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聖女なんて言ってませんよ

いつも、『いいね』や誤字報告をありがとうございます。

執筆活動の励みになってます。


読み返す中で、医師の名前が間違っていたのを発見しましたので、修正しました。

トナート→ドナートです。


これからもよろしくお願いします。

「ここは、怪我人がいるところでございます。お静かにお願いします」


 ドナート先生のその言葉に、サンタクロースは一瞬たじろいだ。


 嘘つき小娘とは、もしや私のことか?

 その場の視線が突き刺さる。

 いやいや……なんで? 自分で聖女だなんて名乗ってないよ。


 視線の端では、私に付いてきた護衛のオズワルドさんと専属侍女のヨランダさんが小声で話をしている。


『狸爺め、ここに来たか。まあ、これで内通者が確定だな。ヨランダ、エレウテリオ殿下を呼んで来てくれ』


 オズワルドさんのその言葉に、ヨランダさんがそっと医務室を後にする。


 今のは、ナンカーナ皇国の標準語じゃないわね。

 古語ってやつかな?

 周りの人が何の反応もしないってことは、古語が通じる人がいないってことか。


 それにしても、内通者とはなんぞや? 

 オズワルドさんたちはこの状況が想定内ってことか。


「小娘、お前が嘘つき聖女か?!」


「いえ、違います」


「このごにおよんでまだ嘘をつくか! 小娘め!」


「私は小娘という名前でも、嘘つき聖女という名前でもありません。皇太子殿下から直々に皇宮の滞在を許された客人に対し、随分と横暴な態度ですね。まずはそちらから名乗るのが礼儀だと思いますけど」 


「なんだと! 貴様、ナンカーナ皇国、神職の頂点に君臨する教皇である儂に、その態度はなんだ!」


「教皇?」


「そうだ。貴様のような小娘が直接言葉を交わして良い相手ではないのだ」


「そうですか。わかりました」


 言葉を交わしちゃいけないわけね。


「ふん。やっと、わかったか小娘。聞くところによると、自分は聖女だと言ってこの皇宮に居座っているようだな。養成所も卒業していない聖女など認めん。皇太子殿下は言いくるめられたようだが、儂は違うぞ。何が目的だ?」


 サンタ教皇の言葉が終わらないうちに、私は新たに医務室に来た騎士のところに移動をする。


 時間的に最後の患者のようだ。


「ドナート先生、お手伝いの手を止めて申し訳ありません。あ、私のことは、今からマリアとお呼び下さい。こちらの騎士様はどのように治療いたしますか?」


「ああ、これは毒系の魔物の傷だな。毒消しのポーションを使ってくれ」


 ドナート先生の指示通り、毒消しのポーションを取りに行こうとすると、サンタ教皇が立ちはだかり大声をあげる。


「おい! 貴様、儂の質問になぜ答えん!」


 あら、先程、『直接言葉を交わして良い相手じゃない』っておっしゃいましたよね?


 無言でサンタ教皇の脇を通り抜けて、毒消しのポーションで治療する。


 それが終わってから、ドナート先生に向き直り声をかけた。


「ドナート先生。今から私のやることを言葉にして伝えてください」


「マリアのやること? 一体何をするつもりだ? ん? なんだ? えっと、自分を指さしてるから『私』だな」


 うん。そうそう。うなずく私。

 言葉を交わしてはいけないらしいので、身振り手振りで『私は自分で聖女なんて言ってない』と伝えなきゃ。


『聖女』はそうだな……両手を前に祈りのポーズはどうだろう?


「それは、祈ってるのか?」


 ドナート先生の言葉にうなずくと、隣から護衛のオズワルドさんが声を上げる。


「わかった! 聖女だな」


 正解! オズワルドさんに向けて両手で丸を作る。


 あとは、『言ってない』だな。

 口をパクパクした後に指でバッテンをする。


「あ! 僕わかりました。『言ってない』ですね?」


 私の治療を受け終わった少年騎士が手を上げながら言った。

 正解です。両手で大きく丸を作る。


「やった! 正解だ!」


「おい、お前たちは一体何をやっておるのだ?!」


 サンタ教皇を手で制しながらドナート先生に目を向けると、私の意図を察してくれた。


「ああっと、彼女は『私は聖女と言ってない』と言っているんだよ」


 ドナート先生のその言葉に私は拍手をするとその場にいたみなさんも「「「おお! なるほど!!」」」と頷きながら拍手をした。


 そこへドヤドヤと足音が聞こえドアが乱暴に開けられた。


 バン!


「マリアーナ嬢! 無事か?!」


 あ、皇太子殿下だ。

 殿下の登場で、なぜかさらに拍手が大きくなる。


「なんだ? この拍手は? オズワルド、何があった?」


「んーと。マリアーナ嬢の身振り手振りで何を言っているのかを当てるゲームで、みごと正解したんだ」


「は? 意味がわからない。教皇が来たと聞いたが?」


「儂はここじゃ。こやつら何やら儂を無視してくだらない遊びをしおって。殿下を騙して居座っているニセ聖女はこの小娘ですな? こんな小娘がいては儂の孫娘が気をもむ。早く追い出していただきたい」


「ニセ聖女? 何を言っているんだ、教皇。このマリアーナ嬢は、女神がこの国に招いた聖女だ」


「女神が招いたと? それは、何かの間違いではないですかのう」


「間違いではないぞ。彼女が忽然と現れたのは皇宮の神殿だ。皇宮の厳重な結界を破るのは、普通の人間には不可能だ。しかも彼女は、女神の腕に抱かれながら光とともに現れた。私の目の前でな」


 女神の腕に抱かれて?

 あれ? 女神像を薙ぎ倒したような気がするんだけど……。


「話が……違うではないか……」


 サンタ教皇のつぶやきに、思わず頷きたくなるところを堪えた私。


「ん? なにか、言ったか? 教皇。そもそも、ニセ聖女の話は、どこからの情報だ?」


「いや、その、どこからだったか……誰かが、そのような噂話をしていたと思ったのだが……」


「そうか。教皇の気のせいなのだな。女神に招かれた聖女様の発表は、今準備をしているところだ。盛大に舞踏会を開くつもりだ。ああ、その時はぜひ教皇も出席してくれ。孫娘の大聖女様もな」


 なるほど、このサンタ教皇の孫娘が大聖女様なのね。

 そう言えば、少年騎士が言ってたっけ、大聖女様は高圧的な方だと。

 血筋なんだね。


 なんだかんだと言い訳をしながら、サンタ教皇は逃げるように帰って行った。


 その後、私達も医務室を後にした。


 その時、皇太子殿下がオズワルドさんに向けて古語で話かけたのを私は聞き逃さなかった。


『恒例のマリアーナ嬢に関する報告会をするぞ。彼女が寝たらアビゲイルとヨランダに執務室に来るように言っといてくれ』


 なるほど、私の周りを皇太子殿下の身内で固めたのは監視のためってことね。

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