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錬金術師に会いに行きましょう

 王都の外れにある『未来屋』と言う名のお店に私達一行はたどり着いた。


 リシャール邸からここまで、馬車に揺られること5時間。

 メンバーは私、レオン君、ルー先生、ランさん、そしてなぜかジーク様。


 おいおい、騎士団の仕事はどうした?

 と、思ったらなんとお父様からの依頼のようだ。

 王都周辺の治安調査と言うもっともらしい理由を付けて私達と行動を共にするようにと送り出されたらしい。



 大胆な職権乱用だ。

 まあ、当の本人が嫌がってないなら良いか。


 ジーク様と会ったルー先生が嬉しそうな声を上げるのを見て、まさか元彼か?!と、様子をうかがったがどうやら騎士団時代の先輩だったようだ。


 良かった。ジーク様の貞操が守られて何よりだ。

 そんなこともあり、ジーク様とルー先生が交代で馬車の御者をしてくれた。


 あのプロポーズ事件からレオン君とも少しずつ打ち解けて馬車の中ではマリアーナの幼少期の話をしてくれた。

 きっと私の記憶が無いことをリンダさん達から聞いたんだろうね。


 幼少の頃は主従関係の線引きが分からないマリアーナは使用人棟までレオン君に会いに行って困らせていたらしい。


 幼児まで虜にするとは、イケメンと言う種族は恐ろしい。


 レオン君が学園入学と同時に寮生活をすることを知ったマリアーナはしがみついて大号泣。

 泣きやませるのに大変だったようだ。


 でもそれ、私じゃないからね。

 そんな事言えるわけもなくルー先生の生暖かい視線に耐えるのであった。

 

 




 さて、目的地に着いた私は改めてお店の看板を見つめる。

 日本で言う鳳凰のような鳥が描かれた縦長の看板だ。


光華鳥こうかちょうですね。七聖霊様のお一人です。悪いことをする者を一瞬で焼き尽くし、反対に慈悲深い行いをした者にはご自分の涙で癒やし祝福を与えるという言い伝えがあります」

