後日談③ 小さな手からの贈り物
《注意》
今回のお話はミーシャとフィルジルのその後をハッピーエンドで楽しく想像したい方は閲覧をあまりお勧めしません。
このお話を読んでこの物語自体がハッピーエンドととれるのかどうなのかは作者自身悩む所ですが、人生という形で表現したいと考えこのように作り公開しました。
そんなに悲劇的な表現ではありませんが、それらを踏まえて読んで頂ければとおもいます。
ある暖かな日の王城の庭園の端にある池の前に幼い二人の子どもの姿があった。
周りには大人の姿はなくその二人の子どもは何処から折って持ってきたのか一輪のバラの花を囲み何かを相談しているようであった。
「兄上……本当に封印具を外すの……?
封印具を外した子どもは王族や貴族も平民も関係なく恐いお仕置きがあるって言われているんだよ」
「そんなことわかっているよ!
だけど、母上の好きなバラが今年は病気にやられて上手く咲かなかったって庭師長のザックが言ってたし、一番マシに咲いていたのも花弁が変色しちゃったこの一輪だけじゃないか
だから、魔術でこのバラだけでも綺麗に咲かせたら母上だって喜ぶんじゃないかって二人で相談しただろう?」
「で、でも……」
「暗い部屋で長時間説教されても構わないのか?」
「えっ!?」
「ジェド!」
突然後ろから声が聞こえ兄の方が振り向くとそこにいたのは精霊王のジェドであった。
「な、何でここがわかったの!?
兄上との秘密の場所で侍従も護衛も知らないのに……」
「何でだ?
それは、俺様だからだ
で? エドワードとカーティスはこんな場所で二人で何をしようとしていた?
その封印具を外す事は良くないって事は知らない訳じゃないだろう?」
二人はローディエンストック王国の王太子夫妻であるフィルジルとミーシャの息子達で八歳になる第一王子のエドワードと六歳になる第二王子のカーティスである。
ジェドから問われ、二人は複雑な表情を浮かべた。
「それは……」
「今日、母上の誕生日で……だけど誕生日を祝う為の舞踏会が延期になったから他の人達からお祝いがなくても、せめて僕達だけでもお祝いをしたかったんだ……
それでプレゼントをって……」
「延期になった?」
「うん……母上の体調を心配した父上が延期の決定を議会に出したって……」
「……………
それで、お前達二人でこのバラの花を再生しようとしていたのか?」
次男のカーティスが大事そうに持っている一輪のバラへジェドは視線を移し、そしてまた二人を見詰めた。
「フィルジルとミーシャは今は何処にいる?」
「母上は私室に居るよ
父上は今はきっと……」
二人はジェドを連れてミーシャの私室へ向かった。
ミーシャの私室で待機している護衛や侍女にはミーシャに声を掛けないで欲しいと話し、三人でミーシャの私室から続きになっているフィルジルとの寝室が見え死角になる居室の一角でミーシャの様子を伺った。
そこには寝台で横になるミーシャの傍らで手を翳しているフィルジルの姿が見えた。
そのフィルジルの表情は憂いを含んだような表情で、そんなフィルジルの手をミーシャはそっと握った。
「フィル……そんな顔をしないで?
忙しいのにいつも治癒魔法をありがとう
忙しかったら無理をしないでいいのよ?」
「この時間は必ずとれるように、時間や執務の進みをルドルフも調整してくれているから心配はいらない
それに、俺自身がお前の傍に居たいし、自分の手で術を施したいんだ」
「うん……
あとね、そんなに自分の事を責めないで?
