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最終話 願い

 あの妖魔のアイリーンを滅したお茶会から一年と少し経ったローディエンストック王国では本日王城で執り行われている晴れの日に王国中の人々が祝賀ムードで賑わっていた。


 王国では長年誤った認識をされていた光の魔力について精霊王自らが訂正した事で人々には戸惑う者も多かったが、本物の光の魔力を持つ者の功績である封印していた魔王を現在の王太子と共に幼き頃浄化したという事も周知されるとその力を認めざるを得なく、また実際に一年程前に目の前でその力を見た者がいる事が真実であると納得させられその光の魔力の力の大きさに以前以上にその力を称えるような風潮となっていた。

 そして、その力を持つ者が現王太子の正妃となる事からその成婚式への関心はより大きなものとなり、また二人が沢山の困難を乗り越え愛を貫き結ばれたという逸話も合わさり二人の婚姻には多くの憧れを持たれていた。

 成婚式を終えたばかりの王太子夫妻の姿を一目見る為に王城のバルコニー前には多くの国民が集まり、寄り添い国民へ向けて手を振る王太子夫妻への歓声が響く。そして、真の光の魔力の保持者である王太子妃の麗しい姿にも沢山の感嘆の声があがった。


 王太子夫妻の指にはお揃いの石のついた指輪が光り輝き、その指輪に飾られている石は精霊王が二人へ託した魔石である事はごく一部の者にしか知られていないが、婚姻した夫妻で揃いの指輪を付けるという習慣のなかったこの王国でその事は国民の中で二人のように困難にも打ち勝ちお互いの想いが変わることなく幸せになれるのではという憧れや願いも合わさり王太子夫妻の成婚式後に王国中で貴族だけでなく平民の間でも流行る事になるのはまた別の話である。


 王太子のフィルジルが王太子妃となったミーシャへ既に正妃の印を刻んでいた事から成婚祝賀会としての舞踏会後の初夜の前に極秘で執り行われる印を刻む為の儀式は行われずそのまま二人の初夜となった。

 ミーシャはこの初夜とその次の日の朝の事は生涯忘れられない日と、良い意味でも、悪い意味でも感じる事となる。

 その訳は──……




 優しく髪の毛を梳くような感覚にミーシャの意識が浮上する。

 カーテンの隙間から朝日がもれてはいるがカーテンがひかれているので薄暗い寝室の寝台の上でミーシャの長い睫毛が揺れゆっくりと瞼をあけたミーシャの瞳に一番始めに映ったのは自分がいる寝台の隣で憂いを含んだような表情で自分を見詰めるフィルジルの姿であった。


「フィル……?」


「あ……起こして悪い……」


「ううん……あ、あの……お、おは…よう……」


「おはよう」


 ミーシャが今の状況に気恥ずかしさからか、口ごもりながらの挨拶をするが、フィルジルの表情があまり晴れずにいる事に自分の昨夜の作法が良くなかったのか?などと不安になっているミーシャの頬をフィルジルは優しく撫で口を開いた。


「身体は何ともないか?」


「え……?」


「その……お前がこのまま目覚めなかったら……とずっと感じて……

 昨日は情けないが俺も余裕がなくて、お前に負担をかけたのではないかと思っていたんだ……」


 そんなフィルジルの言葉にミーシャは昨夜のフィルジルの様子を思い出す。

 ミーシャに触れるフィルジルの指先は僅かに震えていたように感じていたからだ。

 それ以上に緊張していたミーシャはその時フィルジルも緊張しているのかとぼんやりと考える事が精一杯で深く考える余裕などなかったが、今の言葉にフィルジルの心の中に見えない深い傷を作っている事を改めて実感した。

 フィルジルは胸中で初代国王夫妻の悲しく残酷な永久の別れを自分達に重ねているのではとミーシャは悟った。


「フィル……絶対大丈夫なんて無責任な事は言えない……

 だけど……私はライラ様ではないわ

 だから私は、ルディ国王とライラ様のような運命には私達はならないと思っていたいの

 フィルが不安に感じる気持ちに気が付かないでごめんなさい……

 でも、私はフィルとこうして夫婦になれた事に後悔も不安もないから……フィルも……」


(フィルが私との婚姻に後悔を感じていたとしたら……

 それが私の命を思っていたからであったとしても……悲しすぎる……)


