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聖獣様の遠吠え

 オレリア・トライアン侯爵夫人side


「ワオーン!!!」


 突然の大きな声に、手にしていたカップを落としそうになる。


「な、何事なの?!」


 振動で部屋の壁や天井がミシミシと音を立てる。

 こ、これは、聖獣様の遠吠え……?


 聖獣様は、マリアーナ嬢と一緒のはずだわ。

 そのマリアーナ嬢は、この時間、マーサと勉強部屋でトライアン家の歴史について教授されているのよね。


 何かあったのかしら?

 そう考えているところへ、ドアをノックする音が。




 「奥様。マーサです。お話したいことがございます」


「あら、マーサ。どうぞ、お入りなさい。聖獣様になにかあったのかしら?」


「……申し訳ございません。マリアーナ様の怒りが聖獣様に共鳴したようで、このような事態に……」


「まあ、そうなのね。聖獣様を怒らせるのは得策ではないのだけど、仕方ないですわね。この事態を利用してこのトライアン家の家風にそぐわないということを彼女に突きつけてあげましょう」


「大丈夫でしょうか? 今にも奥様のお部屋に突撃する勢いでしたが……」


「そう。では、なおのこと、マリアーナ嬢を呼んできてちょうだいな」


「……わかりました。あの、奥様。聖獣様の怒りをかって、ある国は国土の半分を吹き飛ばされたことがあるそうですが……」


「ああ、その話はね。聖獣様と主の絆が突然絶たれた場合のことよ。つまり、マリアーナ嬢の身が安全なら大丈夫よ」


 これで、ジークのことを諦めてくれればいいのだけれど……きっと、ジークを選んだのも、『赤の賢者の真実』がきっかけでしょう。

 あの本によって、赤い瞳の男性が注目され始めたのよね。


 わたくしとて、マリアーナ嬢のことが憎いわけではないのよ。

 使用人達への態度から見ても、とても良いだと思うわ。


 けれど、王城騎士団総団長の娘、宰相の姪という立場を利用し、国王陛下を動かして、ジークが断れない状況を作ったことは事実。

 そんな状況でなければ、息子の嫁として可愛がったはずよ。

 ですが、ここは、ジークの幸せのために、母親として毅然と立ち向かわなければ。




 **********




 マリアーナside


 怒り心頭のまま自分の部屋に帰って来た私。

 何度か侍女さん達が、様子を見に来たが一人にしてほしいと追い返した。

 あれから、ベリーチェはヨランダさんとルー先生が来るまで喋らないと、ソファーでふて寝。

 それに倣う形で、シュガーとクラウドもヘソ天スタイルで転がっている。

 そうして部屋にこもること十分。

 

 ヨランダさんが慌てた様子で私の部屋にやってきた。


「何があったのですか? マリアお嬢様」


「ヨランダさん。とりあえず、ルー先生も揃ったらお話しますね」


「マリアお嬢様。再三申し上げておりますが、ヨランダと呼び捨てにしてくださいまし」


「あ、はい。そうでした。ヨランダ」


 そう答えるとヨランダは優しい笑顔を向けてくれた。

 冷たい印象の美貌が、途端に慈愛の女神のようになるから不思議だ。

 その二十分後、ルー先生が帰ってきた。


「マリア。シュガーの遠吠えに驚いて駆けつけた。一体何があった?」 


「ヨランダにルー先生。来てくれてありがとうございます」


 「まず、ベリーチェの話を聞いてください。さあ、ベリーチェ、ヨランダとルー先生が来たわよ。話してちょうだい」


 それぞれソファーに腰掛けながら、ベリーチェの言葉を待つ。


「ここのひとたち、いじわるでしゅ」


「何かされたの? 誰が、ベリーチェ達にひどいことをしたの?」


「ベリーチェたち、ちがいましゅ。マリアにでしゅ」


 わ、私?

 何か、意地悪されたっけ?


 ベリーチェの話によると、わざとルー先生とヨランダを私から引き離したこと。

 最初に出された料理が、とても侯爵家の料理ではなかったこと。

 お風呂がわざと温く用意され、おまけに体を洗う介助の侍女がつかないこと。

 それがすべて私に対する意地悪だという。

 今までは、私が楽しそうに過ごしていたから言わなかったと。


 そして、先程のマーサさんとのやり取りで、ベリーチェ達の怒りが爆発したらしい。

 そこまでの話を聞いて、ヨランダとルー先生が目を見開いて私を見る。


「マリア。それは、事実なのか?」


「えっと……事実なんだけど、意地悪されていた自覚がなかったわ」


 何しろ前世は一般庶民。

 ぬるま湯も自分で快適温度に変えられるし、お風呂の介助なしも、かえってありがたかったのは事実。

 シンプルなジャガイモごろごろスープも、あまりの美味しさに感動すらしたし。


「わ、私が至らぬばかりに、マリアお嬢様がこのような扱いを受けていたことに気が付かず、申し訳ありません! マリアお嬢様がいつも笑顔で過ごされていたのでまさか、そのようなことになっているとは……」


 げっ、ヨランダが顔面を蒼白にしながら泣き出した。


「マリア済まなかった。オレも、いくらマリアが了承したからといって、警備団の訓練に参加している場合ではなかった。オレは、マリアの護衛兼聖獣の世話係だったのに……」


 ルー先生まで、うつむいて悔しそうに拳を震わせる。


 そこで改めて、自分のここでの扱いが粗末なものだったことを認識。

 うむ。そうなると、私ってここの皆様に嫌われているってこと?


 あ、ちょっとダメージがきた。


 ジーク様のご実家の皆様とは、うまくお付き合いしていきたいんだけど、理由無く嫌われるのは納得いかない。

 もし、何らかの理由があるなら聞きたいし、それが理不尽な理由なら徹底抗戦だ。


 そこへ、ノックの音が。


「マリアーナお嬢様。侯爵夫人がお呼びです」

 

 マーサさんが呼びに来た。

 ちょうどいいわね。

 では、直接対決と行きましょう。





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