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第8話 魔力

 ミーシャは王城内の端にある王立魔術師団の一室に設けてある試験場に母親のルーシェと一緒に封印具を外す為の試験を受けにきていた。

 自分の順番を待っている時、封印具のはまっている腕とは反対側の腕に目をおとす。そこで煌めいていたのは数日前にフィルジルが付けてくれたブレスレットだ。


(フィルはどういう気持ちから、このブレスレットを私にくれたのだろう……

 妃候補だからって言っていたけど、ティアラ様には渡していないようだし……それに……私に何かあったら駆け付けるって……

 私はフィルに本物の婚約者が出来るまでの、ただの仮初めの妃候補なのに……)


 そんな事をフィルジルがブレスレットをミーシャへ付けた日からずっとミーシャはぐるぐると考えていた。


 ミーシャの試験の順番がきた時、試験官は魔術師団長のロウル・ルランという人物でありミーシャも王城で何度か顔を合わせ知っている人物であった。

 師団長のロウルは書類とミーシャを見て言葉を発する。


「殿下の妃候補の……

 属性は水……と、……そうでしたな……」


「あの……?」


 何かを考え込むロウルにミーシャの緊張は増す。

 そんな時、母親のルーシェはロウルへ言葉を掛けた。


「ルラン卿、陛下からはお話はあったかと思うのですが……」


「ええ……聞いておりますよ……」


「お母様……?」


「大丈夫よ、心配しないでミーシャ

 制御の方法はしっかりと学んだでしょう?」


「はい……」


 ミーシャの持っている魔力は属性が水という事だが、水面を波たたせるぐらいの力しかミーシャにはなかった。そういう訳もあってか、試験はあっという間に終わる。そんなミーシャに周囲の人間の目は侮蔑を含んだような視線を向ける者が多かった。


「あの程度で……第一王子の妃候補?」


「たしか、ローランド家のご令嬢も候補ではなかったか?

 あれじゃあ……候補といっても結果は明らかだな……」


 ミーシャに聞こえるように囁かれる言葉たちにミーシャはグッと口を引き結ぶ。


「煩いぞ

 無駄話をする暇があれば手を動かさないか」


「ルラン師団長……」


「自分の部下が失礼な事を口にして申し訳ありません」


 ロウルは自分の部下を窘め、ミーシャへ頭を下げた。

 こんなまだ子どもの自分へ頭を下げさせてしまうなんて申し訳ないような気持ちにミーシャはなる。


「気にしておりませんので大丈夫です……

 それに……皆さんの仰有られている事は間違ってはおりませんし……」


「…………そうでしょうか?

 見える部分だけで評価する事は三流の人間のする事だと自分は思っていますし、見えない面に隠された真実がある事もある……

 それに、誰が妃に相応しいかを決めるのは我々ではなく陛下や殿下でありますから……」


「ルラン卿、貴殿が娘の試験官であった事感謝致しますわ」


「いえ……陛下やフェンデル公爵にはくれぐれもと仰せつかっておりますゆえ……

 フェンデル嬢……」


「はい……?」


「今回、合格として封印具は外させて頂きましたが……

 ご両親から渡された懐中時計……その中央に埋め込まれている魔石には特別な力を込められ貴女を守る力を持った物になります

 肌身離さず持ち歩いて貰いたいと思います」


「え……懐中時計……?」


 思わずミーシャは母親のルーシェを見ると、ルーシェは複雑な表情を浮かべミーシャの事を抱き締めた。


「お父様や(わたくし)はずっと貴女の事を守るわ……」


「お母……様……?」


 ミーシャは自分が何から守られなければならないのか、よくわからなかった。

 しかし、父や母、そしてこの目の前にいる魔術師団長はミーシャの知らない何かを知っており、もしかしたら先程のルーシェのロウルへ掛けた言葉から国王も何かを知っていているのではないのだろうかと思った。




 ◇*◇*◇*◇*◇


 ミーシャの封印具を外す試験から数日後……

 妃教育の為に登城していたミーシャを呼び止める声が王城の回廊に響いた。


「ミーシャ嬢」


「フィルジル殿下……ご機嫌麗しゅう存じ上げます」


 綺麗な淑女の礼(カーテシー)をとったミーシャへフィルジルは綺麗な笑みを浮かべる。


「講義はもう終わったのかな?

 もし、時間があったらお茶へお誘いしても構わないかい?」


「光栄でございます

 講義は今終わりましたので大丈夫でございます」


「そうか

 それじゃあ……こちらへ」


 そう言うとフィルジルはミーシャの手を取り庭園へと促す。

 そんな二人の姿を回廊の陰からティアラが見ていると二人とも気が付くことはなかった。

 ミーシャはこの完璧王子の姿を纏っているフィルジルの姿を見て、彼の周りに集まる令嬢の数が妃候補が決まってからも減らないのは仕方がないのかもしれないと思う。女の子なら誰しも憧れる物語に出てくるような王子様の容姿で振る舞い方も理想的な姿なのだからだ。

 ミーシャはフィルジルの本当の姿を知っていてその姿のフィルジルの方が人間らしいし好ましいと思っていた。

 その姿を知っている令嬢は今は自分だけであるがこれからフィルジルが自分で見付けると言っていた本当の婚約者が見付かったらその婚約者にはきっとフィルジルの見せ掛けでない今の姿をフィルジルが教えるのかと思うとなんとなく寂しく感じた。


「ミーシャ?どうした?」


「え?」


 ミーシャは辺りを見渡すとお茶の用意をしてあるガゼボから離れた場所に護衛や侍女達は控えていてミーシャとフィルジルは二人きりであった。

 フィルジルも先程の完璧王子の仮面は外していつもの口調で話している。


「あ、ううん何でもないの……

 今日はルドルフは一緒でないのね?」


 そんなミーシャの言葉に少しムッとした表情をフィルジルは浮かべた。


「何だよ……俺だけだったら不満なのかよ……」


「えっ?