 そんな悲しそうな表情のミーシャをフィルジルはそっと抱き締める。


「俺もお前と夫婦になれた事は後悔なんて一つもしていないよ

 悪い、俺の弱さでお前を不安にさせて……

 お前が瞳を閉じている姿があの茶会の時に倒れたお前の姿と重なって……怖くて仕方がなかったんだ」


「もしかして、……その……昨夜から……ずっと起きていたの……?」


「いや……少しはウトウトとはしていたが、しかし不安ですぐ目が覚めてはお前の寝息を確かめて安心しての繰り返しで……」


 普段は強がってあまり弱音をはかないフィルジルのその言葉にミーシャは胸が苦しくなる。

 そして今自分が考えて望んでいる事を言葉にする事はそんなフィルジルの不安をさらに重ねるだけかもしれないと思ったが、それでもミーシャは言葉にしないではいられなくフィルジルへ視線を向けて口を開いた。


「フィル……

 私が反対にフィルの立場であったら最愛の人を失うかもしれないという事はやっぱり怖いと思う

 それなのに、こんな事を望むなんてフィルの気持ちに寄り添っていないと思われるかもしれない

 だけど……我が儘でも、私は私達を慈しんでくれた大切な家族のような温かな家族をフィルと一緒に作っていきたいと思っているの

 だって……もう私は貴方の仮初めの婚約者じゃなくて、本物の妃になれたのなら我慢はしたくない

 フィル、貴方と自分の愛しい子を望みたい

 だから……」


 フィルジルは柔らかな笑みをミーシャへ向けるとまた優しくミーシャを抱き締めた。


「俺がこんな弱音をはけるのはお前の前だからだよ」


「え……?」


「理想的な王子の姿なんてずっと偽りの姿で周囲を騙してきて、それでもミーシャと再会してお前にはすぐそんな俺の偽りの仮面なんて剥がされた

 だけど、俺は他人には自分が弱音をはく姿をずっと素直に見せられなかったんだ

 いつも自分が苦しむとわかっていても強がっていた、それは以前まではお前の前でもそうだった

 でも、そんな俺の事をお前はずっと支えてくれていたし、受け入れてくれていた

 お前の前では格好つけたくても、余裕がなくなって格好つけられなくて、それならもうお前にだけは自分を全て晒していいのではないかって、そんな俺でもいいとミーシャなら受け入れてくれるかもしれないと思ったら、こうして素直に弱音が言葉として出ていたんだよ

 お前の前だけだ、こんな格好の悪い姿を見せるなんて

 それでもお前はそんな俺の事を受け入れてくれると思うから……

 そして、お前の事を本当の意味でも昨夜自分の手に入れて、改めて思ったんだ

 手に入ったからこそ失う恐怖があるのだと

 一度手にしてしまったら、もう二度と手放す事なんて出来ないって……

 正直、お前にライラ妃を重ねてしまっていたのは本当だ

 だけど、それでも俺もお前と同じ気持ちなんだよ怖いし不安だけど、お前と家族を作りたいという気持ちは……

 どんな未来が待っているかはわからないが、絶対はなくともそれでも明るい未来がきっとあると信じて俺は不安よりも未来の幸せを望みたい

 その度にこうして弱音をはくかもしれないけどな」


「フィル……

 私の前では格好悪くていい……偽っていない本当のフィルをいつも見せて?

 ありがとう……私の我が儘を受け入れてくれて……」


「お前の事を手に入れたくて仕方がなかったんだ

 後悔なんてする訳がないだろう?

