第64話 引き継いだ魂
フィルジルの私室で二人きりのフィルジルとジェドの間にはなんともいえない空気が流れていた。
「ミーシャに加護を与えてほしいだと?」
「はい
ミーシャの魔力こそが本当の光の魔力であるという事を他の者へ納得させるには、その力そのものを見せなければなかなか納得させられないという事はわかっていますが、俺はそんなミーシャの命を削る魔力などミーシャには使わせたくはありません
しかし、周囲の者を納得させる為にそれ以上の目に見える切っ掛けがなければ無理だとも思っています
それならば、この王国の者へ加護を与えてくれ魔力を授けてくれている精霊の頂点にいる貴方に観衆の前でミーシャへ加護を与えて貰えば納得する他はないと思ったのです
無礼を承知で無理な事を言っている事は理解しています……ですが……」
「無理だな」
「……っ………」
「勘違いするな
観衆の前で加護を与える事が無理だとか、加護を与えたくないという事ではない
物理的に無理な話であるのだ
ミーシャの魔力の性質は人間が通常使うものとは違い魔力そのものが精霊と同じ性質なんだ
それは、精霊が精霊に加護を与えようとする事と同じ事であって同じ性質の魔力の者へ自分の魔力の加護を与える事は出来ないのだ
俺は人間の限りある命を永遠の命へ変える事は出来るが、そんな事は王子自身望んではいないだろう?
ミーシャと同じ時間を共に過ごしたいと俺に言い放ったのだからな」
ジェドの言葉にフィルジルは顔を歪めた。
またしても、自分の希望を託した考えが無理な事だとわかったからだ。
「まぁ、加護を与えられなくとも俺自身が観衆の前でミーシャは精霊と同じ力を持っていると宣言する事は出来る
だが、それだけでは観衆は納得は出来ないだろう
この王国の取り決めとされている、魅了の力を持った者が光の魔力の保持者だという掟を歴史の中で意図的に変えられた事実を明らかにしない限りはな」
「………それならば、本人からその事を観衆の前で話してもらう事が確実だという事ですね」
「本人?」
「ストゥラーロ嬢の中にいる妖魔本人からです
俺達の前で姿を見せたあの日、あの妖魔自身が言っていた事です
『これまでに少しずつ作られたこの王国の仕来たりで……』と、あの妖魔は言っていたと言うことは、あの妖魔が長年この国の歴史の中でこの仕来たりを歪めていったという事なのでしょう
俺があの女からあの妖魔の魂を剥がした時に話させます」
「魂を剥がす術はかなりの高度な術であるぞ?
手を貸してやろうか?」
「貴方に手を貸して頂ければ確実なのでしょうが、俺が最後までこの事はけりをつけなければいけないのです」
「…………そういう、一人で抱え込む所も似ているなんてな」
「似ている?」
「王子、お前のその魔力も容姿も性格もルディそっくりだ
そして、魂も……
いや、魂はそっくりではなく同じなのであろう」
「え……?」
「魂が引かれ合うという事は本当なのであろうな
過去と同じようにはしない
ミーシャに加護を与えられないかわりに、俺が魂を剥がす術の手助けをしてやる」
「精霊王?
なんの事を言っておられるのですか?」
「………まさか二人の魂と同じ者が同じ時に生まれ変わるとはな、お前の魂は恐らくルディの魂の生まれ変わりだ」
「俺がルディ国王の生まれ変わり……?」
「ああ、それにミーシャはルディの妃であった精霊から人になったライラと同じ性質の魂とそして魔力を受け継いだのだろう」
「それは……」
「だからといって
王子、お前もミーシャもがルディやライラの変わりという訳ではなく、その魂はお前やミーシャのものなのだから、あまり気にしなくともいい
俺がただ放っておけないだけであるだけだ」
「…………はい……」
突然のジェドの言葉にフィルジルは動揺する気持ちを隠しきれなった。
その後、フィルジルとジェドは場所を移し父親である国王のヴィンセントの執務室にいた。
同じ場所には前もってフィルジルが呼んで欲しいと伝えていた宰相のドレイクとミーシャの父親のユリウス、魔術師団長のロウルも同席していた。
「これが、俺とルドルフが集めた革新派の不穏な動きについての報告書です
ストゥラーロ子爵が黒魔術を使いストゥラーロ嬢へ妖魔を召喚させた証拠は彼女の瞳に印された紋章しかありませんが、ストゥラーロ子爵の腕には古い手術痕があるようです
そして、これもその場を押さえた証拠ではありませんが、ストゥラーロ嬢は既に純潔ではないとの事をルドルフが掴んできました
恐らく、ストゥラーロ嬢の中にいる妖魔が魔力を補充する為に彼女の魅了の力で操られた子息達とストゥラーロ嬢を介して交わっているとの事です」
「………これは……どこまで信じるに値する?」
「自分の目で確証をとった訳ではありませんが、ほぼ確証があると俺自身は思っています」
「今、私も精霊王からも光の魔力の本来の意味合いに、ストゥラーロ嬢の中に妖魔が入っているという事を聞いたからな……」
「ストゥラーロ嬢が純潔でない事はサイモン家嫡男からの言葉であるとルドルフは言っていました
これだけでも、王族の妃に迎える令嬢への取り決めが破られている事になっています
王族の妃になるものは純潔でなければならないという取り決めです
そもそも、本物の光の魔力の保持者でもない
そんな者をこの王室に取り込めばどうなるのか理解できますよね?
恐らく、今までの光の魔力の保持者と婚姻を結んだ王族が即位できなかった理由の一つでもあるのでしょう……
………父上は何処まで知っていたのですか?」
フィルジルがヴィンセントを見据え口を開いた言葉に室内の空気はピンと張り詰めた。
「精霊の力を持っている者が本当の光の魔力の保持者という事や、ストゥラーロ嬢の中に黒魔術で召喚された妖魔が入り込んでいる事は今日初めて知った。
過去、光の魔力の保持者と婚姻を結んだ王族が魔力の枯渇で王族から降下している事は調べわかっていたが、その理由までは私にはわからなかった
革新派の動きはこちらでも注視していたからわかっていた事と、ストゥラーロ家に年若い貴族の令息が集められている事までは掴んでいたが、私が掴んでいた事はそこまでだ
私も鬼ではない、わかっていながらお前とミーシャ嬢を引き裂いたりはしないよ」
「そうですか……
しかし、俺が調べている事を父上も同じように調べ俺の力量をみていた事は本当であるのでしょう?」
「まぁ、そうとられても仕方がない事は反論はしない
だが、それでもお前の意地は見せてもらった
だがな、それとこれとは話が別だ
茶会で、危険な魔術を使う事はお前の父親である前に国王として許す事は出来ない」
「………………」
ヴィンセントの強い言葉にフィルジルはヴィンセントへ向ける視線をより鋭くした。
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