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第67話 大切な存在

 フィルジルとジェドの前で涙を流しながらフィルジルへすがるような視線をキャロルは向けていた。


「フィル様は……私の王子様なのでしょう?

 私を……幸せにしてくれるってアイリーン様は言ってた……

 その為に力を蓄えなければならないからって……

 だから、身体を貸したのに……それなのに、そのせいで私はフィル様と結ばれる事が出来ないって……

 どうして? フィル様は私の事を見ていてくれているのでしょう!?」


「私が見ているのは貴女ではない

 貴女の事を見ていた事もない」


「嘘ですっ!

 だって……私と出会えば誰だって私を愛してくれるって……」


「私が愛しているのは貴女ではないミーシャだ」


「そんなの違うっ!

 フィル様が愛するのは私のはずですっ!

 どうして、そんな事を言うの?

 どうして……私を……拒むの?

 私を……愛して……」


「無理だ」


「(キャル、後は私に任せなさい)


 嫌っ! 任せたって、私はフィル様から愛してもらえないっ!


(王子をわたしが陥落させてあげるわ)


 そんな事は、もう信じないっ!!


(面倒ね……優しく言っていれば自我をもって……)


 っ!? やっ……嫌だぁっ! それは、嫌っ! 怖いっ!!」


 妖魔であるアイリーンの呼び掛けであろう言葉を拒否していたキャロルが酷く怯え叫び出す様をフィルジルとジェドは静かに見ていた。


「奴が現れるぞ、覚悟はきまったのか?」


「ええ、このような緊急事態ですので父上もわかってくれるでしょう

 万が一があれば、ミーシャの事を頼みます」


「断る」


「精霊王?」


「そのような失敗するかもしれないという後ろ向きな覚悟であれば、先ず成功はしない術だ

 それならば、ミーシャは精霊界へ連れていく」


「そうですね、失言でした

 万が一があろうとも、貴方であろうともミーシャは渡しません」


「いいだろう」


 フィルジルの言葉にジェドは口端を上げた。


「これ以上、私の身体を使わないでっ!

 いやぁぁぁぁぁ!!!」


 キャロルの悲鳴が上がったかと思うと、キャロルの魔力でない膨大な魔力をフィルジルとジェドは感じキャロルの様子を注意深く見詰めた。


「……全く面倒な手を掛けさせて………

 せっかく、上手くいっていたのにこの状況どうしてくれるのかしら? ねぇ、キャルの愛しの王子様?」


「そうだな、ではその面倒事から今すぐ解放してやろう」


「解放?」


 そう、フィルジルはキャロルの身体を飲み込んだアイリーンへ言葉を放つと詠唱を始めた。

 その詠唱に何かを感じたアイリーンは魔力の塊をフィルジルや自分達を囲む防御膜へぶつけようとする事をジェドの術で防がれる。


「精霊王、邪魔をしないで

 そこの調子に乗っている愚かな抵抗をする王子へ、今の自分の現状を認識させなければならないのよ!」


「生憎、お前に好きなようにさせない事は、王子と意見があってな」


「ふざけないでっ!!」






 ミーシャは自分の目の前の追い出された防御膜の中の様子にふらふらと立ち上がるとゆっくりとそちらへ歩き始めた。

 そんなミーシャの手を側にいた弟のリアンは掴む。


「姉上! どちらへ行かれるのですか!?」


「フィルを止めなきゃ……」


「行かせません!

 殿下からこのような事態になった時は姉上を僕の側から離さないようにと命じられております!」


 ミーシャはリアンをじっと見詰めると悲しそうな表情を浮かべた。


「リアン……ごめんね……」


「え……」


 ミーシャの周りを金色の光が囲むとリアンはミーシャから弾かれたように撥ね飛ばされた。


「っ!?

 姉上っ!!」


 そんなミーシャの腕を駆け寄ってきたルドルフが掴む。


「ミーシャっ! フィル達へ近付いたら駄目だっ!」


「離して……ルドルフ」


「フィルからミーシャの事を頼まれているっ!」


 ミーシャはフッと笑みを浮かべた。


「私には何も教えてくれなかったくせに……

 どうして……」


「ミーシャっ!大人しく言うことを聞いてくれ!!

 フィルならきっと大丈夫だからっ!」


「大丈夫って、何処にそんな根拠があるの?

 フィルに何かがあったら私は……」


「ミーシャ! フィルと精霊王の力を信じるんだ!」


 ミーシャはルドルフの言葉に一度フィルジル達が居る方へ目を向けるとまたルドルフへ視線を戻した。


「ルドルフ、さっきリアンの事を見ていたでしょう?

 私の持っている力には闇の魔力の防御でもきかないって──」


「ミーシャの力の事は聞いた!

 駄目だっ!その力を使ったら、そんな自らの命を削る力なんて──」


「ルドルフ……ごめんね……

 自分の命(それ)よりも、フィルの事の方が大切なの」


「ミーシャっ!」


 リアンと同じようにミーシャから弾かれたようにルドルフも飛ばされる。

 そして、立て続けに自分の力を使ったミーシャの足元にはジェドの力の入る魔石が砕けた髪飾りが落ちていた。


(魔力を失うような術なんて使わせたくない

 フィル……貴方はこの王国に必要な人間(ひと)なのよ……

 だから、それならば……)


 三人のいる防御膜までミーシャが近付くとミーシャは手を組み瞼を閉じ強く願う。


(フィルはあの日『一番確実な方法は俺は出来れば使いたくない』と言っていた

 黒魔術の力を消滅させる方法で一番確実だとされているのは、黒魔術を扱う者に魔界の者が魔力を与える為の入り口とされている黒魔術を使った時に刻まれる紋章をその力を使っている本人から切り離しその部位を消滅させる事

 キャロル様の紋章はキャロル様の瞳に刻まれていると妖魔は言った

 キャロル様の事を『あの女』ってフィルはいつも嫌悪感を示していたけれど、でもそんな相手にも非情になれないのがきっとフィルなんだろう

 だって、フィルは優しすぎるから……

 自分が犠牲になるかもしれない道を敢えて選ぶくらい……

 この王国の未来はそんなフィルを必要としている

 民から未来の偉大な国王を奪ってしまってはいけない

 ううん、それは建前……

 今ならライラ様の気持ちが痛い程わかる……

 自分の身を呈しても守りたいと思える存在だということ

 誰よりも幸せになって欲しい

 自分の命よりも大切に思うくらい深く愛しているから……

 守られているだけ、見ているだけは嫌

 だから──)



「キャロル様の中に入り込む、二つ目の黒い力を持つ魂……

 彼女の中から離れ、二度とこの地へ入り込む事が無きよう浄化を私は強く願う……」


 ミーシャが強い願いを口にした瞬間目の前の防御膜を金色の光が包み込んでいった。






 ───この時、私は自分の事ばかりで何も見えていなかった。

 自分が身を呈して守りたいと思う気持ちが反対にその相手を傷付ける事になると……

 自分だって守られるだけは嫌だと感じていたくせに、フィルの気持ちなんて全然考えていなかった。

 目の前であんなにもジェド様がライラ様の事で傷付いていた姿を見ていたくせに……

 フィルの気持ちを踏みにじり一番残酷な方法を選んだ愚かな自分……

 出来る事ならこの時に戻って自分を叱咤したい──………




ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

誤字脱字報告も感謝しております。

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