第65話 お茶会の始まり
数日後──
王城で開かれる王妃主催のお茶会当日フェンデル公爵家の館の前には絢爛な馬車が停まっており、館の応接室ではお茶会用のドレスに身を包んだミーシャが戸惑いを隠せない表情で長椅子に腰掛けている人物と相対していた。
「ど、どうしてここに……?」
「男が婚約者を迎えに行く事は当然だろう?」
「婚約者って、貴方の今の婚約者は───」
「俺の婚約者はミーシャ以外いない」
「フィル……」
フィルジルは長椅子から立ち上がりミーシャの前に行くと、ミーシャの手を取り手の甲へ口付けを落とした。
「そのドレスも装飾品も似合っている」
「これ……やっぱりフィルが用意したのね?
変だと思ったのよ私が用意していたものと違うドレスや装飾品が今日起きたら用意されているのだもの
だけど、この色は……」
「俺の婚約者には相応しい色だよ
それに、デザインもミーシャに合うように用意したんだ」
ミーシャが身に纏っているドレスは空色のシフォンが重ねられた華やかなドレスであった。そして、首もとや耳元にはイエローダイヤモンドが飾られた首飾りと耳飾りが煌めいていた。
「こんなの……やっぱり良くないわ
今の状況じゃお茶会で騒動が起きてしまうかもしれない……」
「今日の茶会でこの色の装いが出来るのはミーシャ以外いない
他の者に俺の婚約者はミーシャであるという事をわかりやすく披露するにもこれ以外の装いはないよ
時間が押しても良くないから王城へ向かおうか」
フィルジルはミーシャの手を取り応接室を出てエントランスへ歩き出す。
そんなフィルジルへ使用人の前だという事も考えず何時もの口調でミーシャはフィルジルへ問いかける。
「ねぇ!フィル、先日話していた事は本気なの!?」
「………………」
「フィル!質問に答えて!」
エントランスではミーシャの弟であるリアンが待っていた。
「………殿下」
二人の視線が交わると、フィルジルはリアンを真っ直ぐ見て言葉を返した。
「リアン俺を信じて欲しい
だから、頼んだぞ」
「姉上を傷付けたら不敬であろうと許しませんからね」
「ああ」
「フィル……? リアン……?
何? 何なの?
私に何を隠しているの?」
そんな二人の様子に訝しげな表情を浮かべたミーシャは二人へ問うが二人はその問いには何も答えない。
そして、リアンは真剣な表情をミーシャへ向け言葉を掛けた。
「姉上、僕が姉上の側に居られない時は殿下の側を離れないでくださいね
殿下、父上からも言われていますが本当に頼みましたよ」
「わかっている」
これから、何が起きようとしているのか全くわからないミーシャは王室の紋が入った馬車に乗せられ、フィルジルの合図でその馬車は走り出した。
「フィル、本当の事を教えて
今日のお茶会で何をするつもりなの?
リアンまで何かを隠していて……
ジェド様はフィルと話をしてくると言って出ていかれてから、戻られないし……
どうして? どうして私は何も関わらせてはくれないの?」
ミーシャの向い側に座るフィルジルは息を一つ吐くとミーシャを見つめた。
「俺の私室で話した事は父上に反対されたよ
茶会の場で危険な術を使う事は許可できないってね
まぁ、それは当たり前の事だとは思うから納得いっている
だけど……」
「フィル……?」
「今日は、俺の傍からは離れないでくれ
万が一俺が傍にいられない時はミーシャのご両親である公爵夫妻やリアン、それにルドルフのように信用出来る者の傍に必ずいて欲しいんだ」
「どうして?」
「俺の本来の婚約者はミーシャだという事を今日の茶会で改めて宣言するからだ
そして、革新派の者も担ぎ上げた偽物の光の魔力を持つとしたあの女も断罪する
だから、どんな危険がお前に降りかかるかわからない
それで、リアンもピリピリとしていたんだ」
「でも、陛下は許可されなかったって……」
「……ああ、そうだ」
含みをもったフィルジルの表情にミーシャの不安はより深まる。
(フィルは何を考えているの?)
