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事の顛末を報告

 ジークフィードside


 昨日の散々な晩餐の後、両親と性悪女に言いたいことを言ってスッキリした俺達は、軽快な目覚めとともに朝食を食べ、その後、事の顛末をルーベルトとエリアスに報告するため俺の部屋に集まった。


 俺の部屋の応接間には、指輪を外して元の容姿に戻ったアンドレ君とベリーチェとクラウドがソファに腰掛けている。

 俺も一人掛けのソファに座り、ローテーブルに乗せた小型通信機を起動させた。


 エリアスの部屋に繋がれた通信機から、エリアスとルーベルトの声が重なる。


『『遅い!』』


 昨日の疲れで、夢を見る間もなく眠り込んでいたので、連絡が今になったんだが……まあ、待ってる方は長く感じるのか。


 俺達がリシャール邸を後にしてから、マリアは義肢製作の仕事に没頭しているか、工房の一角で薬師の真似事をしているらしい。


 怒ってるだろうな……なんの説明もなく、こちらに来てしまったからな。

 帰ったら、マリアに謝り倒さないと。


 エリアスとルーベルトに、こちらに来てから起こったことを掻い摘んで説明する。


『ジークさんの初恋の人?! それが客人の正体だって?! ジークさん! それどういうこと?!』


 エリアスのその言葉に、すかさず訂正を入れる。

 初恋の相手ではない!


『なるほど。それで、冷たい対応をして、マリアの方から婚約解消を言い出すのを狙ったと……』


 ルーベルトの言葉に、父と母が過ちを認め、頭を下げた事を説明した。


 しかし……あんなに話が通じない頭の可笑しい女にあったのは初めてだ。


 だが、これで心置きなく帰れると思うとホッとする。

 早くマリアの顔が見たい。


 あらかた説明が終わったところで、執事のカシュパルが訪ねてきた。


「ジーク様。失礼します。ああ、アンドレ様もおいででしたか。それは丁度良かったです。旦那様がお呼びです。それと、男爵家のお二人は先程、この屋敷から出て行きました」


「わかった。ベリーチェとクラウドはここでゆっくりしていてくれ」


 そう言って、ベリーチェとクラウドに留守番を頼んでから部屋を後にした。




 父上の執務室に出向いた俺達は、両親から改めて頭を下げられた。


「これは、マリアーナ嬢ヘ宛てた手紙だ。私達の謝罪の気持ちをしたためた。こちらに戻ってきたら、きちんと謝罪をするつもりだが、それよりも早くこの気持ちを伝えたくてな。渡してくれ」


 差し出された手紙は、三通。

 父と母と侍女長のマーサだ。


「わかった。彼女に渡しておくよ」


 ホッとしたように頷く両親。


「……ジーク……私達は、お前の幸せを願っている」


「それは……わかっているよ。あーええっと、昨日は俺も少し感情的になってきついことを言ってしまった。でも、マリアは俺の大切な女性なんだ」


「そうだな。お前にも、そんな女性ができて嬉しいよ。お前の好みが黒髪というのは、間違った情報だったんだな」


「……」


 父上の何気ない一言に、返答できない。

 界渡りの乙女……マリナ(満里奈)の最後に見た儚い笑顔を今でも鮮明に思い出せる。

 でも……この思い出を誰かに言う気にはなれない。


「まさか、ジークさん。マリアの他に好きな女性でもいるんですか? マリアとその女性、どっちを愛しているの?」


 どっちを?

 わからない……でも、マリアの屈託ない笑顔を守りたいと思うのは、本心だ。


 そして、俺の心の中に、マリナ(満里奈)がいるのも確かだ。

 ……そんな俺が、マリアの隣にいても良いのだろうか?


 一途にマリアの事を想っているエリアスの方が、マリアを幸せにできるのではないだろうか?

 そんな葛藤がぐるぐると頭の中を駆け巡る。


 そこへ慌ただしくドアをノックする音が響いた。


 ドンドンドン!


「誰だ? 入れ」


 転がるように入ってきたのは、ベリーチェとクラウドだった。


「たいへんでしゅ! マリアがいなくなったでしゅ! るーちゃんかられんらくでしゅ!」


 なんだって?!


