エピローグ
いつも、誤字報告ありがとうございます。
とても、助かります。
これが、最終話になります。
6月の晴れた日、私はウェディングドレスに身を包み、大聖堂の長いバージンロードをお父様にエスコートされて歩く。
2年間の婚約期間を経て、マリアーナ・リシャールは、17歳で嫁に行きます。
明日からは、マリアーナ・ブレイアム子爵夫人なのだ。
しかし……前世で27歳で婚活を始めた私からしたら、10代で結婚なんてなんだか、現実味がない。
だけど、隣を歩くお父様の泣き顔を見て、これは、現実だと実感する。
なぜか、エリアス先生まで号泣していて、その肩をアンドレお兄様がぽんぽんと叩いているのが見える。
周りには、お祝いに駆けつけてくれた沢山の人達。
本当は、身内だけでこじんまりとした式をあげるのが理想だったんだけど、三聖獣の主ということで、そうもいかないらしい。
陛下の名代として、立太子の儀と婚儀を終えたヒューベルト王太子夫妻が参列している時点で『こじんまり』という単語が吹き飛んでしまうというもの。
でも、大聖堂というだけあって、千人を超える列席者を収容できて良かったかも。
なんせ、ナンカーナ皇国からも、エレウテリオ皇太子とエメライン皇太子妃が列席、しかも、我が国の第二王子、ラインハルト殿下とアンドレア様の婚約まで調ったということで、その二人までも席に座っている。
周辺では、それぞれの護衛と騎士団員が入り乱れ大変な事になっている。
その様子に、お義父様が驚きの視線を向けてるけど、お義父様もかなり目立っていますからね。皆さん、肩に乗せたオレリアちゃんを二度見してますよ。
だいたい、この招待客の人選は誰が考えたのだろうか?
私とジーク様ではないのは、確か。
私達が招待状を出したのは、本当に身近な縁のあった人達だ。
たとえば、ランとデリックさん夫妻ね。今年2歳になるエドガー君を抱き上げて、『ママが良い!』と言われて落ち込んでいるデリックさんは、とてもS級冒険者には見えない。
学園の皆も、それぞれ自分の婚約者を連れて駆けつけてくれた。
シャノンは、見事ブライアンの兄君を落とし、婚約者の座をゲット。
そのブライアンは、ベルナデッタの家族間での悩みを聞いていいるうちに気持ちが通じ合い、今、カプアーナ子爵家に婚約の打診をしているらしい。
ドリアーヌは、ナンカーナ皇国の第三皇子であるチェバスターと婚約。
聖巫女であるドリーが国外に出ることを良しとしない我が国の重臣達の反対があったようだが、私がこの国に留まること、第二王子とナンカーナの皇太子妃の妹の婚約が調ったことで、実現した。
そして、驚いたことに、我が兄、アンドレお兄様と、リリアーヌの婚約が一年前に実現したのだ。
私が巻き込まれた狂乱の魔女の事件をリリーが担当したことでお互いに惹かれ合ったということだ。
アンドレお兄様とリリーの結婚式は、来年の予定。
今から楽しみだ。
そして、侯爵令嬢のエミリエンヌは家を飛び出し、初恋の人を追いかけた。
ソルミュ商会の三男であるダイムのもとにね。いわゆる押しかけ女房だ。
もともと頭の回転が早いことと、貴族社会に精通しているエミリは、ソルミュ商会でも確固たる地位を築いているらしい。
ティーノとイデオンは、年下のご令嬢と婚約して、そのご令嬢達が学園を卒業したら結婚するそうだ。
シリウスは、学園の同級生である、カメーリアと婚約。ふたりは、進学し、ファティアで再会を果たし交際を始めたらしい。
ダニエルは、学園在学中に言っていたように騎士団に入団、『俺は一生、結婚はしない』と豪語している。モテるのに、もったいない。でも、きっとその考えを覆すような相手に会えるでしょう。
我が従兄のサムエーベルは、なんと、隣国の王女様との婚約話が進行中。まだ、12歳という王女様は、優しくて、王子様のようなキラキラしいサムに夢中だという。サムもまんざらでもない様子で微笑ましいカップルだ。
そして、私は、今、愛おしい婚約者殿の元へ。
お父様が、泣きながら私をジーク様に託す。
27歳になったジーク様は、一段と魅力が上がったように思う。
丁寧に前髪を後ろになでつけ、凛々しい眉が男らしさを引き立てる。
白い婚礼衣装に身を包むジーク様からは、色気がダダ漏れしていて、他の女性に見せたくないくらいだ。
差し出された手にそっと触れると、幸せな気持ちが溢れ出す。
ああ、幸せだ。
