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推測の裏付け調査①

「では、皆さん、報告会を始めます」

 

 ここは、皇宮の談話室。

 私の部屋の応接間では、全員座れないのでこの部屋をお借りしました。


 表向きは、親睦会。

 丸テーブルをみんなで囲む。

 私達シャーナス国勢と、エメライン様、エメライン様の護衛のシリル、ダレル、マイルズ、そしてヨランダさんにベリーチェ達も一緒だ。


 ベルナード殿下から外出許可が出たあと、私達はそれぞれグループ分けして推測の裏付け調査に乗り出した。

 

 まずは、港の検問所の出入国記録の確認。


 馬車の事故に関与したと思われる聖騎士達の家族の足取りを、知りたいため。


 出入国記録は、三年間保管するそうなので、一年半前の記録は残っているはず。


 この調査には、私が行きたかったんだけど……。

 さすがに、皇都から出ることは禁止されてしまった。

 だから、代わりにジーク先生、ルー先生、エリアス先生にお願いした。


 港町はここから馬車で5日の距離。

 でも、白竜のクラウドなら一飛なのだ。


「じゃあ、まず俺たちの港の検問所で調査した結果を報告しよう」


 そう言ってみんなの顔を見渡したのは、ジーク先生だ。


「乗船の際は、必ず本人の証明書が必要なんだ。ギルドカードや商人通行書、結婚証明書、出生登録書などだな。エメライン様の馬車の事故前の日付、一週間前から調べたが、聖騎士達の子供や奥方の名前は見つからなかった。だが、怪しい記録は見つけたぞ」


 その言葉と同時にルー先生が記録簿の写しを見せてくれた。


「ほら、ここ。馬車の事故の3日前だよ。この日だけ、船に搬入した積荷の数よりトリガナ帝国で降ろした積荷の数が一つ少ないんだ。帝国の商会の積荷なんだけど、そのことを検問所の管理者に指摘したところ、商会から特に苦情は来なかったようだから単なる数え間違いだろうと気にしていなかった。そして、これが、事故後に聖騎士達が船に乗った記録だよ。ここに、三人の聖騎士の名前と、それぞれの奥さんの名前がある。でも彼らの子供の名前がないんだ」


 つまり……三人の子供は事故の3日前に積荷として船に乗せられた?

 私の小さなつぶやきが、エリアス先生の耳に届いたようだ。


「そう。マリアの推測通りだね。五歳から三歳の子供達だ。連れ去るときに騒がれたら面倒なことになるし、子供達の顔見知りに会ったら厄介だからね。おそらく、薬で眠らせて商会の積荷として乗せられた。そして、薬の効果が切れたところで積荷から出したんだ。残った空箱は、夜の海に投げ捨てたってところかな」


 なるほどね。

 これで、元聖騎士の三人は子供を人質にされて、犯行に及んだことが裏付けされたわけだ。

 まあ、状況証拠にすぎないけどね。


「それで、マリアの方はどうだったの? 皇都の神殿で神殿長に会ってきたんだよね? エレウテリオ殿下と一緒に。馬車で30分の距離なのに二人で怪鳥に乗って行ったんだってね」


 なんだか、エリアス先生の圧がすごい気がすけど、気のせいだろうか?


「えっと、その怪鳥はエレウテリオ殿下のペットなんです。最近かまってやれてないからと、アンジェリーヌの散歩がてら一緒に? そ、それに、ランとナタリーも一緒に神殿に行きましたよ?」


 な、なにこの気まずい空気は?

 だって、ベルナード殿下が、エレウテリオ殿下と行動をともにしろって。

 はっ! エメライン様が変に誤解したらどうしよう。

 そっと視線を向けると、純真無垢な微笑みを返された。

 大聖女様は、器が大きい。


「アンちゃんは、こどもがしゅきなんでしゅ。だから、マリア、せなかにのるとよろこぶ!」


 ベリーチェのフォローに軽くダメージを受ける。


「ジーク先生、なんで頷いてるんですか? あのですね、私は、子供ではありません。淑女です!」


 ベリーチェのモフモフの頬を両手でつまむと、横からヨランダさんがベリーチェを抱き上げて膝に乗せた。


「マリア様。ベリーチェの冗談でございます。それで、神殿長に聞きたいことは聞けましたか?」


「それが、聖騎士の交代は教皇の指示だと言っていました。将来の皇太子妃の周りに独身の聖騎士を置くのは感心しないと言われたそうです。大聖女として、皇太子妃として、誰にも後ろ指をさされないように、周りを整えて差し上げるのが我々聖職者の役目だと」


「「「教皇が?」」」


 そうなんだよね。

 あの教皇が言う言葉とは思えないんだよね。

 だって、そんな事言う人が、自分の孫娘の周りに独身聖騎士が仕えることを容認しているなんてね。しかも五人も。

 皇太子殿下の婚約者にと、躍起になってたよね。


「大聖女様の聖騎士の規定を無視して五人の聖騎士が仕えていた理由も、教皇の意向で逆らうことができなかったらしいです。でも、あの神殿長、そんな圧力に屈するような感じの人じゃないんですよね。あ、シリルさん達は、神殿長のこと知ってますよね?」


「ああ。確かに、あの神殿長が教皇に逆らえないなんておかしいかも。どちらかと言うと、教皇のことを見下している印象だ」


「それ、俺も感じてた。そもそも、あの教皇って、エメライン様が大聖女になる少し前に就任したんだよな。」


「俺、噂で聞いたけど、神殿内では、教皇よりも神殿長の方が権力を持っているらしいよ」


 シリル、ダレル、マイルズの言葉にランが口を開いた。


「教皇様は、隠れ蓑に使われたのかもしれませんね。気になってたんです。マリアお嬢様が、教皇様のことお尋ねになられたとき、神殿長は『尊敬する教皇様がまさかこのような事件を起こすなんて、残念です』と、仰ってました。事件を起こしたのは、イリスという侍女と三人の聖騎士です。ですが、神殿長のその言葉は、まるで教皇様が黒幕だと私達に印象付けました。わざとそうしたんじゃないかと……」


 ランの言葉に『ミスリード』という単語が頭に浮かぶ。


「あ! それ、私も思いました。あのとき、『残念です』といいながら、俯いたんですけど、笑っていたんですよ。すごい違和感がありました」


 ナタリーのその言葉で、ランの考えに信憑性が増す。

 確かに、あの威張るだけしか能がないサンタ教皇が、数年前から計画されていたであろう一連の事件を指揮しているなんて到底思えない。


 今、行方不明なのももしかしたら、本当の黒幕に捕らわれているからと考えるのが妥当かも。


 青い瞳に、長い金髪を一つにまとめた冷たい美貌の神殿長。

 名前は、バルトルト・ロイスナー。伯爵家の三男坊。

 三十代前半で皇都の神殿長というのは、大出世だという。

 要注意人物として認識しておきましょう。




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