 看板をじっと見つめる私にランさんが説明をしてくれた。

 へぇ、聖霊様か。

 確か鳳凰も似たような逸話があったような。


 しかし、この店、名前からは何のお店か分からないな。

 ネーミングとしては的を射ているけどね。


 ここにレオン君の装飾義手を作った錬金術師がいるんだ。


 見た所、自宅兼店舗と言ったところか。

 一階が店舗、二階が住居になっているようだ。

 日本の一般的な一戸建てぐらいの大きさで赤い三角屋根が可愛い。


 しかし、立地条件が悪い。

 周りにはこれと言ってお店は無いようだし、看板が無ければ普通のお家にしか見えない。


 あれだけの腕を持っているんだもの王都の繁華街に店を構えれば一躍有名になるだろうに。

 まあ、腕の良さは人伝に広まっているようだから別に良いのかな。


 ルー先生が先頭に立ち『未来屋』の扉を開けた。

 ドアにつけられたらベルが可愛らしい音を鳴らした。


 わあ、なんだか懐かしい音色だ。

 前世の満里奈のマンションの近くにあった小さな雑貨屋の扉にもこんなのがあったな。


「いらっしゃいませ」


 ルー先生が一足先に中に入ると店の中から可愛らしい女の子の声が聞こえた。


 ルー先生の背中越しに中を覗くと奥のカウンターに明るい茶髪をツインテールにした水色の瞳の可愛い女の子が座っていた。

 私と同じくらいの歳だろうか。


 店の壁には人の手や足の義肢がディスプレイしてある。


 へぇ、やっぱりこの錬金術師は天才だな。

 私はキョロキョロと店の中に視線を向けながら中に入る。

 お店には他のお客さんはいないようだ。


 私に続いて足を踏み入れたランさんが「ひっ」と短く悲鳴を上げて口を押さえた。

 レオン君も足を踏み入れた途端、ギョッとしたように目を見開いたがさすがに声は出さなかった。


 その様子に店番の女の子は気を悪くするでもなくにっこりと笑った。


 メンバー全員が中に入ると店番の女の子が口を開いた。


「ご注文ですか?」


 その言葉にルー先生が答える。

「ええ、そうよ。この店の錬金術師を注文するわ」


 あーもう、ルー先生、その発言は誤解されるってば。

 ほら、女の子がドン引きしてるじゃないですか。


 そこで常識人のジーク様が前に出て説明をする。


「すまないが、ここの店主に会わせてもらいたい」


 ジーク様の顔を見て女の子はしばしの間、固まった。

 ん? どうしたんだろう?


 ああ、ジーク様のあまりの美男子ぶりに驚いたのか。

 うん、うん、分かるよ。


 彼がもう少し年上だったら私的にもド・ストライクだよ。

 まあ、ジーク様から見たら今の私はお子様なので向こうも相手にはしないだろうけどね。クスン…


「あ、はい。今、呼びますね」

 女の子はそう言うとカウンターに置いてあった緑色の球体に触れながら声を出した。


「ガイ兄さん、お客様がいらっしゃいました」


 ほお、あの緑色の球体は通信機なんだ。

 そしてこの女の子は店主の妹さんってことか。


 そして店の奥から出てきたのは茶髪に明るい茶色の瞳の20歳前後の優しげなイケメンだった。

 若いな。もっとおじさんを想像してたんだけどな。


 しかも、この世界にきて初めて会う地味な色彩だ。

 モブ感漂うこのイケメン、日本でよく見るハーフタレントのようで癒される。


 もうあだ名はモブさんで決まりだ。


 思わずにっこりと笑顔を向けると私に気づいたモブさんは眉間にしわを寄せて吐き捨てるように言った。


「チッ、客かと思ったらお貴族様か。俺には用はない帰ってくれ」


 し、舌打ち?

 しかもこちらの要件を言う前に帰れときたもんだ。

 見た目とは真逆の塩対応に私達はしばし呆然。


「な! ちょっと、あなた、なんて失礼な対応なんでしょう。仮にもお客に対してその対応はなんですか!」


 いち早く立ち直ったランさんがモブさんに詰め寄る。


「いや、ここは俺の店だ。俺が客と認めた奴としか話はしない。貴族はお断りだ。出て行かないなら力ずくで外に出すぞ」


 モブさんのその言葉にルー先生とジーク様が思わず剣に手をかけたのがわかった。


 私はルー先生とジーク様を視線だけで押し止めてモブさんに顔を向けた。

 どうやら彼は貴族に嫌悪感があるようだ。

 でも私もこれしきのことで引き下がる訳にはいかない。


「わかりました。今日のところは帰ります。帰る前に一つだけお聞きしたい事があります。それに答えてもらえますか?」

 そう言う私にモブさんは鋭い目を向けると口を開いた。


「質問にもよるが、言ってみろ」


「『未来屋』という名前と看板に描かれた『光華鳥』はこのお店のコンセプトでしょうか?」


 思ってもみない質問だったようでモブさんはキョトンと首を傾げた。

 その仕草は見た目の歳よりも幼く、頼りなく見えた。


「そうだ。それがどうした?」


「いえ。お答えいただきありがとうございます。では、私達はこれで失礼いたします」


 私のこの言葉を合図にお店を後にしたのだった。




「なんて失礼な青年でしょうね。お嬢様、こうなったら違う錬金術師を探しましょう。不肖、わたくし、ランがこの王都中、いえ東部地区中駆け巡ってお探しします」


 お店を出るなりそう言うランさんに私は笑顔を向けて声をかける。


「ふふふ、ありがとうラン。でも大丈夫よ。明日、改めて交渉するわ。その前に皆さんにお願いしたいことがあります」


 交渉が難航する事を見越して宿を押さえていて良かった。

 さあ、作戦会議を始めましょう。


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