主役は最後に登場なのだ
やべーでござる。遅刻でござる。
チェスターと話し込んで、支度が遅れてしまった。
ご一緒するエメライン様まで、待たせてしまって本当にすみません。
馬車に乗り込み出動です。
例によって、ヨランダさんはベリーチェを膝に乗せ、お揃いの侍女服着用。
一緒に侍女のお仕事をやる気満々らしい。
ナタリーは侍女兼護衛で今日は白い騎士服。
髪はポニテールで纏めて、とってもカッコ可愛い。
私は真紅を基調としたジャガードのドレス、エメライン様は、ラベンダーを基調にアクセントに金色のレースを使ったサテンのドレス。
今は変身の指輪で髪色と瞳を変えている。
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「おまたせしてしまい、申し訳ございません。マリアーナ・リシャールと申します。どうぞ、マリアとお呼びください。バルリング子爵家の皆様、ご招待をお受けくださり感謝いたします」
会場入り口でご挨拶。
エメライン様は隣のお部屋で待機中。
主役は後で登場なのだ。
ふふふ、ご両親も妹さんも驚くだろうな。
感動の再会を演出しましょう。
おお? なんだか、強い視線を感じる。
アンドレア様から、めっちゃにらまれているような?
あ、遅れたから怒っている?
そっと視線を向けると、彼女のお皿には数個のケーキと焼き菓子が乗っている。
ああ、そうか。食べるのを中断させてしまったから怒っちゃったのね。
わかるわ〜
今、食べようとしてたのに口に入れられない悲しさ。
エレウテリオ殿下の執務室に潜入したとき以来ですが、お元気そうでなりよりです。
ほら、アンドレア様って、アンドレお兄様と名前が似ているから他人とは思えないんだよね。
その気持を込めてニッコリと笑顔を向ければ、驚いたように目を大きくする。
いつの間にか隣に来たランから、私が来るまでの報告を受ける。
どうやら、ランがうまいこと言ってその場を収めてくれたようだ。
感謝です。
着席をすると、ベリーチェがトレイに人数分のティーカップを乗せてよちよち歩いてきた。
皆さん、ベリーチェに目が釘付けだ。
「おちゃ、どうぞでしゅ」
テーブルに乗せるのは、ヨランダさんだ。
ほぉ……。
どこからともなく、安堵のため息が漏れる。
ああ、ベリーチェがちゃんとお茶を持っていけるか皆さん息を潜めて見守っていたのね。
なんだか、デジャヴ。
「あの、マリア様。皇太子殿下の元婚約者の家族に何の御用がお有りなのですか?」
「こ、こら、アンドレア。何という物言いだ」
柔和なイケオジの言葉に、アンドレア様がキッと目を向ける。
「お父様。ここは言わせていただきます。あのような脅迫状を受け取って黙っているなんて、私はできません」
「脅迫状?! バルリング子爵家に脅迫状が届いたのですか?!」
「ええ。あのような脅迫状には屈しません。皇太子殿下と姉が想い合っていたのは事実なんです。それをなかったことになんかさせません。今でも皇太子殿下は、姉のことを想っているはずです。私達家族に圧力をかけるようなことをしても無駄ですわ」
脅迫に圧力だと?
どこかから、エメライン様の情報が漏れた?
思わず、エメライン様の護衛騎士の三人に視線を向けると、揃って首を振る。
エメライン様が、変身の指輪を外して本来の姿を見せたのは、護衛騎士の三人の前と皇帝陛下と皇后陛下の前だけだよね。
「あの、アンドレア様。そうなると、早急に対策を立てなくてはなりませんね。これは、想定外でした。私の考えが甘かったのでしょう」
「た、対策? ま、まさか、このお茶会に私達家族だけ招待したのはこのルビー宮に留め置くためですの?」
「はい。バルリング家の皆様には、こちらのルビー宮で過ごしていただきたいと思ってます。そのほうが、秘密を守れますから。早速、警備の人員を増やすことにします」
「ここに……監禁……」
ん? カンキン? 空耳か?
「そ、そんなことが許されると思っておりますの?」
「ええ。大丈夫です。皇后陛下のお許しを頂いておりますので。あ、でも皇太子殿下には、内緒なんです」
そう言うと、なぜか、バルリング子爵様、夫人とアンドレア様の三人が青い顔をして震えだした。
え? そんなに恐れ多い感じ?
「皇后陛下はお優しい方です。私も実の娘のように接して頂いておりますし」
「実の娘……そんな……では、姉は……」
「あ、エメライン様に早くお会いしたいですよね?」
「マリアーナ嬢。ま、まさかと思うが、エメラインの居場所をご存知なのか?」
「はい。実は、エメライン様の身柄は、私がお預かりしております」
「み、身柄を……あ、預かっているだと?」
「ええ、そうです。以前のお姿と違いますから、お会いしたらきっと、驚きますよ」
「そ、そんな……あ、あなた、姉に何を……」
ん? 義足を作っただけですよ。
まだ、エメライン様のお姿を見てないのに驚くのが早くない?
ガタン!
あ、あれ?
バルリング子爵夫人が椅子から落ちた?
「お、おい! アンネッタ! 大丈夫か?!」
「きゃー! お母様!」
何事だ?!
この騒ぎが隣に待機中のエメライン様の耳にも届いたようで、慌てたように部屋に飛び込んできた。
「どうされました?! お母様!」
父親と妹を押しのけて駆け寄ったエメライン様の姿に今度は驚きの声が上がる。
「エメライン?!」
「お、お姉様?!」
その声に反応したのは気絶寸前だったバルリング子爵夫人だった。
「エ、エメライン……い、生きてたのね……」
え? 死んだと思っていたの?
「こ、これは、どういうことなんだ? エメラインが生きている。それに、足が!」
だから、なんで、死んでることになってるの?
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ごきげんよう。
誘拐&殺人犯のマリアーナ・リシャールです。
私の目の前には、ひれ伏しているバルリング子爵家の皆さんが。
「あの、もう頭を上げてください。誤解をしていたことはわかりましたから」
「「「本当に、申し訳ございません!」」」
私の横では、ダレル、マイルズ、シリルが俯きながら肩を揺らしている。
笑っているのは、バレバレだぞ。
なんだかね、私が皇太子妃の座を得るために邪魔なエメライン様を誘拐し殺害、目障りなバルリング子爵家もろとも葬ろうとしていると。
妄想がすぎるでしょう。
さすがのエメライン様も、一緒になってひれ伏してますよ。
このままでは、埒が明かないので、とりあえず皆さんに席についてもらった。
そして今までの経緯を話、明日の段取りを説明してやっと一息。
最後には、私の呼び名は『救済の女神様』になっていたよ。
殺人犯から一気に出世した。
さあ、バルリング子爵家の皆様には、こちらの宮で過ごしてもらって、明日の大行事に備えてもらいましょう。