フィルの責任ではないのだし、私が我が儘を言って望んだ事なのだから……」
「…………」
「今日の舞踏会は臣下の方達に迷惑を掛けてしまったわね
急に延期にしてしまうなんて……
私は大丈夫だったのに……」
そんな言葉を言ったミーシャへ、フィルジルは眉根を寄せてミーシャが握り締めている手を反対に握り締めて自分の口許へ寄せた。
「もし何かがあったと考えた時に後悔だけはしたくなかったんだ
それに、殆んどの臣下の者達は理解してくれている」
二人の様子を隠れて見ていたジェドは複雑な表情を浮かべるミーシャ達の子ども達へ目を向けた時、兄であるエドワードはポツリと呟いた。
「母上のお腹に赤ちゃんがきたってわかって暫くした後、母上が倒れてから父上はああして毎日母上に治癒魔法をかけているんだ
僕達はそんな母上の状態を危惧している父上を見ていて、今母上がどういう状況なのかしっかり説明を受けていないから、本当の事はわからないけれど……それでもあんまり良くない事なのではないのだろうかっていう事は気が付いた……」
「………今の状況をあの二人が望んだ訳ではないが、覚悟の上での選択ではあったのだろう……
それで、お前達はミーシャを少しでも喜ばしたくて魔術を使おうとしたのだな?」
「うん……王国の決まりを破るいけない事だってことはわかっていたけれど、それでも母上を笑顔にしたかったんだ
母上の笑顔を見たら父上だって笑顔になるって思ったから……」
「そうか……それならばな……
俺が少し手を貸してやる
それからな───」
ジェドはエドワードとカーティスへ耳打ちすると寝室へ足を踏み入れフィルジルとミーシャに声を掛けた。
「以前よりは顔色がマシになったのではないか?」
「ジェド様!?
今日はどうされたのですか?」
「お前に用がある奴等を見付けてな」
「奴等?」
「おい、入ってこい」
ジェドの言葉におずおずと子ども達が寝室へ入ってくる。
「あなた達!? どうしたの?」
「それは俺が説明してもいいか?
この世界で、子ども達の魔力を自分でコントロール出来る年齢になるまで封印具で魔力を抑えている事は知っている
だが、ある理由から、こいつらが自分で魔法を使いたいと話していたのだ
それでだ、父親として王太子として、その願いを特別に叶えてやって欲しいと思ったのと、俺が補助をしていくから、魔力のコントロールの勉強の一つとして考えてやるのはどうかと思ったのだ」
「ある理由とは何だ?
何か、訳があるのなら父親である俺に相談するべきなのではないのか?」
「それは……」
「フィルジルもその理由の一つだからだよ」
「俺も理由の一つ?」
「こいつらの気持ちも汲んでやれ
お前達の今の状況から今日行われる筈だった行事が延期になった事
思っている以上にこいつらも察しているんだよ」
「……………
お前達の気持ちを置き去りにしてすまなかった……
本来は封印具を試験を受ける前に外す事は法令に反する事であるのだからな……」
そんなフィルジルの言葉にジェドは二人の子ども達へニッと笑みを浮かべた姿に、エドワードとカーティスは二人で顔を見合わせこくりと一度頷くと腕にしていた封印具を外しジェドに預けミーシャの元へ掛けよっていった。
「母上、今日は母上のお誕生日で、でも母上の好きなバラが今年はしっかり咲かなくて残念そうな顔を母上はしていたでしょう?」
「だから、僕達でこれをプレゼントしたいと思ったんだ」
「え……? エド?カート?」
カーティスは持っていた一輪のバラをテーブルに置くとエドワードとカーティスでそのバラへ手を翳して詠唱し始め、バラを緑色の魔方陣が囲むと光がバラを包み変色していたバラがみずみずしい姿へ変わる。そんな様子にミーシャもフィルジルも驚いた。
「あなた達、そんな術をもう覚えたの?」
「うん! 母上を笑顔にしたかったんだ」
「母上が笑顔になったら、父上も笑顔になるでしょう?」
二人の言葉にミーシャもフィルジルも様々な気持ちが綯交ぜになったような気持ちを覚える。
「それからね……」
「ジェドいい?」
「ああ、これは俺達三人からミーシャへの祝いだ」
