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第71話 周囲の支えと愛情

 ミーシャの頭をジェドは優しく撫でると「無理はするなよ」と言い残しミーシャとフィルジルの前から姿を消した。ミーシャはジェドが消えた辺りを鋭い目付きで睨んでいるように見えるフィルジルへ声をかけた。


「あの……フィル……」


「……好き勝手にベタベタと触ったかと思ったら……あいつ……」


 フィルジルはブツブツと呟くとミーシャをジッと見詰めおもむろに手を握りミーシャを引き寄せる。


「えっ!? フィル……?

 っ、ひやっっ!??」


 フィルジルが先程ジェドが触れ口付けたミーシャの耳朶に手を添えたかと思うと、ミーシャは耳朶に温かな指先ではない湿り気の帯びた感触を感じてピクリと身体が震えた。


「フィ、フィルっ!? な、何っ!?

 いっ、今っ……なっ、舐めっ!??

 きゃっ!?」


 そのままミーシャはフィルジルに抱き締められながら寝台に倒れ込む。

 覆い被さるように組み敷いたミーシャを見詰めるフィルジルの目は少し怒っているようであった。


「な、何でこんな……!?」


「消毒……」


「消毒?」


「精霊王も含めて俺でない他の男に簡単に触れさせるな」


「えっ……? 触れさせるなって……」


「お前自身の全てにだよ

 あいつ……俺の目の前でわざとやりやがって……」


「え……わざと?

 ………っ!?

 フィ、フィルっ……」


 フィルジルはそう言うとジェドが握り口付けたミーシャの手を自分の口もとへ近付け、フィルジルの先程と同じような感触にミーシャは言葉にならない声をあげる。

 フィルジルの熱の隠った瞳にミーシャの心臓はドクドクと音をたてた。

 余裕など持てず真っ赤な顔でフルフルと震えながら自分の事を見詰め自分の名前を呼ぶミーシャにフィルジルは満足気であり、そして色気の含んだ笑みを向け、ミーシャとの距離を縮める。


「あ……フィ、フィル……!

 っ……───」


「俺がお前の事を誰にも触れさせない

 もう、嫌だと言っても逃がせないからな──」


 殆んど零の距離で呟いたフィルジルの言葉はその後すぐ重なる口付けによって消された。その口付けは、今までの二人の想いを重ねるかのように深くなっていき、初めは狼狽えていたミーシャもフィルジルの口付けを受入れ初めたその矢先、二人が居る王城の部屋の扉を突然強く叩かれる音が響いた。


 ───ドンドンっ!


「殿下っ!? こちらにいらっしゃるのですか!?

 精霊王が、(ミーシャ)が目覚めたと我々にわざわざ報告に来られたのですが!」


「殿下っ!! 殿下と姉上はまだ婚姻前なのですよ!?

 それなのに、侍女も護衛も居ない密室に二人きりなど何事ですか!!」


 そんな声に寝台の上にいたミーシャとフィルジルには何ともいえない空気が流れる。


「………………」


「お、お父様とリアン……?」


「あの精霊王(野郎)……絶対わざとだ……」


「フィル……あの……」


 舌打ちをしたフィルジルはもう一度触れるだけの口付けをミーシャへ落とした後寝台から降りて足を進めた。


「殿下っ!? 開けますよ!」


 リアンが扉を開くと扉前にフィルジルが立っていた事にリアンは少し怯むが文句をフィルジルへ言おうとすると、その前にフィルジルが口を開く。


「ミーシャが目覚めて精霊王と共に話をしていたのですが、精霊王がこの部屋を離れたと思ったら公爵達の所へ行かれていたのですね

 ミーシャの様子は今のところ変調を訴える様な所もありませんので精霊王曰く一先ずはあまり心配しなくともいいとの事です」


「そうですか……」


 ミーシャの父親のユリウスと弟のリアンそして後には母親のルーシェも寝台の上にいるミーシャへ近付くと手を握った。


「お父様、お母様、リアン心配かけてごめんなさい」


「全く姉上は無茶しすぎです

 僕をあんな拒否するかのように強制的に離す事はもうしないでください……」


「リアン……ごめんね……拒否した訳ではないけれど……

 自分の事しか見えていなくて……

 あんな事をして、フィルにもジェド様にも叱られてしまったわ」


「当然です!」


 側でそんな様子を見守っていたフィルジルはユリウスへ声を掛けた。


「公爵の許しはまだ頂けませんか?」


「……………」


「自分の考えが不完全であり未熟で、実質的にミーシャを危険に晒した事は反省しています

 ですが、自分にはミーシャの存在は掛け替えのないものなのです

 ですから──」


「私が何を言っても、殿下はミーシャを手放す事は頭の片隅にもないのでしょう?」


「はい

 ですが、ミーシャの父親である公爵(貴方)にミーシャの手を取る事を認めて頂かなければいけないと強く思っています

 ミーシャは家族をとても大切にしている事は長年、側にいて知っています

 それと同じように、公爵夫妻や弟のリアンもミーシャの事を大切に思っている事も知っているからこそ、お互いわだかまり無く将来を誓いたいと思っているのです」


「最終的には陛下が判断なさるのでしょうし、殿下が娘の事を誰よりも大切に思っておられる事もわかっております

 今回の事は娘にも非はあり、不測の事態であった事も理解しております

 後は、成年を向かえていない殿下が直接行う事はありませんが、殿下が貴族達の前で捕らえた革新派の者達への裁きの内容をどうするべきなのか殿下の考えを聞いたうえで殿下のお力を見てからの判断でしょうか?」


「そうですね……

 まだ、事の後始末は残っていますからね

 必ずや公爵、貴方を納得させてみせます」


 不安気にフィルジルと父親のユリウスのやり取りを見詰めていたミーシャの手を母親のルーシェはクスクスと笑いながらそっと握った。


「お母様?」


「心配しなくとも大丈夫よ」


「え?」


「お父様の事よ」


「お父様……?」


「ユリウス様も殿下へミーシャ(貴女)を任せる事が貴女が一番幸せになる道だという事はわかっているのよ

 だけど、ああしてごねているのは父親としてそれを認めたくないだけなの」


「ごねて……」


「そう、何だかんだと理由をつけて殿下へ貴女の事を『はいどうぞ』って簡単に差し出す事が嫌なのでしょう?

 単なる何時までも娘を手元に置いておきたい父親の我が儘な姿で親馬鹿なのよ」


 ミーシャは、ルーシェはユリウスの事を本当によくわかっているのだなと感心し、これが長年連れ添った夫婦の姿なのかと感じた。

 そんな気持ちとは別に自分はどれだけ周りの人に愛されているのかという事を改めて実感し心が温かくなる気持ちと、そんな大切な人達を自分の安易な考えで悲しませていたのかもしれないという怖さ、後悔に懺悔、そしてそうならなくてよかったという安堵を深く感じた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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