学園見学⑥
ここはレオンさんたちの寮の談話室。
学園の授業が終わり、夕飯までの空いた時間に皆で集合したのだ。
寮はもちろん男女別々の建物だが、食堂とこの談話室は中央に位置して共有のスペースになっていた。
ここでもレオンさん達のようにトップクラスの人達しか入室出来ないエリアがあり、私達一行はその場所に陣取った。
談話室だけあって絶妙な距離感で配置された座り心地の良いソファや椅子にそれぞれ腰掛けた。
私は当然のごとく三人掛けのソファにアンドレお兄様とルー先生に挟まれております。
それにしても、アンドレお兄様は私達と別行動してどこに行ってたんだろう?
私はあれからエミリアさんに連れまわされ散々だった。
何故かエミリアさんが学園の講師の皆さんに先程の私の演奏の様子を吹聴して回り、講師の皆さんや他の生徒を集めて再度演奏会をさせられた。
さながら新人歌手を売り込むマネージャーのような手腕だ。
挙げ句の果てに美術科の生徒さんまで殺到し、ルー先生はピアノを弾く私の隣でポージングを取らされていた。
お疲れ様です。
「では、早速質問ですが、皆さんはレオン兄が休学する理由はいつ聞いたのでしょうか?」
アンドレお兄様の質問に皆さん顔を見合わせている。
「いつって、朝、なかなか起きてこないレオンを心配して部屋に迎えに行ったらいなかったんだ。たまにレオンは早朝練習をしてるときがあるからその日もそうなんだと思って特に気にして無かったんだ」
アンドレお兄様の質問に代表して答えてくれたのはブランドンさん。
ブランドンさんの話によると、3年生の彼らの授業は個人授業が多く、皆揃って会えるのはお昼休憩の時だとのこと。
しかし、その日はお昼休憩に学食にもレオンさんが現れず、さすがに心配になったと。
もしかして具合が悪くて部屋で休んでいるのかと寮に戻ってみると寮母さんからレオンさんは体調不良で実家で療養のためしばらく学園を休学すると告げられたそうだ。
「そうですか。では前日の夕飯をレオン兄と共にしたのはみなさんですよね? その時、レオン兄は体調が悪そうでしたか?」
「いや、俺にはそうは見えなかった。だからそう聞いて驚いたんだ。でも確か寮母さんの話を聞いた時にジェイクはそんな事を言っていたよな?」
いきなり話を振られたジェイクさんは顔を強ばらせながら頷いた。
「あ、ああ。前日の夕飯後、レオンが部屋に戻る足取りが少し危なっかしい感じだったから、俺とウォルターで部屋まで付き添ったんだ」
「あれは具合が悪いというよりも眠そうな感じだったが、足を踏み外して階段から落ちたら大変だからな」
と、ウォルターさん。
レオンさんが部屋に入るのを見届けてからジェイクさんは隣の自分の部屋には戻らず上の階のウォルターさんの部屋にお邪魔していたらしい。
なるほど、レオンさんとジェイクさんの部屋は隣同士か。
じゃあ、賊が侵入しやすく細工をするのは簡単だね。
「ジェイクさんはウォルターさんの部屋から何時頃自分の部屋に戻ったんですか?」
そう言った私にジェイクさんは鋭い視線を投げかけて口を開いた。
「俺はウォルターの部屋で話し込んでそのまま寝てしまったんだ。君達はなんでそんな事を聞くんだい? いったい俺達から何を聞き出そうとしているんだい? レオンは体調不良で実家で療養していたんだろう?」
おう!
