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ありえない噂

「マリア! 無事で良かった!」

 

 王城の廊下を走ってくるのは、ジーク先生だ。

 

 やつれた顔の中でルビー色の瞳が、キラキラと光を反射している。

 

 な、何という、破壊力。

 心臓が持たない。

 

 そんな、ジーク先生を前に私はある決心をする。

 今の私の辞書には、『後悔』という文字はないのだ。

 

 「ジーク先生。ご心配をおかけしました。これから陛下との晩餐に行ってきます。その間、ジーク先生は食事を取って、休んでください。色々なことが片付いたら、私の話を聞いてくださいね」

 

 そう、言いながらジーク先生の頬にそっと手を添えて癒やしの術を発動する。

 目を丸くするジーク先生がかわいい。

 

 「「こほん」」

 

 お父様とアンドレお兄様のわざとらしい咳払いに苦笑しながら、ジーク先生と別れて晩餐会場まで急ぐ。

 

 先程、アンドレお兄様から聞いた私に関する噂……。

 ありえないことに、ナンカーナ皇国では私が、皇太子の婚約者になれなかったことにショックを受けて部屋に引きこもっていることになっているらしい。


 ナンカーナ皇国の皇族側もその噂を否定しているが、私の拉致事件を表沙汰にするわけにもいかず、いまいち説得力がない状態とのこと。

 そこには、嫁入り前の貴族令嬢の醜聞になりかねないという配慮があるんだけどね。


 そこへ、私に関する新たな噂の情報が、陛下のところに来たみたいなのよ。


 サクッと聞いてきましょう。

 

 


 

 **********

 



 ただいま、クラウドに乗ってナンカーナ皇国へ向かっているところ。


 昨日の陛下との晩餐会で聞かされた私に関する新たな噂……。

 なんと、私の自殺説が浮上しているらしい。


 ありえない。

 寿命を全うすることが目標のこの私が、自殺なんて。


 その噂を払拭するために、日がまだ昇らない早朝から行動している。


 ナンカーナ皇国から私の捜索に当たってくれた、お父様、アンドレお兄様、ジーク先生にゴットさんとドミニクさん。

 それに私のお世話のために来てくれたランとナタリーも一緒。

 それぞれ飛竜に乗って飛行している横を、ベリーチェを背中に乗せたシュガーも並走している。


 体長3メートルになったシュガーは、どこから見ても立派な聖獣に見える。





 ナンカーナ皇国の騎士団の訓練場に無事到着。


「マリア! 無事で何よりだ」


 先触れとして、ラインハルト殿下に通信でお知らせしていたので、待っていてくれたようだ。

 こんな早朝に申し訳ない。


 ルー先生とエリアス先生も揃っている。

 うわっ、二人共酷い顔してる。

 それだけ、心配してくれたってことね。


「ラインハルト殿下、我が娘、マリアーナの件でご尽力くださり、ありがたく存じます」


 お父様の後ろに立って私とアンドレお兄様も頭を下げる。


「頭を上げてくれ、リシャール総団長。元はと言えば、狂乱の魔女拘束の情報に踊らされて、マリアのそばを離れた僕が悪いんだ。エスコート役失格だ。さあ、神殿に急ごう。皇帝陛下とエレウテリオ殿下が舞台を調えた。うるさい貴族の相手は、第二皇子と第三皇子が引き受けてくれることになっている」


 なんだかね。

 お披露目会が閉会してからも、皇宮に部屋を確保している上級貴族や熱狂的な女神信仰貴族達が、私への面会を要求して騒いでいるらしい。


 これから私達はどこに行くのかというと、皇宮の神殿。


 私が寝込んでいた間、拉致事件の落とし所を思案してくれていたらしい。


 そこでできた筋書きが、私が神様の導きにより、神殿に足を運んだ際に祝福を頂いたというもの。

 ベリーチェ達が、聖獣に進化したのを利用するつもりなのだ。


 もともと、新年の祝賀会で私の『異世界の神の加護』を発表することになっていたので、それをちょっこと前倒しにすることに。


 拉致事件で、動いていたのがシャーナス国勢のみだったのが幸いだったみたい。


 指揮を取っていたのが、ラインハルト殿下だと聞いて驚いた。

 今後は、関わり合いたくないと密かに思っていたけど、感謝しておこう。


 神殿までの道すがら、ラインハルト殿下が、皇宮で拘束した偽イリスと三人の聖騎士の話をしてくれた。


 なんと、偽イリスの正体は、貴族用の拘束塔にいたはずの元大聖女、オデット・バルテル嬢だった。

 

 あのサンタ教皇が乱入した騒ぎで、騎士団の人員がそちらに回された隙をついて塔から連れ出したようだ。


 そして、黒魔術で作成した姿写しの魔法薬を服用させて替え玉として仕立て上げた。

 偽の三人の聖騎士も、同様に港町でうろついていた破落戸を利用した。


 魔導具や魔法で、髪色や顔を変える術は、優秀な魔導師なら纏わせている魔力を感知することで見破ることができるが、体の細胞から完全コピーする姿写しの魔法薬は、看破することができないらしい。

 それは、百年以上も前に禁術とされた黒魔術について、知識がないことも要因だった。


 なので、偽イリスが捕まった時に立ち会ったエリアス先生は、姿変えの魔導具や魔法は感知できなかったことから、本物だと断定、精神操作のような特殊魔法の形跡もないことからエリアス先生は早々に尋問の部屋から退室したようだ。


 その後、偽イリスの尋問の様子をラインハルト殿下から聞いたことにより、事態は一転。


 彼女は、舌に『イリス』という名前しか言えないように、パッシブの術が刻印されていたらしい。

 それは、捕まった偽聖騎士の三人もだった。


 私がシャーナス国の王城で寝込んでいる間に、本物のイリスと仲間の聖騎士、神殿長と、我が国の騎士団に潜り込んでいた騎士がこちらの国に護送されていた。


 今は、事件の全貌を聞き出すために尋問中だ。

 まあ、私的には、彼女たちの罪を明らかにして厳重に処罰をしてくれれば良い。


 さてと、もうすぐ神殿に着くわね。

 華々しく、聖獣になった、ベリーチェ、シュガー、クラウドのお披露目といきましょう。




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