そうジェドは言うと二人が再生させたバラへ手を翳したと思えば大きな魔方陣がそのバラを包み部屋の中にキラキラとしたエメラルドのような緑色の煌めく粒子が散りその粒子は各々姿をバラに変えていった。
部屋にはバラの香りが広がりバラの花吹雪が舞い降りていく。
「凄い……綺麗……」
「ああ……」
そんなミーシャとフィルジルの呟きにエドワードとカーティスは満面の笑みを浮かべた。
「「母上お誕生日おめでとう」」
ミーシャの瞳に涙が浮かぶ。そして、二人を自分の傍に呼ぶとギュッと抱き締めた。
「ありがとう……こんなに素敵なプレゼントを貰えるなんて凄く嬉しいわ
こんなに成長したのね……」
「母上を笑顔にしてくれてありがとうエドワード、カーティス」
そんな言葉と最近固い表情ばかりであった父親であるフィルジルが表情を緩めた姿を見たエドワードとカーティスはさらに笑みを深めた。
それはある日の温かな出来事……
それから数か月後ミーシャは無事に王女を出産した。
ミーシャとフィルジルは三人もの子宝に恵まれ、どの子達も健やかにそして聡明に成長していく事になる。
子ども達の成長を見守ると共にフィルジルと共に国民を温かな慈愛で導いていったミーシャは国母として長きにわたり称えられ、国民から多くの支持を得ていた。しかし、その事をミーシャ本人が長く自らの耳で聞き知る事は難しかった。
ある場所に傍には誰も付き添わせず離れた場所に他の者を待機させ、一人の人物が佇んでいた。その人物の手には大きなあるバラの花束が握られている。その花束を自分が見詰めている場所へそっと置くとその人物はその場所へ語り掛けるように呟くが、その呟きは風の音に消され誰の耳にも届きはしない。その人物が語り掛けている相手以外には……
「………俺の事をずっと愛してくれてありがとう……
そして沢山の幸せと二人の血をわけたの掛け替えのない大切な宝物を与えてくれて俺は幸せだったよ
あの子達が巣立った頃、俺もお前の事をまた抱き締めに行けると思うから、もう少しだけ待っていてくれ……
それまでは……このあの子達との思い出のバラを贈る事で我慢してくれな……
ミーシャ愛しているよ……俺もずっと……」
───仮初めなんかでなく俺の本当の唯一の存在である君へ……
ここまで読んで頂きありがとうございます!
このお話で『偽り王子は仮初め婚約者を愛でる』を一先ず一区切りで完結としたいと思います。
今回のお話は賛否両論あるお話だったのではと思います。
王子様とお姫様は結ばれてハッピーエンドめでたしめでたし…で終わるのが、ハッピーエンドを求めてお話を読んでいる方が望んでいることなのかな?と、思い公開するか悩んだお話になります。
ぼかしてあまり直接的には執筆してはいませんが、一人が一つの人生を終えたという所でお話を切りましたが…後味の悪いエンディングになってしまっていたら申し訳ありません(。>д<)
ただ、幸せな夫婦の時間を過ごした一生だったのではと考えた所からのエピソードです。
私のイメージとして解説を少し……
第三子の懐妊は二人とも予定していない事であり、それまでミーシャの身体に負担がかからないようフィルジルはとても気を付けていました。
第三子の妊娠がわかり、このまま出産させるのかをフィルジル自身悩み続けている中ミーシャに産みたいと願われ、気持ち的にはフィルジルも産んで欲しい気持ちも強くあり二人で何度も話し合ってこの結論に至ったのだというこのお話の裏側であります。
無事に出産を終えた後、第三子が手がかからなくなり、上の二人も学院に入った頃人生を終えたというようなイメージで作りました。
もし、不快な表現でしたら申し訳ありません。
妊娠、出産には色々な形があり母体を優先させるのか子どもを優先させるのかその岐路に立たされたという裏側の内容でした。
こんな終わり方でしたが、ここまでお付き合い頂き感謝で一杯です。
次回作も近いうちにお届けできればと思っています。
次回作を公開する時はまた活動報告でお知らせ致します。
どうもありがとうございました!
令和二年 4月22日 一ノ瀬葵




