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甘い誘惑に気をつけて

 只今、剣術の授業中。

 ジーク先生とダニエルの模擬戦をみんなで見学しているところ。


 少し長めの青みがかった銀髪の前髪が、サラリと額にかかる。

 それを邪魔そうに後ろへかき上げる。

 途端に綺麗なルビー色の瞳が顕になった。

 あ、だめだ。

 あまりにもジーク先生が素敵すぎて目が痛いし、心臓も痛い。


「ちょっと、マリア。どうしたの? 目と胸なんか押さえて」


 シャノンのその言葉に、ティーノとイデオンがこちらを振り返り声を上げる。


「どうした?! マリア、大丈夫か? 自分の身体を労らないと。なにかあったらすぐに俺たちに言うんだぞ」


「なに、具合が悪いの? 大事な身体なんだから気をつけないと」


 まるで妊婦さんをいたわるようなその言葉。

 まさか、遠回しに太ったと言っているのだろうか?

 思わず、お腹に手を当てる。

 うん、大丈夫。

 今日もデザートを二人前いただきましたが、ウエストに異常なし。


「失礼ね。まだ、お腹は出てないわよ。そんな事にならないように、気を付けているんだら。これがなかなか大変なの。相手を傷つけずに甘い誘惑を躱し、機嫌を損なわないようにしなきゃいけないでしょう? ランやナタリーからも、ドレスが入らなくなったら困ると言われているし」


 最近の困ったお父様のことを思い浮かべながらそっとため息をついた。

 私が転移門設置で飛び回っていたもんだから、お父様の構って攻撃がすごいのよ。

 暇があれば、甘いもので私の関心を惹こうとするのだ。

 でもね、その全部を食べるわけにはいかないのよ。

 なんたって、新年の祝賀会で着るドレスを新調する予定なので、太るわけにはいかない。

 そんなことになったら、ランとナタリーにめっちゃ怒られる。

 なぜなら、あの二人は私を飾り立てるのに命を燃やしているから。


「 「 「・・・・・・」 」 」


 ん? なにこの反応?

 なんかシャノンもティーノもイデオンも目の玉が飛び出そうなくらい驚愕の表情だ。


「あ、あまい誘惑……ドレスが……あ、あのマリア、その、えっと、もうそういう、か、か、かんけい…… ティーノ! ティーノが聞いて!」


「えっ? お、俺? き、聞くって、さすがにそれは、なあ、イデオン?」


「やめてくれ。俺に振らないでくれ。なんにしても、本人の幸せが一番なんだから。マリアが幸せなら良いんだ」


「ん? 私は幸せよ。それに甘い誘惑をお断りしたって、私のことを溺愛してるから関係がこじれることはないわ」


「溺愛……それは良かったわ。私ったらこんなことで動揺するなんて。学園を卒業したらすぐにお嫁に行く令嬢も少くなくないっていうのに」


 えっ? なぜここでお嫁に行く話になる?

 あ、そういえば、シャノンの恋の行方はどうなったんだろう?


「そういえば、シャノンはブライアンのお兄様とは、どうなったの?」


「な! な、な、なんのこと?!」


 途端に真っ赤になって首を振るシャノン。


「だって、私達がお世話になったお礼の手紙を出すって言ってたでしょ?」


「ああ、うん。返事が来たわ。それに、ジョアンヌ様のその後のことが書いてあったから、今日の放課後にでも皆に報告しようと思ってたところよ。魔術科の教室に集合しましょう。後で、エミリやサムたちにも声をかけておくわね」




 ***************




「じゃあ、ジョアンヌ様が貴族籍から除籍されたってことは、平民になったてことか」


 ダニエルのその言葉に、うなずいたのはブライアン。

 放課後の魔術科の教室。

 集まったのはブライアンのお姉様とウルバーノさんの婚約パーティーに出席した十三人。

 

「あの後から次々と余罪が出てきたよ。ウルバーノさんと言葉を交わしたのが許せなくて、使用人の少女二人に窃盗の濡れ衣をきせたり、学園在学中は自分より目立つ子が許せなくて手下の男達を使って襲わせていたらしい。そのせいで自殺した子もいたんだ。その自殺した令嬢の兄上が、厳しく取り調べをしているらしい」


 ブライアンのその言葉にシャノンが口を開く。


「ジョアンヌ様は平民になったけど、罪を犯した時期は貴族令嬢だったことから、貴族裁判にかけられるそうよ」


「そういえば、父上が言っていたが、ボスフェルト公爵家に関しても問題が発覚したと。公爵家の権力を使って警備団の上層部を抱き込んでたらしい。それで自分の娘の悪行を隠蔽してたんだな」


「ああ、この間の貴族院会議は、それが議題だったみたいだね。多分ボスフェルト公爵家は爵位降格だな」


 シリウスとサムが、六公爵家ならではの情報を教えてくれた。


「賠償金はどうなったのかしら、ブライアン。テレシア様のお怪我はジョアンヌ様の故意の事故だったわけでしょ?」


 エミリの言葉にブライアンが説明してくれた。

 厳しい取り調べで、洗いざらい自白したジョアンヌ様。

 ボスフェルト公爵家は、非を全面的に認めるしかなく、今までアルフォード家が費やした治療費や薬代、それに伴う借金も全額支払うことになった。

 コーネル家への借金が無くなったことで、防衛団の第三班の班長だったバイロン・コーネルさんは解雇となったらしい。

 もともと、班長という立場の人間には見えなかったからね。

 何にしても、アルフォード家にとっても、防衛団にとっても良い結果になったね。


 その後は、『呪詛の卵』についての話題になった。


「呪詛の術が発動する時って、周りの空気がジメッと重く感じるのよね。これは、禁術の研究してて身についたスキルなの。『呪術感知』ってやつね。でもこれって人によって感じ方が違うらしいわ。人によっては黒いモヤが見えたりするの。光属性持ちで癒やしのレベルが高いマリアとドリーなら、すぐに身につくスキルだと思うわ」


 そんなリリーの言葉に『へえー』と感心しながら、私はドリーの髪飾りを盗み見る。


 あ、本当だ。

 リンガリントモーナ(夫婦花)のモチーフだ。

 カラフルな私の髪飾りとは、雰囲気が違う上品な一品だ。

 清楚なドリーの雰囲気にとても良く似合っている。

 

 ドリーの恋も、シャノンの恋も、ついでに私の恋も、実を結びますように……。




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