 そして、手に入れたなら尚更俺の手でお前の望みを叶えられるものは全て叶えたい

 それが、俺の望みなのだから

 だから、1日でも永く俺の隣で笑っていて欲しい

 それが俺の願いだ

 ミーシャ……愛してる……

 ずっと、俺の命が続く限りお前の事を守ると誓うから

 一緒に幸せを築いていこう」


「うん……私も……ずっと……フィルと一緒に1日でも永く歩んでいきたい……

 私もよ……愛しているわ……ずっと……」


 優しく包み込まれるようなフィルジルの温かな胸の中でミーシャは今までのフィルジルとの出逢いからの想い出を思い返していた。

 自分からフィルジルへ言葉にした『仮初めの婚約者でいる』と言ってしまったあの時……

 あの時はそんな愚かな考えしか思い浮かばなかった。今、考えればもっと違う方法が沢山あったのだと思う。しかし、そう言葉にしてしまった。そしてその後後悔でいっぱいになった。本当は、もっと堂々とフィルジルの隣に立ちたいだとか……自分の彼への望みたかった願いが沢山あったが、その望みを言葉に出来ない事にいつも苦しくて悲しくて悔やしい思いでいたが、今フィルジルの誰よりも一番近くで彼の優しい温もりを感じながら自分の望みを言葉にしてそれを彼に受け入れてもらえた事に、過去の我慢していた日々の事がどうでもいい事のように思えるから自分はなんて単純なんだと感じながら今の幸せを噛み締めていた。


 そして一番の望みを願う……



 ───願わくは……この幸せが1日でも永く続きますようにと……



 fin……



ここまで読んで頂きありがとうございました!

そして、沢山のブックマーク、感想、評価も頂き感謝でいっぱいです。

また、誤字脱字報告もとても助かりました。


『偽り王子は仮初め婚約者を愛でる』は二人が成婚式で結ばれてハッピーエンドが最終話となりました。

前作でも書きましたが、一ノ瀬は基本ハッピーエンドが大好きですので、このお話もハッピーエンドで終わる事は初めから決めていました。


さて、二作目となるこのお話ですが…語りたい事が沢山であります。

その大部分が反省なのですが……取り敢えずファンタジーは難しいという事が身に染みました……。

ファンタジーのお話を書くのには物語内容を組み立てるセンスや文章能力等様々な力量が多大に必要なのだと強く感じました…未熟な私にはハードルが高かったです。。。

ファンタジーを素敵に執筆出来る作者様方々は凄すぎます。゜(゜´Д`゜)゜。

でも、絶対に書ききってやる…と最後は意地で執筆していたのがバレバレなのではとヒヤヒヤしていました。

物語の本筋はあったのですが、それを文章になかなかおこせず、誤魔化したようなシーンも多々あり。。。

この後書きでは、私の言い訳は書ききれないかもです(ー_ー;)言い訳ばかりで申し訳ありません(;´A`)

また、何処かでこのお話について語ってしまうかも…( ゜ε゜;)

こんな不出来な作品へ毎度足を運んでくださった皆様には本当に感謝しかありません。

皆様の足跡が励みになっていました。


反省ばかりですがそれでも、思い入れのある作品である事は確かで、愛着もあり大切な自分の作品でもあります。動かしにくいキャラクターばかりでしたが、各々幸せになって欲しいと願い書き上げました。

中途半端になっているキャラクターもいる事が心残りですが…


この作品を通してミーシャやフィルが成長したように私自身も小説を執筆する力が少しでも成長出来ていればいいなと願うばかりです。



一先ず、本編はこの回で最終話となりましたが、幾つかまた番外編や後日談等を書ければいいなと考えております。そのお話を更新するまで、まだ連載中とさせて頂きます。


また、全ては無理ですが、皆様の中でこのキャラクターのこんなエピソードは??というようなリクエストがあれば私の技術で執筆できる範囲で大丈夫であれば受け付けます。私の技術で書けない事もあることをご了承の上でのリクエストでお願い致します。リクエストを募っておきながら書けないかもという言葉は何事だ!?ならリクエストを募るなっていう声が聞こえそうですが……本当に未熟者で申し訳ありません。出来る限り頑張りたいと思います( ;´・ω・`)

受け付け終了は、活動報告とこちらの後書きに追記して再度お知らせしてから執筆作業に入りたいと思います。(恐らくリクエスト受け付け期間は短めになると思います。今週中くらい?)

リクエストは感想欄でも活動報告へのメッセージでもどちらでも構いません。

リクエスト……あるのかどうなのかは不安ですが、無くてもせめて一つくらいは私の中にあるエピソードで執筆出来ればとも思っております( ̄▽ ̄;)


本当にここまで応援して頂きありがとうございました!

そして新作も現在お話の本筋を作成中であります。

また、近いうちにお目にかかれればと思っております。

その前に、後日談ですね!

では、またその日まで……


令和2年4月9日 一ノ瀬葵


追記、R2 4/13でリクエストを閉めさせてもらいます。

リクエスト頂き感謝で一杯です!

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