短気は損気だよジェイクさん。
「そうです。レオンさんの休学の理由は体調不良により実家で療養しているというものです。でもあなたは、今日のレオンさんとの再会時に皆さんとは違うことを口走ってましたよ。お気づきですか?」
そう言う私にジェイクさん始め皆さんが首を傾げた。
「あの、どういう事ですの? レオンさんの休学にジェイクさんが関係しているように聞こえますわよ」
そう言うエミリアさんの質問には答えずに私はジェイクさんをジッと見る。
さっきまで強気な態度が急にソワソワしだしたジェイクさん。
きっと今、頭の中で自分が何を失言したのか記憶を辿っているのだろう。
では、あなたの失言を教えてあげましょう。
「久しぶりに学園に顔を見せたレオンさんに皆さんは体調のことやいなかった時の心情を訴えてましたが、あなたはレオンさんに向かってこう言いました『レオン、一体何があったんだ? 今までどこでどうしてたんだ?」と」
そう私が言うと明らかに動揺したジェイクさんが声を荒げた。
「そ、それがどうしたんだ?! レオンを心配してとっさに出た言葉だ。深い意味はない!」
「そうでしょうか? あなたはレオンさんがただの体調不良ではないことを知っていたんじゃありませんか? そして実家に帰っていないことも。まさかこんなに長い期間レオンさんが学園をお休みするとは思っていなかった。違いますか?」
「ジェイク、どういうことだ? お前、レオンの休学になんか関係あるのか? レオン、そうなのか? 体調不良って言うのは本当は違うのか?」そう言いながらブランドンさんはジェイクさんとレオンさんの顔を交互に見ていた。
ギュッと眉毛を寄せてブランドンさんを見ていたレオンさんが口を開こうとした瞬間、いままで黙っていたアンドレお兄様が声をあげた。
「ジェイクさんとセシリーさんはボルスト男爵家のご子息、ご令嬢ですよね?」
ん? ボルスト男爵家?
なんぞや?
突然のアンドレお兄様の言葉に頭の中が『?』でいっぱいになっていると、ジェイクさんが睨みつけながら口を開いた。
「だからなんだ。俺とセシリーはボルスト男爵の妾腹の子供だ。そのことで貴族社会では嘲笑の的なのも知っているさ。でもあんたらになんの迷惑もかけてない。だいたい俺達は貴族になんてなりたかったわけではない」
「ええ、そうですね。僕はなんの迷惑もかけられていない。でもレオン兄にはかけてますよね? レオン兄が学園を休学する前にあなたはボルスト男爵家の執事と会ってますね?」
「ジェイク、それ、本当? ライリーが会いに来たの?」
今まで状況が分からず不安げな様子でジェイクさんを見守っていたセシリーさんがそう声をかけた。
「い、いや…そ、それは…」
セシリーさんの問いかけに途端にしどろもどろになるジェイクさん。
そんなジェイクさんに追い討ちをかけるようにアンドレお兄様は言葉をかける。
「そこであなたは睡眠薬をレオン兄に盛るように言われましたね? レオン兄を部屋から連れ出す細工をするように部屋のドアに付ける認識阻害の魔道具も受け取ったはずです。レオン兄を拉致して右手に怪我をさせるために」
「ち、違う! レオンに怪我をさせる計画があるなんて知らなかったんだ! ただレオンを拉致して両親を職場から追い出す計画だと言われたんだ。準備が整ってから父から伝達蝶が来たんだ。レオンの右手を軽く負傷させるから次の芸術祭で最優秀賞を取れと。それで慌てて痛みを感じないように睡眠薬と鎮痛剤を混ぜたワインをレオンに飲ませたんだ。ああ、レオン…すまない…」
そう言いながら顔を覆いうずくまったジェイクさん。
他の皆さんもジェイクさんの衝撃的な告白に固まったまま声が出ないようだ。
セシリーさんに至っては顔面蒼白の上、手が震えている。
そんな皆さんを後目にレオンさんはジェイクさんに近づきながら声をかけた。
「ジェイク、聞かせてくれ。君にとって僕は憎しみの対象だったのかい?」
「違う…君は僕にとって憧れの対象だった。追いつきたくていつも君の背中を追いかけていたよ。君の右手の怪我は軽いはずなのになかなか学園に戻って来ないから気が気じゃ無かった。でも傷跡もなく治っているようで安心したんだ」
安心?
冗談じゃない!
あなたのせいでレオンさんは地獄の苦しみを味わったんだ。
怒りにまかせて声をあげようとした私をアンドレお兄様が手で制した。
「さあ、ここからは加害者と被害者の話し合と行きましょう。ジェイクさん以外の方は席を外していただけますか?」




