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第9話 ドレスの贈り物

 数日後に王妃主催のお茶会が控えているある日、フェンデル邸にミーシャ宛の贈り物が届いた。

 それは、フィルジルからミーシャへのドレスの贈り物であり、メッセージカードにはお茶会で着て欲しいと記されていた。


(どうしたらいいのだろう……まさかこのドレス私へしか贈っていない訳ではないわよね?)


 ミーシャは自分の腕に光るブレスレットに視線を移す。

 このブレスレットをフィルジルがミーシャへ付けた時、ミーシャにしか渡さないと話していた事をミーシャは気にしていた。

 もし、ドレスの贈り物が自分一人であったらティアラの立場がきっとなくなる。だけど、王子から贈られたドレスを着ない選択肢はきっとないのだろうと思う。


「このドレスが殿下からの贈り物かしら?」


「お母様」


「素敵なドレスね、ミーシャあなたに似合いそうだわ」


「ええ……」


「どうしたの?

 変な顔をしてドレスが気に入らないの?」


「そうじゃないけど……」


「……けど?」


「フィ……殿下が私にドレスを贈ってくださった事はとても光栄な事だし嬉しいけど……

 殿下は……

 私が感じるだけなのかもしれないけれど……ティアラ様の事をあまり良く言われる事がなくて……

 だけど、妃候補はティアラ様と私の二人であるから……その……きちんとティアラ様へもドレスを贈っているのか……心配になって…」


「そんな事を悩んでいたの

 今度のお茶会は王妃様主催で、そして今回初めて妃候補の貴女達も学ぶ為に一緒に準備をしたお茶会であるから、その関係で殿下の名前でドレスを贈る事になったと聞いているわ

 殿下にとっては不本意でいらっしゃるかもしれないけれど、おそらくローランド家のティアラ様宛で今頃殿下の名前でドレスが届けられていると思うわよ」


「そうなの……?

 じゃあ……私がこのドレスを纏っても心配はないのね?」


 そのミーシャの言葉とホッとした嬉しそうな笑みにルーシェがミーシャの頭をフワッと撫でた。


「ローランド嬢はデビュー前の令嬢にもかかわらず自分の手は汚さず醜い牽制を貴女にしかけている事は(わたくし)達も知っているし、貴女はそれをよく感情的にならないで対応していると思っているわ

 ………辛いのであれば妃候補のお話の解消を陛下へお伝えする事はできるのよ?」


「だけど……殿下と約束したから……」


「………どうして自分を犠牲にしてまでそこまで殿下との約束に拘っているの?」


「………約束を違えて妃候補を解消するって事は………」


(──フィルともう今のように会う事は出来ないって事で……

 私は……)


「貴女が殿下との今の関係を続けたいと望んでいるのでしょう?」


 ミーシャはルーシェの言葉に何も言えなかった。

 まるで自分の心の中の気持ちを覗かれたような言葉であったからだ。

 ミーシャにとって今の周囲の状況が辛くないっていったら嘘になる。本来ならこんな同情で始めた関係に嫌気がさすはずなのに、そんな事よりもフィルジルと共に過ごす事のできる今の関係が心地よくて、手放したくはないと感じる自分がいた。フィルジルが誰にも見せない本当の姿を自分に見せてくれる事が嬉しくて、自分が特別なのではないのかと勘違いする事もあった。フィルジルが本気で望む婚約者が現れたら終わりを告げる関係だと理解していても…


「それに、殿下は貴女には心を開いていらっしゃるものね」


 そのルーシェの言葉にミーシャは驚いて母親のルーシェの顔を見詰める。


「お母様は……殿下の本来の姿の事を知っているの?」


 ルーシェは柔らかい笑みを浮かべた。


「お父様やお母様は陛下や王妃様とは貴女や殿下が生まれる前からの間柄であるから……

 殿下は幼い頃から見ていてもお辛い立場であったと思うわ……あのように自分の本来の姿を見せないようになってしまったのも仕方がないとも思うのよ

 だからこそ、貴女に心を開いている事に陛下や王妃様はとてもお喜びになっていらっしゃったわ

 貴女が殿下の事を愛称で呼んだり親しくしている事は陛下や王妃様はもちろんお父様やお母様は知っているけれども、他の方は知らない事であるから今まで通りに振る舞った方がいいわ

 だけど、(わたくし)達の前では偽らなくてもいいのよ」


「フィルは………」


(どうして自分の姿を偽っているの……?)


「殿下がどうして今のように偽った姿を振る舞っているのかは(わたくし)に聞くよりも殿下が貴女に話してもいいと思った時に話してくださるまで待っていた方がいいのではないかしら?」


「それは……はい……」


「貴女ももう幼子ではないのね……」


「え……?」


「もう少し自分の気持ちに素直になりなさい

 そうしたら自分で知らず知らずのうちに隠していた気持ちに気が付く事ができるわよ」


「お母様……?」


(私の隠していた気持ち……?)


「それにしても……殿下がローランド嬢へドレスを贈っているかどうかよりも、このお色の方がお茶会を騒がせてしまうかもしれないわね……」


「色……?」



 ◇*◇*◇*◇*◇


 綺麗な色のクロスに色とりどりのお菓子、そしてその周りに集う華やかな人々…


 今日は王妃主催のお茶会が王城で開かれていた。


 妃候補の二人も妃教育の一貫で手伝っていた事もあり、デビュー前の貴族の子息令嬢も招待されていた。


 ルーシェのいったとおり今日のお茶会の為に妃候補の二人の為にフィルジルからドレスが贈られていた。

 ティアラには小柄で愛らしい容貌に似合うような薄桃色の可愛らしいドレスであった。

 そして、招待客がミーシャの姿を見る度ざわめきが広がる。

 ミーシャが纏っている空色のドレスはこの場に招待されている者、皆が知る人物の瞳の色を彷彿とさせた。


(お母様が言っていた訳がわかったわ……

 フィルったら……どうしてこの色のドレスを私に……)


 にこやかに周囲の人達への対応をしているフィルジルをぼんやりとミーシャは見ていた。その近くではティアラが満面の笑みでお茶会で用意された物の説明をしている。こうして見ると本物の婚約者同士にも見えるとミーシャは感じた。誰の力かわからないがミーシャの周囲に近付く招待されている令嬢方はいなく、ミーシャがもてなしの為説明をする人達もまばらであった。


(他の人達と関わらなくていいのは楽だけど……居場所がないというか……それでもここを離れる訳にはいかないし……)


 そんなミーシャに近付く者達がいた。


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