 そうじゃなくて、貴方達っていつも一緒にいるから一緒でないと不思議な感じがしただけで……」


「別にいつも一緒な訳じゃねぇよ……」


「どうしたの?喧嘩でもしたの?」


「喧嘩なんかしてないっ!

 それよりも……」


 フィルジルがミーシャの片手を取り持ち上げる。


 ──ドキンッ……


 その瞬間ミーシャの心臓が高鳴った。その事にミーシャは慌てる。


(な、何でフィルにドキドキしているのよ!?)


「何っ!?急に……」


「ちゃんと付けているな」


「付けて……?

 あ……ブレスレットの事?

 ええ……フィルが外すなと言ったのでしょう?

 だけど……」


(どうして私に……?)


「封印具も外れたんだな」


「えっ?

 ええ……魔術師団長のルラン様が試験官をしてくださったけれど、なんとか合格を頂けたわ」


「え……?

 ルラン師団長がミーシャの試験官だったのか?」


「ええ、そうだけど、それがどうかしたの?」


「………いや……別に……」


「ねぇ……フィル……」


「ん?」


「前から話していたけれど……私があまり魔力が強くないって事……

 魔力のコントロールの試験の時に魔術師団の方達が私の魔力の弱さに驚いていたわ……きっと……もう貴族の間では噂になっているかもしれない

 妃候補に相応しくない魔力の弱さだって……

 フィルにも迷惑をかけると思う……

 そんな尻拭いを本物の妃候補でないのにフィルがする必要がないのではって思って……」


「妃候補であるお前の立場を解消はしないからな」


「でも……」


「でもじゃないっ!

 そもそも妃候補に魔力の強さが必要なんていう規定などないし、そんなものどうでもいい!」


「どうでもいい事はないわ!

 規定にはなくたって暗黙的には決められているようなものよ!

 今までの王族の妃になる方は癒しの力や光の魔力とか大きな力を持っている方が殆んどであるのよ? それがどうしてかわかる? 後世へ魔力が強い世継ぎの子を成す為よ?

 それに、フィルは国王陛下の実子で第一王子であって、第二王子のフィリップ殿下はまだ五歳である事からしても近々王太子になる事がほぼ確定しているのは貴方で将来的には国王へ即位する重要な立場であるのよ

 そんな貴方の妃候補がこの程度の魔力では周囲の者が納得しないだろうし、そんな私の事でフィルに迷惑をかけたくはない……」


「迷惑でなんかない

 俺はミーシャだから妃候補に名前を挙げたんだ

 そもそも俺の事情にお前の事を巻き込んで迷惑をかけているのは俺の方だ……

 だからお前は堂々としていたらいい。

 それに……

 ミーシャ、俺はお前を───」


「やあ、二人とも何の会話を楽しんでいたの?」


「ルドルフ……?」


 ルドルフがガゼボの近くにきた事を二人とも声をかけられるまで気が付かなかった。


「別にお前に関係ないだろっ!」


「フィル!? どうしたの?」


「…………あんな事……フィルに言わなければ良かったな……」


「え?あんな事……?」


「…………………」


 ルドルフは表情を浮かべずフィルジルの事を見据えた。

 二人のいつもとは違う雰囲気に困惑しているミーシャを他所にフィルジルとルドルフの間には険悪な雰囲気が流れた。


「何?フィルは自覚した訳?」


「何がだよ!?」


「…………別に自覚していようが、していまいが僕はどっちでもいいけどさ

 僕はフィルに譲るつもりはないから

 それだけは覚えておいてくれる?」


「ルドルフ……お前は……」


「ミーシャごめんね

 君の事を放っておいてフィルと話し込んじゃって……」


「どうしたの……?

 貴方達、喧嘩でもしたの?」


「喧嘩……ではないけどさ……だって一つしかないものだから……ね……」


「一つしか?何?

 何か取り合いでもしているの?この歳になって?」


「成長したからこその取り合いなんだと思うよ?

 取り合いになるかはフィル次第だけど……」


 ルドルフはフィルジルへ視線をおくりそんな言葉をミーシャへ言った後、ミーシャの腕に光る物に目を留める。


「そっか……結局フィルも自覚したって事なんだね……」


「ルドルフ?

 どうしたの?さっきから……」


「ミーシャのその肝心なところへの鈍さが悩ましいというか、反対に安心するというか……だね」


 苦笑いを浮かべるルドルフにミーシャはまた困惑し、そして自分の反対側の隣で機嫌が悪そうなフィルジルを見て二人で何の取り合いをしているのだろうかと頭を悩ましていた。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

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