思わずこみ上げる涙を、瞬きとともに散らす。
「マリア。君に会えて本当に良かった。愛してる。幸せにするよ」
ジーク様の言葉に、我慢していた涙が溢れた。
ストーカーに刺されてこの世界に落ちて、最初に見たきれいな赤い瞳。
「私も、愛してます。2人で窒息するくらい、幸せになりましょうね。私のルビーの騎士様」
その瞬間、力強く抱きしめられた。
「君は……どれだけ俺を惚れさせたら気が済むんだい?」
「あーこほん。式を進めてもよろしいかな?」
司祭様の声で我に返る。
す、すみません。
・・・結婚式から2年後・・・
「マリア奥様。腰に当てるクッションをお持ちしました」
出産のためにリシャール邸の自室のベッドに横たわる私の元にクッションを持ってきてくれたのは、すでに2児の母となっているラン。
私の出産を手伝いに来てくれたのだ。
なぜならば、専属侍女のヨランダは、1年半前にルー先生と結婚をし、4ヶ月前に男の子を出産したばかりだからだ。
ナタリーもガイモンさんと結婚し、今は王都の一角に構えた男爵家のお屋敷を切り盛りしている。
今、ガイモンさんと助産婦さんを迎えに行ってくれている。
しかし、陣痛が、こんなに痛いものだとは……世の母親を尊敬します。
部屋の外では、ジーク様とお父様、アンドレお兄様が落ち着きなく歩き回っているのが分かる。
ベリーチェ達が、部屋に突撃しようとする三人の男達を押し留めているのが聞こえる。
その状況に痛苦しいのに、笑いが漏れる。
程なくすると、助産婦さんが到着。
初めての出産。早くあなたに会いたい。
「おぎゃー! おぎゃー!」
「おめでとうございます! 可愛いお嬢様ですよ、奥様」
ああ、やっとあなたに会えた。私の可愛い娘。
ぽやぽやとしか生えてない髪の毛はピンクゴールド。
今は閉じていて瞳の色は確認できなけど、私は知っている。
深いエメラルドグリーン。
ようやく、部屋に立ち入ることを許された男性陣がなだれ込んでくる。
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ジークフィードside
「おぎゃー! おぎゃー!」
廊下に元気な赤子の声が響く。
ああ、神様感謝します。
廊下で待っていた、義父上と、アンドレ君とともに我先にと部屋になだれ込む。
出産で疲れているはずなのに、マリアは相変わらずとても綺麗だ。
身体のうちから溢れる生命力が、眩しいくらいに輝いている。
だから、俺はいつも目を離すことができないんだよ。
額に掛かる前髪を、そっとかき上げて額にキスをする。
「ありがとう、マリア。俺の娘を生んでくれて」
「ふふふ。私の言った通り、女の子だったでしょう?」
そう言って、優しく微笑むマリアが、あまりにも可憐で今度は、頬にキスを落とす。
「ああ。君に似てとても可愛い娘だ。大切に育てような」
「はい! 今までは、世界一幸せな夫婦でしたけど、これからは、世界一幸せな家族になりますね」
ああ、君は、本当に俺の心を掴んで離さないよ。
愛おしさが溢れて、今度は唇にキスをする。
「こほん。さあ、ジークさん。生まれたばかりのお嬢様をお抱き下さい」
ランさんが、産着に包まれた赤子を俺に差し出す。
「あー義父上。赤子の抱き方の見本を見せて下さい」
「! 私が、最初に抱き上げても良いのか?」
義父上の言葉に、マリアと顔を合わせて頷き合う。
これは、出産前にマリアからお願いされていたことだ。
『女の子が生まれたら、最初に抱き上げる栄誉をお父様に譲って欲しいの』
もちろん、二つ返事で了承した。
日々の生活の中で、俺を幸せにしてくれるマリアのお願いだ。
それに……先程の義父上の小さな呟きにマリアがどうしてそのようなお願いをしたのか、わかった気がした。
赤子を見つめながら、『マリアーナ……』そう呟いた義父上。
「初孫ですよ。お父様。抱いてあげて下さい」
マリアに言われて、そっと赤子を抱き上げる義父上。
「可愛いな……歳を取ると、涙もろくなって仕方ない……」
涙を流しながら『可愛い』と何度も言う。そんな義父上の腕の中にいる赤子を見ながら、アンドレ君が小さな声で呟いた。
「おかえり……マリアーナ」
そのつぶやきが聞こえたのか、マリアはアンドレ君と俺に、明るい笑顔を向けながら、唇にそっと人差し指を当てた。
完
今まで、読んでくださりありがとうございました。