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密会は図書室で

「マ、マリア! なんで、ここに? いつからいたの?」


 ドリーのその言葉に私はニンマリとした。

 ここは、学園の図書室。

 長期休暇が終わり、新学期が始まって一週間たった。


 たまたま、ルー先生のお迎えが少し遅くなるというので、本でも読んで待とうと立ち寄ったのだ。

 放課後ということもあり、生徒の数は五人ほど。


 そして、そこで目撃したのが、我がクラスの王子様こと、チェスター・アシュトンと、ドリーが仲良く寄り添って本を読んでいる場面。

 本棚で視覚になっている隅のテーブルだから、気が付かないで通り過ぎるところだった。


 チェスターは一年のときの観劇で王子様役をやってから、大人気となった特待生だ。

 あの時に観劇を見た入学前の子達が、こぞってこの学園に入学希望を出したことは、伝説として語られるくらいだ。


 紺色の髪に珍しい黄金の瞳、以前は前髪で目を隠していたが、誰もが素顔を知るところとなった今は、ちゃんと目が見える長さまで切りそろえている。


 ああ、そいえば、ドリーも出会った頃は前髪で目を隠してたっけ。


 チェスターは、読みかけの本を閉じると困った顔を私に向けた。


「わかってるんだ。ドリーはブディオ侯爵家のご令嬢で、しかも聖巫女の称号を持つ特別な女性だって。一般人の僕なんかが、一緒にいてはいけないって」


「えっ? い、いえ、私は何にも思っていないわよ。とってもお似合いだと思うけど」


 まさに美男美女。

 本当にどこかの国の王子様と王女様だと言われても、うなずいてしまうくらいよ。

 それに、中身が身分制度のない日本人である私としては、侯爵令嬢だ、一般人だって言われてもね。

 いまいちピンとこないんだよね。

 曖昧な微笑みを浮かべて、ドリーとチェスターを見つめる。


「あ、あの、マリア、今日の事はみんなには言わないでほしいの。どこから、お父様の耳に入るかもしれないから……」


「お父様……? えっと、ドリーのお父様にバレるとまずいということ?」


「ええ。今はお父様に知られたくないの。王家からの正式な発表の後に、私の気持ちをお父様にお話するつもりなの。そのほうがお父様の諦めもつくと思うの」


「王家からの正式な発表って……」


「もうすぐ発表があるのでしょう? 私達来年は卒業だし、そのタイミングでと、王家は考えているのじゃないかしら。エリアス先生やジークフィード先生もそのままお辞めになるのが自然ですもの」


「えっ? あ、あの、ドリーは、ジーク先生とエリアス先生のあの、その、えっと、そ、それに王家の発表のことも、え? なんで知って……」


 あまりの動揺にしどろもどろの私。


「大丈夫よ。わかっているから。誰にも言わないわ。マリアも今日の事は言わないでね」


 ドリーの言葉にカクカクとうなずく私。

 そ、そうか、ドリーは聖巫女様だもね

 神殿経由で王家に関する情報が入るのかもかもしれない。


 今更ながら、ジーク先生とエリアス先生の護衛のお仕事がまもなく終りを迎えるという事実に胸が痛む。


 その後は、ルー先生が迎えに来たので図書室を後にした。




 ***************




「おーい! マリア、大丈夫か? 迎えが遅くなったのを怒ってるのか? それとも、学園で何かあった? それに、そろそろベリーチェを放して上げたほうが良いんじゃないか。」


 ルー先生のその言葉にハッとして顔を上げた。


「あ! ご、ごめん。ベリーチェ。ちょっと、ボーッとしてて」


 馬車の中で、ギュッと抱きしめていたベリーチェを放す。


「だいじょうぶでしゅ。マリア、かんがえごと?」


「えっ? ああ、なんでもないの。ちょっと疲れちゃったのかな」


 い、言えない。

 ジーク先生と離れるのが寂しいなんて。

 ……? あれ? 寂しい?

 そっか、胸が痛むのは寂しいからか。

 私、ジーク先生と離れたくないんだ。

 それって……。

 ジーク先生のことが……好きってこと?


 そう考えた途端、頬に熱が集まる。


「新学期が始まって一週間だもんな。疲れが出るころだな。そういえば、マリアを図書室に迎えに行った時にいたあの少年は、ナンカーナ皇国からの留学生かい?」


 熱くなった頬を両手で押さえながらあたふたしている私に、ルー先生はそう言った。

 ん? 留学生? チェスターが?


「留学生じゃなくて、成績優秀な特待生です。名前はチェスター・アシュトン」


「じゃあ、ナンカーナ皇国民でもなくて、貴族でもないってことか。だが、あの容姿はナンカーナ皇国の皇族と言っても通じるぞ。それに、繊細な銀細工のブローチをつけてたから、てっきりナンカーナ皇国の人かと思ったんだ」


「チェスターは、ブローチなんてしてましたっけ?」


 首をかしげながら、チェスターの姿を思い浮かべる。


「してたよ。制服の色と同じだから目立たないけどな。あ、ほら、マリアがしているその髪飾りもナンカーナ皇国のものだろ? マリアの友達も似たような髪飾りをしていたな。あれは、きっとそのチェスター少年の贈り物だな。両方ともナンカーナ皇国の夫婦花がモチーフになっていたから」


「え? ドリーも髪飾りをしてたの? やだ、全然気が付かなった」


「たまたま彼女の後ろ姿が目に入ったから、気がついただけだよ」


 ルー先生はそう言うと、夫婦花の説明をしてくれた。

 ナンカーナ皇国の夫婦花と呼ばれる花。名前をリンガリントモーナと、言うらしい。

 一つの茎に必ず、赤と青の花を咲かせるバラに似た花だそうだ。


「だから、ナンカーナ皇国では想い人にその花をモチーフにした装飾品を贈る風習があるんだ」


 そうなんだ。

 あの二人が、お互いを思い合っているのは一目瞭然。

 でも身分差があって悩んでいる感じだったな。

 お父様に知られたくないって言ってたもんね。


 あれ? そう言えば、王家の発表の後に自分の気持を話すって言ってたけど、私の加護を知ってドリーの父上が考えを変えることがあるのだろうか?

 





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