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第63話 本意

 フィルジルはミーシャの手を握っている手に力を入れ言葉を続けた。


「『魔術は失敗したら最悪その術を発動させた術師へ返る』

 魔術を習う時に必ずといっていい程講師から教わる言葉だ

 ミーシャも知っているだろう?」


「その言葉に何かあるの? 私も習ったけれど……

 幼い子どもが自分の魔力をコントロールしきれずに暴発させない為の戒めの言葉で、魔術はむやみやたらに使用したりせず慎重に使わなければいけないっていう事をわからせる為の言葉よね?」


「ああ

 通常、人が扱う魔術ではかなり危険な事をしたり自分の魔力量や技術を見誤らない限りはあまりそのような事までは起こらないし、起こったとしても程度の差はあれ怪我をする程度だろう

 そもそも、失敗しても術師へ跳ね返る前にその場でその術が消滅したり他のものにあたったりする事が殆んどだ

 だがな、中には成功するか失敗して術師へ跳ね返ってくる二択しかない魔術も存在している

 黒魔術がそのいい例だ」


「フィル……?」


「そして、俺がこれからやろうとしている事は限られている者しか使う事が許されていない術を使おうと思っている……」


「え……」


 ミーシャはフィルジルの考えている事に大きな不安を感じる。


「あの女の中にいる妖魔の魂を剥がす」


「魂を剥がす……?」


「黒魔術で召喚された妖魔の力で感情を操られた者達を正気に戻すにはその力を与えた妖魔の魔力を術者から失くさなければならない

 その方法は幾つかあるが一番確実な方法は俺は出来れば使いたくない

 だから、その次に確実な方法を調べて見付けた

 それは、その魔力の元となった妖魔を術者から剥がし消滅させる事だ

 だが、この術は成功する確率は二割にも満たないと言われている」


「失敗したら……どうなるの?」


「……その術を使った者の魔力は全て失うとされている

 持ち合わせている全魔力を集中させて使う術であるからだろうな

 この術は、例外を除いて魔術師団の中でも力が高く役職についている者が立会人の前ででしか使う事を許されていない

 そして、その例外が有事の際に王族が使う事だ」


「…………」


「近々、王城で母上主宰の茶会が開かれる」


「え?

 でも……王妃様はお身体を崩されて暫く公務につかれないって……」


「それは、父上が母上を守る為の嘘だよ

 母上は闇の魔力を持っていない

 万が一あの女の魅了の力で操られてしまう事を危惧して、父上は俺とあの女との婚約式にも母上を出席させなかったんだ

 だが、母上の事をよく思っていない重役達からの非難が多くなっていて茶会を中止する事が出来なかった

 それならば、俺がその茶会を舞台にしようと思った

 そして、そこでミーシャこそが俺の妃に相応しいという事も他の者に認めさせる」


「私は……どうしたらいい?」


 フィルジルはそのミーシャの言葉に柔らかい笑みを向け、握っていたミーシャの手を持ち上げ口付けを落とす。


「何もしなくていい

 ただ、俺の隣にいてくれればそれでいい」


「……………っ……私は──」


「話は終わったか?」


 フィルジルの言葉にミーシャが感じた事を吐露する前にフィルジルの私室へ戻ってきたジェドが声を掛け、ミーシャは何も話す事が出来なかった。


「はい、ミーシャとの時間をとって頂き感謝します

 ………それとは別に……精霊王、貴方と個別で話したい事があります」


「話だと……?」


「……………」


 ジェドは自分の事を見据えてくるフィルジルをじっと見ると息を一つ吐いた。


「ミーシャを屋敷まで戻したら、ここへまた来てやっても構わない」


「ありがとうございます」


 そういうと、フィルジルはミーシャへ目を向けた。


「ミーシャ、もう苦しませないから

 茶会でかたをつける

 だからミーシャには可能な限り今度の茶会に参加してほしい」


「フィル……私……」


 フィルジルはミーシャの正妃の印が刻まれた方の手へ口付けを落とすと言葉を続けた。


「後、少しだ

 だから、俺を信じて待っていてくれ」


「あ──」


 フィルジルの言葉が終わるのと同時にミーシャはフィルジルへ何も言えずジェドの転移の術でフィルジルの私室からフェンデル家の屋敷の自分の私室へ戻った。


「…………

 俺はもう一度王子の話とやらを聞きに城へ行ってくるが……

 どうした? 王子と思うように話せなかったのか?」


「フィルが……一人で全てを背負おうとしているようで……」


「…………漸く王子も、覚悟を決めたのであろう?

 ま、取り敢えず王子が何を考えているのか聞いてこようか

 ミーシャ、お前はそんなに心配しなくともいいと思うぞ」


「ジェド様……」


 ジェドはミーシャの頭を一撫ですると姿を消した。

 自分の私室に残されたミーシャは寝台に力なく座り、自分の掌をじっと見詰める。


(ただ、周りに守られるだけで、結局……私は何の力にもなれない……

 そして、自分の幸せの為に一人の人間を不幸にしてしまうのかもしれない

 そう考えるのは偽善者と言われるのかもしれないけれど……

 フィルが私の為に自分の事も顧みないで事を起こそうと思っている事をどうして、心から喜べないんだろう……

 私にもっと力があったら……)


 ミーシャは寝台に横になりぼんやりと天蓋を見ながら瞳を閉じた。




 ◇*◇*◇



 再びフィルジルの私室へやってきたジェドは長椅子に腰掛ける。


「で? 話とは何だ?」


「ミーシャの持っている力が本来の光の魔力と呼ばれる力であったのですね」


「ああ、ミーシャから聞いたのか?」


「いえ、ミーシャは俺に伝えようとしていましたが、俺自身が聞くのを拒みました

 答えを教えてもらうだけでは誰も納得させられないという俺のエゴからです

 そのせいで、ミーシャに余計な苦しみを与えた事は自覚して反省しています

 自分の力のない事も傲慢であった事も痛いほど自覚させられました

 それでも、見付けたのです」


 フィルジルはそういうと、古い一冊の本のようなものをジェド前に差し出した。


「これは?」


「この王国の建国王でもあるルディ国王の手記です

 筆跡は俺より貴方の方がよくご存知でしょう?」


 ジェドはその手記を手に取り頁を捲るとルディの癖のある字体で文字が書かれていた。


「隠されるように仕舞われていました

 ですが、未来で何かがあった時に誰かの役にたつかもしれないという願いを込めたのか、この手記を見付ける手段を残しておいてくれたのだと思っています

 禁域のある場所にこの手記の隠されている場所を記した紙片が挟んでありました。

 その紙片は精霊の命と力に関する書籍に挟んであり、ルディ国王のその時の気持ちが何故か俺には少しですが理解できたのです」


「それで?

 俺に何を言いたい?」


「ミーシャに貴方の力の加護を与えてはくれませんか?」


 ジェドはフィルジルの言葉に鋭い表情を向けた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

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