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『魔王』という称号が似合う親子


 ジークフィードside



 マリアが、予定より早めに里帰りしてきたので、関係各所に連絡をしたが、リシャール総団長は王城に泊まりで、アンドレ様はこちらに着くのは、夜分になると返信があった。


 なので、本日の夕飯は、工房のダイニングでいつものメンバーで取ることになった。


 マリア達が、荷物を整理している間に工房のダイニングで夕飯の準備をする。


 ナタリーと、メアリーの指揮のもと、俺とガイモンも忙しく立ち回る。


 エリアスは……部屋にこもって出てこない。

 よほど、先程のマリアの態度にショックを受けたようだ。

 まあ、夕飯になれば嫌でも出てくるだろう。


 俺は、マリアが発案し、エリアスが製作した、ホットプレートなるものをテーブルにセッティングしているところだ。


 2台のホットプレートを並べ、熱伝導魔石がきちんと作動するか確認する。


 まだ、試作段階だが、テーブルで肉や野菜を焼いて食べる手法は、斬新で、食材を変えれば、いろんな料理がその場で食べられると、このリシャール邸では活躍している。


 肉や野菜に付ける『タレ』というものも数種類あり、飽きのこない料理になっている。

 リシャール家の料理長は『これは料理ではない!』と憤慨していたが、結局『タレ』の開発に自ら乗り出し、今では、その『タレ』を商品化するまでになった。


 これは、冒険者にも好評で、野営のときに焼いた肉にかけるといつもの肉が数段美味しくなると、売上が上昇しているらしい。




 **********




 マリアに肉を焼いてあげながら、トライアン領での生活ぶりを聞いてみた。


「あー。花嫁修業は全然進んでないですね。今、侯爵様が、連れ帰ったお客様のおもてなしに忙しいみたいです。それに、侯爵夫人が講師の方を付けてくれたんですが……」


 ん? 今、予想もしない言葉が耳に入ってきたぞ。


「ちょ、ちょっとまってくれ、侯爵様と侯爵夫人だと? なぜそんな呼び方を?」


「お義母様と呼ぶのは早いから、侯爵夫人と呼ぶようにと言われたんです。あと、ジーク先生ではなく、ジーク様と呼ぶようにと」


 おかしい……あの両親がそんなことをマリアに言うなんて……。

 諦めていた俺の結婚が、こうして現実のものとなったんだ、喜んでくれていると思ったが……。


 対面に座る、ルーベルトとヨランダ嬢に目を向けると、二人共コクリと頷いた。


 どうやら本当のことのようだ。


「あ、でも、ジャスティン様と、ドロシー様には、お義兄様とお義姉様と呼ぶ許可をもらいました。ギュンター君とも時間が会えば散歩してます。とっても、可愛いです」


「あい! ベリーチェ、ギュンターくんすきでしゅ」


「ワン!」「キュー!」


 マリアの右隣に座ったベリーチェがお肉を頬張りながら、会話に参加する。

 シュガーはすっかり手先が器用になり、ヨランダ嬢の隣に座り食事中。

 たまにヨランダ嬢にお肉を切り分けて食べさせている。

 今まで、お世話になった分をお返ししているようだ。


 クラウドは、ルーベルトの膝の上でお肉を食べさせてもらっている。

 合間に野菜を差し出すルーベルトに首を振って拒否をアピール。

 野菜は嫌いなんだな。

 

 先程のマリアの言葉に動揺した心を落ち着かせていると、エリアスが口を開く。


「ねえ、それって、マリアのことを嫁として認めてないってことじゃない?」


 エリアス! なんてこと言うんだ。

 マリアが、肉を喉に詰まらせたじゃないか。


「うっ、や、やっぱり、そうですよね……」


「ち、違うぞ。きっと何か、理由があるはずだ」


 マリアの背中をさすりながら、そう言うと、エリアスがここぞとばかりに反論してくる。


「そうかな〜?だって、花嫁修業に来たに、お義母様と呼ぶななんて、ひどい話だと思うよ。マリア、僕の実家はマリアのこと大歓迎するよ。何と言っても、『赤の賢者の真実』を世に知らしめた立役者なんだから。そうだ! 今度、僕の実家に遊びにおいでよ。父も姉もマリアに会えるのを楽しみしてるんだ」


「却下だ。マリアは、俺の婚約者なんだ。マリア、すまない……嫌な思いをさせて」


「い、いえ……えっと、私も……思いっきり言い返してきましたから」


 そう言いながら、笑顔を見せるマリア。

 だが、言い返したと聞いて少しホッとした。曲がったことが嫌いで真っ直ぐなマリアらしい。

 それと同時に両親の不可解な行動が気になる。


 トライアン領に行って両親を問いただしたい衝動に駆られるが、せっかく、マリアが里帰りしてきたので一緒にいたいと思うのは、俺のわがままだろうか?



 **********



 夕飯も食べ終わり、女性陣はデザートを食べた後、自室に引き取った。


 残った、男性陣は、久しぶりに飲もうということになり、そのままダイニングで酒盛りを始めた。


 話題は先程のトライアン領での生活。


「ジークさんのご両親だから、悪くは言いたくないが、明らかにマリアに対する態度は、気持ちの良いものではなかったな」


「ふ〜ん。ずいぶん、興味深い話をしてますね。じっくり話を聞きたいです。僕の大切な妹の一大事だからね」


「ア、アンドレ様?!」


「やだな。ジークさん。僕たちは義兄弟になるんだから、アンドレと呼び捨てでかまいません。ジークさんのほうがだいぶ年上なので、敬語も不要です」


「そ、そうか。では、アンドレ君と呼ぶことにする」


 笑顔が怖いんだが……。


「さあ、ルーベルトさん、続きをお願いします」


アンドレ君に促されてルーベルトがトライアン領で起こったことを話してくれた。


「詳しい話は、ベリーチェの方が知っていると思う」


 なんとも言えない苦い思いが広がる。

 いったい、両親は何をしているんだ?


「あれじゃないか、ほら、ジークさんとマリアの婚約は王命で決まったじゃないか。だからご両親もいまいち納得がいってないとか?」


 ガイモンの言い分も少しわかるような気がするが……。


「だが、マリアに実際に会って言葉を交わしたんだ。婚約した経緯が納得できなくても、いい子だってすぐに分かるはずだ。なのに……なんで乳母のマーサまでが。それに、マリアが滞在しているのに、客人を招くなんておかしい」


「ジークさん、僕言ったよね? マリアを不幸にしたら許さないって」


「わ、わかってる。エリアス。両親の言動については俺も困惑してるんだ」


「じゃあ、ジークさんのご両親に事情を聞きに行きましょう。クラウドに頼んで飛んでいけばすぐです。ああ、トライアン家への連絡は、直前にしましょう。それと、父上には、まだ内密にお願いします。マリアが絡むと見境がなくなってしまいますから」


 それは、アンドレ君も同じだと思うが……総団長は武力で、アンドレ君は策略で、立ちはだかる敵を闇に葬る……『魔王』という称号が似合う親子なのだ。


 そして、俺は、その魔王とともにトライアン領へと行くことになった。


「あと、証言をしてもらうためにベリーチェも連れていきましょう。連絡を取れるように、通信機も持って行くか。ルーベルトさんとエリアスさんは、我々がトライアン領へ行ってることをマリアに悟られないようにしてください。あの子は優しいので、自分のせいで何か事件が起こったとなると気にするでしょうから」


 事件を……起こすつもりなのか?






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