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独身の聖騎士と既婚の聖騎士

 エメライン様の護衛の件で元聖騎士の三人の快諾を得られたのもつかの間。

 

 行方不明とされているエメライン様が、私の部屋にいるのをヨランダさんに見られてしまった。

 

 悲鳴を上げそうになったヨランダさんを、片手チョップで気絶させたジーク先生。

 倒れ込んだヨランダさんを、抱きとめてソファに寝かせるルー先生。


 横たわるヨランダさんの手を後手に縛るラン。

 そのあいだに両足を縛るナタリー。

 どっから出した? そのロープ。

 

 一瞬の連携プレーに唖然とする元聖騎士の三人。

 

「す、すごいな。あっという間に拘束完了だ」

 

 ダレルがそう言うと、マイルズがランとナタリーに視線を向けながら口を開く。

 

「えっと、お二人は侍女ですよね?」

 

「はい。マリアお嬢様専属の侍女のランと申します。こちらはナタリーです」

 

「専属侍女……侍女の仕事って……俺が勘違いしてるのかな?」

 

 シリルのその言葉にランが笑顔で答える。

 

「これくらいは、侍女の嗜みでございます」

 

 いや、それ絶対に違うから。

 

 とりあえず、ヨランダさんが気絶している間にみんなで相談。

 こうなったら、彼女も秘密を共有する仲間としてこちら側に引き込むしかないということで一致。

 

 そうと決まると、情報交換だ。

 自己紹介がてらお互いに今までのことと、エメライン様がなぜ身を隠しているかなどなど。

 

「あ、あの。マリアーナ様。先程の俺の無礼な態度をお許しください。そして、エメライン様の足の治療と、身の安全を確保してくださり、ありがとうございます」

 

 シリルが頭を下げながら言う。

 その後ろで、ダレルとマイルズも頭を下げる。

 

 「マリアと呼んでください。言葉遣いも改めなくていいですよ。私の方が年下ですし、そもそも私はこの国の聖女じゃありませんから」


「それは、助かる。敬語は苦手なんだ。あ、でも時と場所でちゃんと使い分けるから。皆さんも、俺たちのことを、気軽に呼んでほしい」


 シリルの言葉に頷いて、疑問に思っていた件を聞いてみた。

 彼らが、エメライン様の聖騎士を解任されて、それと交代して既婚者の聖騎士が就任した一件だ。

 

「それなんだが、神殿騎士になって色々と調べたんだ。忠誠の義は聖騎士にとって魂をかけた誓いだ。それを反故にするような規定はどこにもない。たとえ婚約者が皇族であってもだ。だから、なぜ俺達が解任されて、代わりに彼らが聖騎士に選ばれたのか理由がわからない」

 

 ふむ。

 

「聖女様たちの聖騎士の就任と解任を取り仕切るのは、誰なんですか?」

 

「聖騎士団の団長だ」


 教皇じゃないんだ。

 あ、ちなみに、教皇は今行方不明らしい。


「だが、その当時、団長は体調不良で療養していて、権限は神殿長に委ねられていたんだ」

 

 シリルのその言葉に、ダレルが思い出したように声を上げる。


「そう言えば、その当時、頻繁に団長を訪ねてきていたご令嬢がいたよな。それからじゃないか、団長が体調を崩して休み始めたのは」


「ああ、団長の婚約者と噂されていたご令嬢だよね。でも不思議と、団長の体調が良くなってからは姿を見せなくなったよね」


 マイルズの意見に同意するようにシリルが頷きながら口を開く。


「なあ、今逃走している侍女のイリスって、そのご令嬢に似てないか?」


「そうかな? 団長の婚約者はすごい美女だったよ。それと比べるとイリスってあんまり印象ないんだよな。正直、髪の色も瞳の色も思い出せないな」


「俺も。イリスはメガネだけが印象に残ってる」


「団長の婚約者もイリスも、ブロンドの髪にグレーの瞳だ。だが、年齢が違う。団長の婚約者は20歳過ぎの令嬢でイリスは10代後半ぐらいだからな」


「あの侍女のメガネは、認識阻害の魔道具だな」


 ジーク先生のその言葉に、私はうなずいた。


「シリルさんは魔力が多いのでちゃんと顔を認識できたのでしょう。私も彼女の顔を認識してます。艶のあるブロンドヘアにグレーの瞳が印象的な綺麗な少女でしたよ」


 私の言葉を受けて、ルー先生が口を開いた。


「でもそんなに似ているなら、血縁関係があるのかもしれないな。団長さんはその婚約者と結婚したのかい?」


「いや。それが、その令嬢が来なくなったことと、結婚したという話を聞かないものだから、俺らは、破談になったと勝手に思っているんだ」


 なるほどね。それは、聞きづらいものね。

 その団長が、いない間に神殿長が彼らの解任を決めたのか。

 

 それにしても、既婚者の聖騎士を選んだ理由か……。

 でも彼らは人格的にも問題がない人達だ。それどころか家族思いの優しい人達だと、エメライン様も言っていたし……。

 

 そこで、先程のシリルの言葉が頭に浮かんだ。

 彼は、あのときなんと言った? 

 

 『守りたい者もいないからな。脅しは効かない』

 

 ! そうか! 彼らは『守りたい者がいた』から、エメライン様の聖騎士に選ばれたんだ!

 

 

 

 「ん、ん〜ん」

 

 あ、ヨランダさんが目を覚ました。

 

 「な、ななな! あ、あなた達、私を捕らえて何が目的なんですか?!」

 

 だよね。

 この状態じゃ誰が見ても、私達のほうが悪者だわね。

 

 「ヨランダしゃん! 会いたかったでしゅ!」

 

 すかさず、ベリーチェが抱きつくと眉毛を下げた。

 その間に、説明するので騒がないでほしいと懇願しながら手と足のロープを解いた。

 

 そこで、エメライン様を私の部屋で匿っていた事、足もゴーレム義足で動くようになったことを説明した。

 

 私の話を、驚きの表情で聞いていたヨランダさんの瞳からポロポロと涙がこぼれた。

 

 エメライン様の手を握りながら、「良かった、良かった、本当に良かった」とつぶやくヨランダさん。


 ヨランダさんとエメライン様の再会の興奮が収まったところで、私は自分の推測を話した。

 

 「エメライン様の馬車の事故ですが、これは皇太子殿下の婚約者となったときから計画されたことでしょう。シリルさん達が独身だからという理由で聖騎士を解任されたのは、おそらく脅すネタがなかったからでしょう」

 

 「脅すネタ?」

 

 「はい。先程、シリルさんが言っていたじゃないですか。『他の者たちと違って、守るべき者がいない。だから脅しは利かない』って。だから、脅すネタのある人達が選ばれたんです。子煩悩な愛妻家達が」

 

 私の言葉でその場にハッと息を呑む気配がする。

 

 「誰に聞いても彼らは心優しい人格者という話です。とても故意の事故を起こして大聖女様を陥れるような人たちではないと。ですが、家族が人質に取られていたらどうでしょうか? おそらく彼らの家族は帝国に拉致されていた可能性がありますね。だから、事故の後、三人とも帝国に渡ったのでしょう。彼らを選んだ神殿長にもお話を聞きたいですね。あと、港の検問の出入国記録を調べましょう」

 

 

 

 

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