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蘇った精霊樹と恋愛感情

 エセルバート・トライアン侯爵side



 ミルドレッド嬢が、精霊樹を傷つけたという報告を受け、馬に飛び乗った。


 精霊樹を傷つけるなんてどういうことだ。

 護衛の報告によると、領地観光の案内役であるマーサの説明中にミルドレッド嬢がいきなり風魔法を精霊樹に向けて放ったそうだ。


 驚いた護衛達が、すぐにミルドレッド嬢を取り押さえたが、そのときに彼女が『ベックマン男爵領にも精霊樹がほしいの!少しもらうくらい良いでしょ!』と叫んだという。


 一体、あの娘は何を考えているのだ?

 ベックマン卿は親として何をしている?


 ふつふつと湧き上がる怒りの感情が馬を急がせ、ほんの数分で丘に到着した。


 そして……目の前の光景に頭が真っ白になる。

 なんてことだ! 本当に精霊樹が枯れ始めているだなんて!

 精霊樹の幹はえぐれ、樹冠の枝は切り落とされいる。


 その場所から葉が茶色へと変色し、花弁がハラハラと舞い落ちる。


 幼少の頃から、悲しいときも、嬉しいときもいつもここに来て話しかけていた。

 精霊樹が応えるわけではないが、それでも、心が通い合っているような気がしていたのだ。


 代々、この精霊樹を守ることがトライアン侯爵当主の役目だ。

 それが誇らしかったし、長男にそれを引き継げることに幸福を感じていた。

 それが……こんな……。


「父上! 報告を聞いてただいま駆けつけました! これは、ひどい……どうすれば……」


 駆けつけたジャスティンの言葉にハッとする。

 そうだ、指示を出さなければ。


「植物に詳しい者が必要だ! あと、精霊に精通している魔導師だ!」


「では、王城へ連絡をして魔導師団を派遣してもらいますか?」


「いや、それでは間に合わない」


「侯爵様! 飛竜がこちらに向かって飛んできます」


 警備団員の叫び声に上空を見上げる。


 あれは……聖獣のクラウド?

 低空飛行を始めたクラウドの背中に人の姿が見える。

 ピンクゴールの長い髪……あれは……マリアーナ嬢だ。

 ベリーチェやシュガー、それにルーベルト君の姿も確認できた。


 マリアーナ嬢がかざす両手から光の粒子が降り注ぎ、精霊樹を包み込む。

 地面に落ちた枝が、意思を持ったように元あった位置に引き寄せられ、くっついた。

 それと同時に、えぐられた幹は何事もなかったかのように傷が消えた。


 そして、茶色に変色した葉が、みるみるうちに綺麗な緑色になり、散った花の場所には、新たな蕾が芽吹いているではないか。


 精霊樹が……蘇った。

 ホッとした途端、足の力が抜けてその場にへたりこんだ。


 精霊樹を傷つけたミルドレッド嬢……。

 精霊樹を救ってくれたマリアーナ嬢……。


 ミルドレッド嬢は、本当にジークの想い人なのだろうか?

 もし、そうだとしても、私はあの娘を許せるのだろうか? 

 嫁として迎え入れることができるのか?


「私は……まちがえたのだろうか?」


「父上……まずは、マリアにお礼の言葉を言ってあげてください」


「そうだな……戻るとしよう」




 **********



「何? マリアーナ嬢達がすでにこの屋敷を出ただと?」


「はい。侯爵様の言いつけどおりに、侍女に伝えて出ていったそうです」


 カシュパルの言葉に、言いしれぬ罪悪感が広がる。


 里帰りの件は今日の朝伝えたのだ。

 そして、昼には、この屋敷を後にしたということは、そんなにここに留まるのが嫌だったに違いない。


 それも、そうか……。

 散々嫌がらせをしたうえに、ミルドレッド嬢の件では、不快な思いをしていたことだろう。

 マリアーナ嬢と顔を合わせないようにベックマン親子を領地観光に連れ出したが、考えてみれば、それも嫌がらせと捉えているかもしれない。

 なんせ、マリアーナ嬢には、この領内を案内することすらしてないのだから……。


 これは、ジークを早いところこちらに呼び寄せ決着をつけるしかない。



 ==============




 ジークフィードside




 ガイモンが仕事の休憩に入ったので、俺達もそのタイミングで工房のダイニングに腰掛ける。

 いつものように、メアリーがお茶を入れてくれる。


「ねえ、メアリーちゃん。僕の髪型おかしくない? この色のシャツは似合ってる?」


「はい、はい。大丈夫ですよエリアスさん。どこもおかしくないです。っていうか、エリアスさん、そわそわし過ぎですよ」


 そうだ。なんでエリアスがソワソワしてるんだ。

 帰ってくるのは、俺の婚約者だぞ。

 なぜか、エリアスの浮かれ具合に不愉快になる。


「ほら、ジークさんを見習ってください。とても落ち着いて……ないですね。あの、何杯紅茶に砂糖を入れるつもりですか? ジークさん?」


 はっ! 入れすぎた。


 どうやら、俺もマリアが帰ってくることに浮かれているようだ。



 あと1時間ほどで到着すると、連絡が来てから30分は経っただろうか?

 落ち着かないから、クラウドが着地する中庭で待つことにするか。


 俺と同じように考えたエリアス達も立ち上がる。

 結局、みんなで中庭に移動することになった。


「ジークさん。婚約者という立場に甘えたらダメだからね。マリアが不幸になると思ったら、僕は、遠慮なくジークさんからマリアを奪い取るから」


 やはり、エリアスはマリアに好意を持っていたんだな。

 俺自身、マリアのことをどう思っているか、わからないんだ。

 恋愛経験のない俺には、難しい。

 だが、マリアのことは、かわいいし、大切にしてあげたいと思っている。

 これは、恋愛感情なのだろうか?


 ただ……エリアスがマリアのことを想っているのを目の当たりにすると、なんだか胸がモヤモヤするしイライラする。

 この不快な感情は一体なんだろう?


 思えば、今日まで、ずっとマリアのことを考えて過ごしていたように思う。

 16日間もマリアの顔を見ていないなんてことは、護衛として出会ってから初めてのことだ。

 

 環境には、慣れただろうか? 寂しい想いはしてないだろうか?

 考えるとキリがない。

 まあ、赤い瞳の俺を育ててくれた両親だ。

 マリアのことも、自分の娘のように接してくれているだろう。 


 こんなに、誰かのことを考えるのは、界渡りの乙女であるマリナ以来ではないだろうか。

 今、マリアに向ける感情は、あのときのものと同じだろうか?


「あ! 来ました! クラウドが見えました!」


 メアリーの言葉に俺は上空を見上げる。

 クラウドが徐々に低空飛行を始め、そろそろ着地するかと思われる瞬間にふんわりと舞い降りてきた人影があった。


 ん? マリアか?

 長い髪をなびかせて、まっすぐに俺を目掛けて走って来る。

 

「ジーク様! ただいまです!」


 そう言いながら、俺の腕の中に飛び込んで来たマリア。

 俺だけに向けられた言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「お、おう! おかえり!」


 そう言いながら頭を撫でると、少しはにかんだような笑みが返ってきた。

 こ、これは……可愛すぎるだろ。



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