表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/229

学園見学⑤

「では、約束通りこちらの要求を飲んでもらおうか。まずは、マリアに対する謝罪からしてもらいましょう」


 食堂の二階のソファ席につき、出された紅茶を優雅な所作で飲みながらアンドレお兄様がエミリアさんに向けて口を開いた。



「マリアーナ様、音楽神の愛し子様とは知らず、大変失礼な事を申し上げました。わたくしの失言、どうかお許しください」


 あははは…

『音楽神の愛し子様』って何?


 女の武器を使ってレオンさんをたらし込む悪女からずいぶんと出世したもんだ。


「うむ。エミリア嬢のその謝罪、受け入れよう。では二つ目の要求ですが、レオン兄が休学する前日の皆さんのお話をお聞きしたい。皆さんの授業が終わるまで待ちますよ。それまで僕は少し席を外すとしよう。マリアとルーベルトは各教室を見学すると良い。そうだな、授業が終わったら、皆さんの寮の談話室で落ち合いましょう」


 あれ? なんでアンドレお兄様が謝罪を受け入れちゃってるの?

 それに席を外すって、何で?


 色々と突っ込みどころ満載ですが、私が一言も発しない内にアンドレお兄様がいつの間にか主導権を握り話が纏まった。


 自分より4つも年上の少年達を相手に有無を言わさない貫禄のある対応に脱帽だ。


 思わず、アンドレお兄様の整った横顔に見惚れてしまった。





 ********************





 マリア達と別れて僕は空いている教室に入り伝達蝶を飛ばした。

 宛先は第二王子、ラインハルトだ。


 僕の級友でもあるラインハルト殿下、第二王子という立場だが彼は王妃の息子ではない。

 母親は第一側妃だ。


 乗りが軽く見た目の華やかさから『チャラ男』と陰口を叩かれているライだが、それは世間を欺く仮の姿だ。


 彼はいずれこの国を動かすことになる兄のために情報を集め危険分子を排除すべく水面下で活動をしているのだ。


 そのためにわざと無能で害のない人間をアピールしている。

 自分を兄の対抗馬として母親や腹黒い貴族達に利用されないように。



 そんな彼は自分専用の諜報員を持っている。

『王家の梟』と言われている存在だ。

 王族に仕える闇属性持ちの一族。

 希少価値の闇属性は、血筋により受け継がれると言われている。


 闇属性を生かして人の影から影へ移動が出来るという彼らは暗闇でも目が利き、わずかな物音さえも聞こえるという。


 僕はライがその梟に調査を依頼している件で聞きたいことがあり、伝達蝶を飛ばしたのだ。


 実は、今回のレオン兄の学園復帰に妹のマリアが同行すると言うので共に付き添ってきたがそこで気になる人物に出会った。


 正確に言うと気になる人物達だ。


 ジェイクとセシリーの双子の兄妹。

 僕の記憶が正しければボルスト男爵家の妾腹の子供達だ。


 ボルスト男爵家といえば4年前、孤児院にいた妾腹の子供達を引き取ったと社交界で話題になった。

 それがジェイクとセシリーだ。


 通常のデビュタントは学園入学前の11歳から12歳だが、彼らは引き取られて貴族の教育を終えてから16歳でのデビュタントだった。


 ちょうど、僕のデビュタントと同じ時期だった。

 確か、そのデビュタントで見事な二重奏を披露して王妃殿下の目に止まっていたはずだ。


 そのボルスト男爵家の双子をライの母上である第一側妃殿下が気に入っているというのを最近耳にした。


 それを良いことにボルスト男爵が第一側妃に取り入っていることは貴族間では公然の事実となっている。

 まさか、ボルスト男爵家の双子がレオン兄の学友とは予想外だった。


 こう言ってはなんだが、ライの母上は王妃殿下に対抗意識があるようで何かにつけて張り合おうとする。


 自分の息子を王太子として立太子させようと画策しているのもライとしては頭の痛い問題だ。


 一方、レオン兄は13歳から才能を開花させて以来音楽に造詣が深いといわれている王妃殿下のお気に入りだ。


 王妃が後ろ盾するレオン兄と第一側妃が後ろ盾するボルスト男爵家の双子。

 それが同じ学園で仲の良い学友として学んでいる。

 そして学園内部の人間が絡んでいるとしか思えないレオン兄の拉致傷害事件…


 偶然だろうか?

 それにしては役者が揃いすぎている。


 なんにしてもライからの返答を待つしかないか。

 待っている時間に先ほどのマリアの演奏を思い出し、自然と頬が緩む。


 それ以前にリシャール邸の母上の部屋で聞いた軽快なピアノの旋律は今でも耳に残っている。

 あの日はマリアも目覚めたばかりで部屋の防音結界を発動し忘れていたようだ。


 屋敷中に響く楽しげなピアノの旋律に使用人達は皆笑顔を見せた。

 それと同時に侍女達から報告があった度々マリアが母上の部屋で何かをしていたというのはピアノを弾いていたのだと思い至ったのだ。


 それもあってエミリア嬢の挑発にも気軽に乗ったのだが、マリアは僕の想像を遥かに超える才能があったようだ。


 自分で曲を作り上げ、それにあわせて歌うとは・・・

 これはこの学園に取って新たな旋風を巻き起こすに違いない。


 そんなマリアのことを考えていると開け放された教室の窓から伝達蝶が入ってきた。


 ライからの返事だ。


 その手紙の内容を一読して確信を深めた。


 彼らとの落ち合う時間にはまだ早い。

 この時間に寮の方を探索しておこう。


 おっと、その前に父上に騎士団員をこちらに向かわせるように頼まなければ。


 そう考えたところで王城騎士団に向けて伝達蝶を飛ばした。


 さぁ、レオン兄を陥れた犯人と対決と行きますか。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=319343664&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