「………フィル……?
一人で全てを抱えないで……
私だって力になりたい」
「一人で抱えてなんていない
人は一人では何も出来ないっていう事は理解しているつもりだよ
だけど、一番大切な存在はこの手で守りたかったんだ
お前は十分俺にとって力になっている」
フィルジルはミーシャの隣へ席を移動し、ミーシャの指に自分の指を絡めた。
「それなのに、偽りとはいえお前を手放したような振りをした俺は愚かだよな」
「え……」
「もう……離さないから……
お前が嫌だと言っても俺の傍から絶対に離さない」
近付くフィルジルとの距離にミーシャの鼓動は段々と大きくなっていく。
触れるだけの口付けであったが、フィルジルの想いとこれから何が起こるかわからない不安にミーシャの胸は苦しくなった。
馬車が王城に着きフィルジルの手を借り馬車から降りたミーシャの姿にお茶会に集まっていた人々からざわめきが起きた。
そんな状況にもミーシャが動じる事がなかったのは幼い頃から受けていた王妃教育のおかげだという事も今の状況を考えると何とも言えない気持ちにミーシャはなる。
「父上と母上へ挨拶へ行こうか」
「………ええ」
真っ直ぐ前を見据えていたミーシャにフィルジルは笑みを向ける。
「腹を括ったような顔だな」
「これから何が起こるか教えてくれないし、頭の中はモヤモヤで一杯よ
だけれどフィルの事は信じているし、ここまで来たら躊躇しても今さらでしょう?」
「久しぶりにミーシャらしい言葉を返してもらったな」
そうフィルジルは言うと手を取っていたミーシャの手を自分の腕に置く。そんな国王と王妃の元へ足を進める二人の前に姿を見せた者達がいた。
「これは、フィルジル殿下こんな公の場でのその行動は如何なものでありましょうか?」
「ストゥラーロ子爵」
それは、キャロルを連れたストゥラーロ子爵であった。
「殿下がエスコートする相手を間違われているのではないでしょうか?」
「間違えてはいないつもりだが?」
「何を仰有っているのでしょうか?
愛妾を持っても構わないと心優しい我が娘のキャロルは殿下へ伝えたかもしれませんが、婚姻前にしかもこのような他の臣下も集まる正式な公の場でのそのような行為には誠意があるとは思いませんな」
「愛妾……由緒ある公爵家の令嬢へそのような呼び方をするとは自分の立場をわかっているのだろうか?」
「ええ、殿下の正式な正妃になる実父ですのでこれくらいの進言は正当な事だと思っております」
「ふっ……」
フィルジルはストゥラーロ子爵のその言葉に渇いた笑みを浮かべた。そんなフィルジルの様子にストゥラーロ子爵は顔を歪め、その隣にいたキャロルは今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「ああ……これは失礼……
あまりにも自信ありげに言葉を並べるものだから……」
「殿下……お戯れは程々にして頂かないと……」
「戯れ?
貴殿は私が気分を害しているとは考えも及ばなかったのだろうか?」
「気分を害している……とは?」
「先ず、私の本来の正式な正妃になるべく婚約者は以前と変わらず隣にいるフェンデル公爵家令嬢であるミーシャ嬢だ」
「何を……フェンデル嬢とは娘との婚約が決まった時に婚約は解消されたのでは……」
「婚約は解消していない
その上で、私の意思はない場で決定された貴殿の娘との婚約をさらに結ぶ事となったのだ
その事に関しては、この王国の取り決めもあるから仕方がない事だと諦め、ミーシャ嬢にもこのような屈辱を我慢してもらっていた」
「仕方がないとは……何て事を言うのでしょうか?
娘は光の魔力の保持者であるのですぞ!」
「それが、偽りでなければな」
フィルジルはストゥラーロ子爵とキャロルへ鋭い視線を向けた。
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