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聖女様? 誰やねん

 秋の気配も深まり、学園は学園祭の準備で浮かれている。

 学生達は、寮生も帰宅生もいつもより帰り時間が遅くなる。

 そんな中、帰りの馬車を待つ控室で、ルー先生のお迎えを待っている私に、厩番の青年が声をかけてきた。


「マリアーナ・リシャール様。お迎えが少々遅くなるとご連絡がありました。適当に時間を潰してお待ち下さいとのことです」


 そうなんだ。

 さて、何して時間を潰そうかな。

 図書室に行くのも面倒だし……。

 お天気が良いから学園の中庭でも散歩しようかな。

 そう思いながらふと外を見ると、金色の何かが視界を横切った。


 ん? 猫?

 モフモフ大好きな私は、猫を追いかけて外へ出た。


「猫ちゃん。どこ? 出ておいで」


 落ち葉を踏みしめながら中庭を歩く。


 すると、どこからともなく女の子の悲鳴が聞こえた。


「きゃー!」


 慌てて声の聞こえた方に走って行くと、校舎の片隅に足を押さえてうずくまっている少女がいた。

 その傍らに金色の毛並みの猫が、ちんまりとおすわりをしている。


「どうしたの? あ、足から血が出てる。待ってて、すぐに治療するわね」


 私はすかさず、少女の足首に手を当てて治癒魔法をかける。

 すると、足元の地面が光に包まれた。

 え? なに?


 そう思った瞬間、ふわっとする浮遊感と下へと引っ張られて落ちていく感覚が。

 あ、この感覚。どこかで体験したような……?

 転移の魔法陣?! ま、まさかね? そんなわけないよね?

 心の中で全否定をしながら、眩しさに思わず目をつぶった。




 ***************




「聖女様、湯浴みの準備ができました」


 聖女様……誰やねんそれ。

 心のなかで毒づきながらも笑顔で対応する私。

 なぜ私が『聖女様』と呼ばれているかというと、あの足元の光は転移の魔法陣だったわけ。

 そして、飛ばされた先がなんと、ナンカーナ皇国の皇宮の神殿だったのだ。


 運の悪いことに、皇族の礼拝の時間だったらしく、女神像をなぎ倒しながら突然現れた私はどこから見ても不審人物。

 当然、その場にいた護衛騎士たちから剣を一斉に向けられた。

 そこへ、どこからともなく声が上がった。


『聖女様が降臨された!』と。


 その声に反応して騎士たちは、剣を下ろした。

 そして、その場にいた皇族だと思われる青年が私の手を取り言った。


「聖女殿、我がナンカーナ皇国へ降臨してくださり、至極光栄にございます」


 淡いラベンダー色の長髪に黄金色の瞳のキラキラの美青年。


 ここで不審人物として騎士たちに連行されるか、聖女として皇族に連行されるか、二者択一。

 当然後者を選んだ私は悪くないと思う。

 美青年に手を取られ案内されたのは皇宮の貴賓室だった。

 そして、今にいたるというわけ。

 後で聞いたが、キラキラの美青年はこの国の皇太子殿下だそうだ。

 御年二十二歳。まだ婚約者がいないらしい。


 皇宮の侍女たちにかしずかれ、お風呂に入り、なんだか聖女っぽい純白のシルクドレスを着せられた。


「さあ、聖女様。皇太子殿下がお待ちでございます」


 どうやらこれから、皇太子殿下と一緒に夕食らしい。

 しずしずと皇宮の廊下を侍女さんの先導で進む。


 そうしている間にも、私の脳みそはフル回転だ。

 あの魔法陣は誰が仕組んだものなのか?

 もし、あの魔法陣が聖女召喚の陣だったのなら、私と一緒にあの魔法陣の上にいた少女が本当の聖女なのでは?

 と、なると、私は聖女召喚に巻き込まれただけってことね。

 そして、その少女はどこへ消えたのだろう?

 あの場にいたのは、私だけだった。

 そうだ、あの猫はどうしたのだろう?


 ああ、そうだそんなことより、お父様が心配してるだろうな。

 早く誤解を解いて帰らなきゃ。


「聖女様。こちらへ」


 いつの間にか晩餐の部屋に到着。

 執事服のナイスミドルに椅子を引いてもらい座る。

 長方形のテーブルのお誕生席には、すでに皇太子殿下が着席していた。


「聖女殿。自己紹介が遅れたが、私はナンカーナ皇国の皇太子エレウテリオ・ジュナ・ナンカーナだ。聖女殿の名前を伺っても?」


「私は、マリアーナ・リシャールと申します」


 さあ、どう誤解を解きましょうかね。

 ここで、聖女を名乗った罪で牢に拘束なんてごめんだ。

 最悪、処刑なんてことになったら悔やんでもくやみきれない。

 まだ、ジーク先生に自分の気持を伝えてすらいないのだ。

 せっかくの二度目の人生。今回は後悔はしたくない。

 必ず、無事にお家に帰ってやる。 そして、ジーク先生にこの想いをぶつけるのだ。


 それには、私は聖女召喚に巻き込まれた被害者ということを全面に出しつつ、本当の聖女様を探すお手伝いを申し出るしかない。

 なんと言っても、本当の聖女様の姿を知っているのは、あの時一緒にいた私だけなのだ。


 蜂蜜色のロングヘアーに、瞳は……あ、あれ? 

 顔が思い出せない? 髪の色しか覚えていない……?

 ああ、どうしよう。今となっては、髪の色さえも合っているか不安になってきた。


「聖女殿。我が国の料理はお気にめしませんか?」


 なかなか、食が進まない私を気遣って皇太子殿下がそう声をかけてきた。

 優しそうな微笑みに勇気を振り絞って口を開く。


「あ、いえ。とても美味しいです。あ、あの、皇太子殿下にお話が……私は、聖女では、ないかと……」


「何を言うのやら。特殊な結界が張ってあるこの皇宮の神殿に突如として降臨した女性。それが聖女でなくてなんとする」


「それなんですが、私と一緒にもうひとりご令嬢がいたはずなんです。私はそのご令嬢に巻き込まれた一般人だと思います」


「もうひとり令嬢がいた? そんなはずはないな。あの時、神殿に現れたのは君ひとりだけだ。もし、君が他の女性の存在を感じていたのなら、それは君をこの国に招いた女神様に違いない」


 そこからは、なぜかナンカーナ皇国を守護する女神様の逸話を聞かされ、聖女とは、女神様がこの国に遣わした使者だと熱く語られた。


 だめだこりゃ。

 話が通じない。




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