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誰が誰の護衛なの?

「もうすぐ大聖女様がお越しになるようです」


 そう言ったのは、皇帝陛下の専属執事のハヴェルさん。


 ここは、皇帝陛下の寝室。

 皇帝陛下は、天蓋付きのベッドの上に上体を起こして座っている。


 呪詛が浄化されてすっかり元気になった皇帝陛下だが、今日は大聖女様との面会なので、病気が完治していないフリをしているのだ。


 そして、私は侍女になりすまし部屋の片隅に待機中。


 ベッドの傍らには皇后陛下と近衛騎士が一人、ドアの付近に近衛騎士が二人控えている。


 これまでの調査の結果、大聖女様御一行にはとくに怪しい点はなかったということだが、私の勘がそれを否定する。


 皇帝陛下の呪詛には、大聖女様側の誰かが関わっているはずだ。


 念の為、皇帝陛下には、守護の魔石で作ったブレスレットとネックレスを身に着けてもらっている。


 ノックの音を合図に、部屋に緊張が走る。


 相変わらず派手な赤いドレスに身を包み、専属侍女と五人の聖騎士を従えての登場だ。


 私は、そっと五人の聖騎士達を観察した。


 その中でもひと際目を引くのは、二人の美青年。

 エメライン様が、大聖女の名を拝命した時に仕えていた聖騎士だ。


 赤い髪に濃紺の瞳のダレル・アンブラー。

 淡い水色の髪に薄茶の瞳のマイルズ・ブロック。

 どちらも平民で、二十歳。


 オデット様は当初、エメライン様の初期に聖騎士だった三名を自分の騎士に任命したが、三人ともその要請を断ったそうだ。


 しかし、その一ヶ月後にダレルとマイルズの二人は、前言を撤回しオデット様の聖騎士に名乗りを上げた。


 ちなみに、もう一人の元聖騎士の名前は、シリル・エアトン。

 シリルだけは、今も神殿騎士として皇都の大神殿で任務についている。


 ジーク先生とルー先生が集めてくれた情報によると、オデット様が一番ご執心だったのは、このシリル・エアトンだったらしい。


 噂によると、彼は平民でありながら膨大な魔力と、絶世の美貌の持ち主だという。


 結局、すでに三人の聖騎士が就任していたところへ、追加でダレルとマイルズの二名の就任が決まった。


 そんないきさつもあって、五人の聖騎士が仕えているというわけ。


 なんにしても、エメライン様の聖騎士から外されたあと、神殿騎士になったはずの二人が、なぜ新任大聖女のオデット様に仕えているのか……。

 何かしら、目的があるのか、ないのか?

 はたまた今回の皇帝陛下の呪詛に関わっているのか?


 そんなことを考えていると、大聖女であるオデット様の甲高い声が部屋に響いた。


「皇帝陛下! わたくしが来た以上もう大丈夫ですわ! あの隣国から来た能無し聖女では、なし得なかった陛下のご病気を完治させてみますわ!」


 むむむ。

 能無し聖女とは、私のことか?


 オデット様は、ベッドに座っている皇帝陛下の元に近づいた。


「大聖女殿。よろしく頼むぞ」


「お任せください。では、早速治癒魔法をかけますね。失礼いたします」


 そう言うと両手を皇帝陛下にかざし治癒の力を発動。

 その間、私は怪しい行動をしている者がいないか神経を集中した。


 今の所、普通に治癒魔法を発動しているだけで特に怪しいところはないわね。

 周りの聖騎士たちも遠巻きに見ているだけで誰も動かないし。


 まあ、どこも悪いところのない皇帝陛下には何の効き目もないけど、疲れは取れるでしょうね。


「どうですか? 皇帝陛下、ご気分は?」


「ああ、いつものように体がポカポカとしてきたな」


「まあ、汗が。お拭きしますね」


 そうオデット様が言うと、そばに控えていた専属侍女がハンカチを手渡した。

 オデット様はそのハンカチをそっと皇帝陛下の額に当てる。


「今日はいつもより汗が出ない気がするな」


 皇帝陛下のその言葉に、私はハッとした。

 汗……?


「ふふふ。きっと皇帝陛下のご病気が完治したのしょう」


 そう言いながら汗の拭い終わったハンカチを、専属侍女へと差し出すオデット様。


 私はしずしずと侍女の少女に近寄り声をかけた。


「そのハンカチはこちらで預かりましょう。後ほど、新しい物を大聖女様あてにお届けいたします」


「い、いえ。それには及びません。これも大聖女様の治療の範囲内の行為ですので。お気になさらずに」


 そう言って新しいハンカチでそれを包むとポケットに入れようとした。


 私は、さらに声を上げた。


「いけません。この部屋から、皇帝陛下に関する物は、持ち出すことは許されません。そのハンカチをこちらにお渡しください。それとも、渡せない理由がお有りですか?」


 すると、オデット様がため息を付きながら口を開く。


「もう、何言ってますの? 大げさな。たかだか汗を拭ったハンカチですのよ? ああ、はい、はい、わかりましたわ。イリス、そのハンカチはそちらの侍女に渡しなさい」


「で、でも大聖女様。こ、このハンカチは私の大切な物で……」


「そんなハンカチなんて、わたくしが新しいものを買ってあげますわ。ほら、早く渡しなさい」


 そう言いながら、オデット様はイリスという少女が持っていたハンカチを取り上げようと手を伸ばした。


「どけ!」


 ! な!

 一瞬の間に聖騎士の一人が、オデット様を突き飛ばした。


「きゃ!」


 倒れたオデット様。

 そのすきにイリスという少女を守るように三人の聖騎士が周りを固めながら出口へと進む。


「「待て!」」


 ダレルとマイルズはそう叫ぶと、仲間のはずの三人の聖騎士にむけて剣を抜いた。


 これって、どういう状況?

 誰が誰の護衛なの?


 イリスを守りながら先導する一人の聖騎士が、入り口で剣を構える近衛騎士に斬りかかる。


 そのすきにイリスは、扉を開けて部屋を出ていく。

 一人の聖騎士がその後を追い、もう一人が他の近衛騎士に斬りかかる。


 ダレルとマイルズは近衛騎士に加勢をして、聖騎士と剣を交えている。


「ダレル! お前は、イリス達の行方を追ってくれ!このままじゃ、逃げられてしまう!」


 マイルズがそう叫んだ直後、聖騎士の一人がボールのようなものを床に叩きつけた。


 途端に、部屋中を白い煙が充満する。

 煙幕?!


 とっさに口と鼻を押さえるが、体に力が入らなくなる。

 薄れゆく意識の中で、男の声が耳に届く。


『何者も、我々の計画を止めることはできない!』

 

 ナンカーナ皇国の言葉じゃない。

 これは、トリガナ帝国の言葉?

 計画って……なに?




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