 アンドレ君と顔を見合わせて、そして駆け出した。




 **********




 マリアーナside



「わぁ〜メアリーさん! すごいです! 基本的なルメーナ文字(古代文字)はもう覚えたんですね」


 今、私は工房でメアリーさんにルメーナ文字(古代文字)を教えている最中。


 義肢製作に欠かせない錬成術は、ルメーナ文字(古代文字)を使えないとできないからね。


 メアリーさんは、学園を卒業後は兄のガイモンさんのお手伝いをしたいと、義肢製作に携わってくれている。

 ガイモンさんと同じ、『複製』のスキル持ちなので私がいない間、ずいぶんと戦力になってくれていたようだ。


 ガイモンさんも難なくルメーナ文字(古代文字)を使いこなし、凄腕錬成術師の名を轟かせている。

 そんなガイモンさんを甲斐甲斐しくお世話するナタリー。

 結婚式はまだだけど、すでに古女房のようなたたずまいだ。


 そんな二人を見ていたら……やっぱり、ジーク様に会いたい。


「クーン…」


 甘え鳴きをしながらシュガーが、私の膝に乗って来る。

 可愛い。


 ヨランダが選んだセーラーカラーのシャツに濃紺のズボンがとても似合っている。


「シュガー、お洋服、よく似合ってるね」


「ま、り、あ!」


 ん? 今、小さな男の子の声が聞こえたような?

 キョロキョロと視線を回すと、メアリーさんと目が合った。


「あ、あの……今、シュガーがしゃべりましたよね?」


 え?

 膝の上のシュガーを抱き上げると、口を開いた。


「まりあ! ぼくだよ!」


 しゃべった?!


 これには、工房で義足の最終チェックをしていたガイモンさんとそれに付き添っていたナタリーも驚いた様子で駆け寄ってきた。


 キッチンでお茶の用意をしていたヨランダにも聞こえたようで、洗っていたと思われるティーカップを手に作業場に出てきた。


「シュガー、喋れるの?」


「ぼくね。れんしゅうしたの。えらい?」


「偉いよ! 可愛さマックス!」


 それから、ひとしきりみんなに構い倒されてちょっとグッタリしたシュガー。


 丁度、お仕事の連絡が来て、皆さんの意識がそちらに向かったタイミングで抱き上げる。


 そうだ! ルー先生とエリアス先生にも教えてあげなきゃ。

 そういえば、今日は朝からいないような?


「るーちゃんとえりーは、おへやだよ。においするよ」


 匂いで分かるんだ。

 じゃあ、驚かせちゃおうか?

 シュガーと顔をあわせてニヤリと笑う。

 足音を立てないように、2階にあるエリアス先生の部屋に向かう。


 ドアをノックしようと手をあげたところで、中からエリアス先生の声が漏れてきた。


『ジークさんの初恋の人?! それが客人の正体だって?! ジークさん! それどういうこと?!』


 え? 


『なるほど。それで、冷たい対応をして、マリアの方から婚約解消を言い出すのを狙ったと……』


 続いて聞こえてきたルー先生の言葉に心臓がギュッと締め付けられるように痛んだ。

 どういう……こと?

 会話の相手はジーク様?

 まさか、ジーク様とアンドレお兄様は、トライアン領に行ってるいるの?


 そして……今の会話って……?

 私はシュガーを抱いたまま後ずさった。


 ドキドキと鼓動が激しくなるなか、そのまま勢いよく階段を駆け下りる。


「マリアお嬢様。どうされました?」


 階段の下には、心配そうな顔のヨランダがいた。


「ヨランダは知っていたの? ジーク様とアンドレお兄様がトライアン領に行ってること」


「……そ、それは……」


 言い淀んだその様子に確信する。

 知ってたんだ……なんで? 

『婚約解消』ってなに? いやだ、ここには居たくない!


「お、お待ち下さい。マリアお嬢様! どちらへ?!」


 引き止めるヨランダを振り切り走り出す。

 後ろからガイモンさん達の声も重なるが、もう何を言っているのわからない。


 勢い良く工房を飛び出した。


「まりあ。ぼくにのって。ぼくたちのはじまりのばしょにいこう」


 シュガーはそう言いながら大きくなって、私を背中に乗せて空へと舞い上がった。

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