第61話 枷
ジェドは自分を見据えてくるミーシャに鋭い視線を向けながら言葉を発した。
「ライラから何を聞いたのか知らないが、お前は他の事にかまっている余裕などあるのか?
それとも、もう王子の事を諦める覚悟が出来たのか?」
「話をそらさないでください!
私は、今はジェド様のお話をしております!」
「俺の事など構わなくともいい
お前はそんな余裕などない筈であろう?
俺は……枷をつけている方が丁度良いのだ……」
ミーシャはジェドにこれ以上自分には踏み込むなという一線を引かれたような気がした。
(だけど……ジェド様が何かを後悔しているのは確かで……
私なんかが踏み込むよりも当事者同士が話した方がよりいいのではない?
でも、どうしたらジェド様とライラ様が話せるの?
二人に話をしてほしい……!)
「……っ!! なっ、何をやって──」
ミーシャは思わずジェドとライラに二人で話をさせたいと強く心の中で願った。胸の前で組んでいた手にぎゅっと力が入った時、ミーシャの周りを柔らかな光が包む。その事に気が付いたジェドはミーシャを止めようとするが間に合わなかった。
「っ………」
ミーシャを包んでいた光がジェドの首に掛けられている魔石を包むと魔石に眩い光が差しライラの姿が現れた。
「ライラ……」
『ジェド……これは彼女の力のせいね……
ジェドに伝えたい事が沢山あったの……そして、関係のない彼女の力を借りてしまった
こんな形で伝える事は貴方の怒りをかってしまうとわかっているけれど、一番伝えたかった事……貴方を苦しめてごめんなさい
ジェドを未だに苦しめている事はわかっている、そしてルディに重荷を背負わせた事もわかっているけれど、それでも私はあの瞬間は幸せだったの……』
「ライラ違うんだ……俺は──」
『勝手な私を許──……』
「ライラっ!!
………っ!!」
光が消えライラの姿が消えた時にジェドはミーシャの方を見るとミーシャはその場で倒れていた。
睫毛が揺れ瞳を開けたミーシャを抱えていたのはジェドであった。ジェドとライラに話をさせたいと強く願った事でライラの姿を魔石から呼び出す力をミーシャが与えたのだ。
一度に沢山の魔力を使い身体の力を失ったミーシャをジェドが魔力で回復させていた。
「ジェド様……?」
「全くお前は無茶をする……」
「わたし……」
「魔力を使う事は命を縮める事だと言わなかったか?」
「あ……魔力の使い方が良くわからなくて……でも今ので自分の力の使い方が少しわかったのかもしれません……
強く願うと力を発動させる事が出来るのだと実感しました
ライラ様とは……」
「お前は……本当に人の事ばかりだな
取り敢えずは少し身体を休ませろ」
薄く笑みを浮かべたジェドの瞳には先程のような鋭さは感じられなく、ミーシャをそのまま抱き上げたジェドはミーシャを寝台へ運び横にさせた。
「私の力では少ししかライラ様と話をして頂く事しか出来なく申し訳ありません」
「そんな事を気に病むな
俺の為に力を使い命を縮める事などしなくていいんだ
お前は俺の事よりも考えるべき事があるだろう?」
「………………」
ミーシャが物言いたげにジェドを見詰めている事にジェドは気が付く。
「何だ?」
「ジェド様は何故私をそんなに気に掛けてくださるのですか?」
「それは…………
無鉄砲なお前が放っておけないからだ」
その言葉を呟いたジェドの表情に何かを悔やんでいるような感情が見えたのはミーシャは気のせいであったのだろうか?と思っていると大きなジェドの掌で目を覆われミーシャは急速に眠気が感じた。ジェドの魔力が掛けられたのかと頭に浮かぶのと同時にミーシャは眠りについた。
そんなミーシャを見詰めジェドはサラサラのミーシャの髪の毛を指で梳く。
「俺がミーシャを気に掛ける訳は……そんな理由を聞いたらミーシャは怒るだろうな……
謝らなければならないのは俺であるのだよ……ライラ……」
次、ミーシャが目覚めた時は魔力を使った事による身体の疲労の重さはすっかりなくなっており身体はすっきりしていた。随分深く沢山眠っていたようで日は落ち空には月が輝いていた。
ミーシャの私室にはジェドの姿はなく、ミーシャは昼間に自分がしたことはお節介であったのかもしれないと複雑な気持ちを抱えながら私室のバルコニーへ出て溜め息を溢した。足元にはミーシャについてバルコニーへ出てきたフィルジルから預かっているミィがすり寄ってくる。
「ミィ、おいで
………ご主人様が恋しいの?」
ミーシャは柔らかな笑みをミィへ向け抱き上げると、ミィのフワフワとした毛に自分の頬を埋めた。
ミィの温もりをミーシャにとって大切な存在と重ねながら瞼を閉じる。
「うん……恋しいわよね
私も同じ気持ちよ……」
ジェドの言うように他の事を考えている余裕なんて今のミーシャには本当はなかった。
幼い頃から当たり前のようになりつつあったフィルジルと共にする時間はミーシャにとってこんなに掛け替えのなく大きなものであったのかとフィルジルと離れ離れにならなければ、ならなくなってから何度も痛感させられた。今だってフィルジルに会いたくて、話をしたくて、フィルジルの傍で……彼に抱き締められたくて堪らない。こんなに様々な事があって不安な時は尚更だ。
『あいつ結構寂しがり屋なんだ、それに人見知りだし……』
以前フィルジルがミィの性格をミーシャに語った言葉を思い出す。
「それは、私もよ……
本当はずっと強がって我慢してるの……
本当は全ての柵を無視して自分達の立場を顧みずフィルの傍にいたい……」
「では、会いに行くか?」
「え……?」
ミーシャが突然聞こえた声に振り向くと壁に凭れかかるジェドの姿があった。
「ジェド様……何を仰有っているのですか?
そんな事、無理であります」
「俺が場所を転移する事が無理だと思うか?」
「そういう事を言っているのではありません!
今の私の立場では王城へ登城など出来ないのです」
「直接王子の私室に転移すれば他の者に見られないだろう?」
「そういう事ではなくて……」
(今……フィルに会ったら気持ちを押さえられなくなりそうなのが怖いから……)
「ごちゃごちゃと言い訳ばかり言うな
王子に会いたいのであろう?
先程俺にはあんなに強引にライラと合わせたではないか
それならば、お前も当事者同士少し話したらいい」
「え……待っ──」
ジェドはそういうとミーシャの静止の声も聞かずにミーシャを抱き寄せた時にはミーシャの私室のバルコニーには二人の姿はなかった。
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