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狂乱の魔女の肖像画

 皇后陛下から、『狂乱の魔女』の肖像画を手渡された次の日。

 私はシリルの元を訪ねた。


「どう思います? これって、逃亡中のイリスに似てませんか?」


「似ているというか、本人だと言っても過言ではないような……色褪せているから髪の色と瞳の色の判別が難しいが。いや、まさかだよな? 狂乱の魔女って180年前の人だもんな」


 そうなんだよね……。

 でも、イリスに似ているのがとても気になるんだよね。


 今、この時点でイリスの顔を認識できるのが私とシリルだけ。

 私達の会話を近くで聞いていたマイルズとダレルも、肖像画を覗き込む。


「あれこれって、団長の婚約者に似てるな。年齢が違うけど」


「本当だ。あの女性の少女時代って感じだな」


 団長の婚約者?


 その途端、頭の中でこれまでのことがグルグルと回りだした。


 ああ、なんてことだ。

 私達は思い違いをしていたんだ。


「只今から、緊急会議を開きます!」





 **********

 

 

 

 

 

 皇宮の談話室に集まったみんなの顔を見渡す。

 シャーナス国勢にエメライン様勢。

 

 部屋の片隅ではベリーチェ、シュガー、クラウドがボール遊びをしている平和な情景が展開中。

 

 そんな中、今から私は、重大発表をいたします。


「どうした? マリア。何か問題が起こったのか?」


 ジーク先生の言葉に、私は神妙な顔で頷いた。

 

「はい。重大な発表があります。狂乱の魔女は、生きてます」


 シーン……。


 あ、あれ?


「狂乱の魔女は、生きてます」


 大事なことなので、二回言ってみました。

 

 なんだ、この沈黙は?

 その、可哀想な子を見る目はおやめなさい。


「これ見てください。狂乱の魔女の肖像画です」


 テーブルの上に肖像画を置くと、シリル、マイルズ、ダレル以外の人たちが身を乗り出して覗き込む。


「「「それで?」」」


「今逃亡中のイリスに、そっくりなんですよ。これはシリルさんも証言してくれています」


 一斉に視線を向けられたシリルが、コクコクと頭を縦に振る。


「「「だから?」」」


「それだけじゃないんです。聖騎士団長の婚約者にも似ているんです。年齢が違いますけどね。皆さん、狂乱の魔女に関する最後の報告書の内容を、覚えてますか?」


「俺が読んだんだ。覚えてるよ『狂乱の魔女は、時を止める術を使っているのかも。私達が年老いて行くなか、彼女は若いままなのです』っていう内容だ」


「それです。時を止める術ではなく、彼女は、世話係の侍女たちの若さを奪って、生きながらえていたんです」


「「「「! 何だって?!」」」ですって?!」」」


 部屋中にみんなの声が響いた。


「若さを奪うといえば、私達の身近にもあったじゃないですか。夏にアルフォード辺境伯領で起こった事件です。呪詛の卵をジョアンヌ嬢に売りつけ、若さを奪った術師がいました。同様の手口で、三年前にもリリーの義姉の若さを奪ってます。狂乱の魔女の後継者なんていなかったんです。だって、本人が生きているんですから」


「呪詛の卵……その術師が狂乱の魔女? 180年の時を生きながらえるなんて、そんなことができるのか?」


 ジーク先生のつぶやきにエリアス先生が声を上げる。


「高レベルの黒魔術師なら可能だと思うよ。呪詛は、黒魔術の一種で、人道的観点から我が国では禁術とされているけど、それもここ150年の話だ。でも、奪った若さを自分の体に取り込んで維持するにはある程度の魔力が必要になるんじゃないかな」


「狂乱の魔女って、確か、魔力の8割を封印されているんだよな? だから、繰り返し若さを補給する必要があるってことか。この一連の事件は、狂乱の魔女の復讐なのか?」


 ルー先生の言葉に、思わず呟いた。


「単なる復讐なら、もっと前に実行していると思います。それこそ、世話係兼監視役の侍女がいなくなった時点で。彼女は『誓約の呪縛』で守られていましたから。もっとなにか違う理由が……」


 何かを、見落としている?

 そういえば、私が魔力を封じた魔石の行方をたずねたとき、ベルナード殿下はなんと言っていた?



『ああ、それならこの皇宮の隠匿の部屋に保管してある。皇族しか開られない部屋にね』


 皇宮の隠匿の部屋……皇族しか開けられない部屋……それだ!

 

「魔石です! 皇族しか開けられない隠匿の部屋に、彼女の魔力を封印した魔石が保管されているんです。おそらく、狂乱の魔女は、封印された自分の魔力を取り戻すために一連の事件を引き起こしたんじゃないでしょうか。そのために帝国人と手を組んだ?」


 私のその言葉に、ジーク先生が頷きながら声を上げた。


「なるほどな。今、帝国では三人の皇子が次期皇帝の座を巡って対立しているらしい。そのうちの一人と手を組んだ可能性が高いな。お互いの目的のために、協力関係を結んだと言ったところか」

 

「あ、あの皆様。この事実は、早々に皇族の方々に通達した方がよろしいかと。狂乱の魔女の目的に、皇族の方々への報復も含まれているかもしれません」

 

 ヨランダさんのもっともな意見にみんな頷く。

 さあ、狂乱の魔女を迎え撃つ準備をいたしましょう。

 


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