を仕掛けるつもりはないのかと。だって私なら力が同等の相手に本気で戦いを挑むなら奇襲攻撃を仕掛けますもの。武装勢力をひた隠しにし相手が油断しているところを襲撃します。それを考えると、きっとターレナン国も戦争なんてしたくないのだと思います。まあ、売り言葉に買い言葉で引くに引けないと言ったところでしょうね」
「これはすごいな! まさに先ほど騎士団総団長のセドリック殿が言っていた事と同じだ。さすが血は争えないと言うべきか」
テオドルス隊長のこの言葉を聞いて口を開いたのはサイラス伯父様だった。
「さすが我が姪だ。私の妹の血を受け継いでいる」
「サイラス宰相、マリアは私の血も受け継いでいるので優秀なんですよ」
あ、なんか、不毛な言い争いが始まった。
「やめんか、二人とも。では、マリア、両国の異なる山の国境線はどう決着をつける?」
この国王陛下の問いかけに私は少し考える。
そうだなあ…
両国が昔から付き合いがあってお互いに戦争する意志がないなら…
「両国が主張する国境線はそのままで良いのではないでしょうか? どちらかに統一しようとするからもめるんです。一年ごと、もしくは二年ごとに交互に変えるか、武力ではない勝負での勝敗で毎年の国境線を変えるのも一つの手だと思います」
私の言葉にその場にいた人達が一斉に目を丸くした。
「なんと! そんな発想があるとは。マリア、武力ではない勝負とはどんなものだ?」
その質問に対して私は小学校の運動会を思い出しながら口を開いた。
競技は綱引き、リレー、騎馬戦あたりが妥当だろう。
球技となるとルールの説明が難しいものね。
身体能力強化系魔法が無効になるフィールドを用意。
そこで行う国対抗の大運動会だ。
競技とルールを説明した後、さらに言葉を重ねる。
「もしやるなら初回の開催は我が国が良いでしょうね。どちらかの国でと言うとまたもめることになりかねませんから」
「なるほど。だが、そうなると設備費や宿泊先の問題があるぞ。そこをどうする?」
「特別な設備はいりません。普段騎士団が使用している屋外訓練場で良いんです。確か周りに観覧席がありますよね? 見物客を募って見物料を取ってはどうでしょう? 国の収益になります」
その方法として事前のチケット購入制にして料金も席により格差をつけることを提案。
そしてどちらの国が優勝するかお金を賭ける賭博も推奨。
必然的に自分の賭けた方の国を応援するので応援にも活気が出る。
「両国の騎士団の宿泊先はこちらで宿を押さえておくのが良いでしょう。宿屋も自分の所に他国の騎士団が宿泊するとなれば悪い気はしないと思います。人数の上限は四十人ぐらいが妥当でしょう。こちらも事前に候補となる宿屋をピックアップして競わせるのも手です。よりお得な宿泊費を値切れますよ。宿泊の費用などは両国で負担してもらって競技開催中の飲食は我が国でもてなすのが良いでしょう。戦争になった場合の経済的損失を考えれば、旅費や宿泊費なんてたかがしれてますから両国から文句は出ないと思いますよ」
そこまで一気にしゃべり尽くして周りの反応を見る。
皆さん、真剣な顔して私を凝視しているではないか。
あれ? この案はダメだった?
「えっと、これは武力以外の勝敗で決めるならの例え話なので忘れて下さい」
小声でそう呟くと、国王陛下がテーブルにダンと手をついて立ち上がった。
「何を言ってるマリア! 忘れるどころか決まりだ! 君のその提案を両国に進言しよう。サイラス、さっそく親書の用意だ。ヒューベルトを親善外交として向かわせよう。セドリック、護衛の選定を頼む」
「「はっ、わかりました!」」
ふぅ…
とりあえず、一件落着かな?
じゃあ、リシャール邸に帰りますか。
「あ、マリアは我が国の騎士団に先ほど言っていた競技のやり方やルールを教えてあげてくれ」
「え? 我が国の騎士団にですか?」
「ああ、そうだ。我が国もその大運動会とやらに参加する」
なんですと?
「よって、マリアは当面、王城に滞在だな」
ええっ??
な、なぜそうなるんだ!




