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第60話 転換

 王城の禁域とされている書庫に今日もロウルを伴ってフィルジルは訪れていた。

 フィルジルの意識は殆んど書物には向けられず、手に取った書物に目を向ける事もなく数頁捲ると書物を閉じ棚へ戻す事を繰り返していた。


(ルラン師団長が忙しい事はわかっているのに、こんな無意味な事をまだやっている自分はなんなのだろうか……

 もう、俺が必死になって調べていた事はここで調べなくとも明らかになっているのにも関わらず何を足掻いているのだろうか……

 これならば、革新派の動きを探っていた方がまだ現実的だ

 結局、俺の力がなにも無い事が露呈しただけであった

 現状を何も変えられずミーシャに苦しみだけを与えて……

 安直な考えで偽りの姿を振る舞い始めた子どもの頃と同じだ

 理想的な王子なんていうこんな偽りの姿を纏っていても自分の大切な存在を取り巻く環境を何も変える事のできない……まるで愚物だな……

 こんな俺に王太子の立場など似つかわしくない……

 第二王子である(フィリップ)がこの立場についた方が……

 捨ててしまいたい……こんな立場なんか……)


 ──『私はフィルの気持ちを信じているから、フィルは自分の進むべき道を進んでほしい

 そしてフィルの事を王国の民は必要としているのだから自分の身の危険を顧みない事は絶対にしないで』……


「……………っ……」


 自分の力の無さと立場に嫌気が指したフィルジルの頭の中にはミーシャがルドルフ通して言伝ててくれたフィルジルへ向けての言葉が思い浮かぶ。フィルジルが溜め息をまた一つ吐いた時ロウルが声を掛けた。


「殿下、そろそろお時間に御座います」


「ああ……わかった」


 ロウルの声にフィルジルは手にしていた書物を棚へ戻そうとしたが何かが奥で引っ掛かっているのか書物が上手く棚へ戻らなかった。


(……何だ? 奥に何かあるのか?)


 書物を引き出し、引き出した書物の入る筈の隙間に手を差し入れた時何かが指先にあたりフィルジルはそれを取り出す。

 それは古びた鍵であった。


(鍵? 何故こんな所に?

 この書物は俺が手に取る前はしっかりと収まっていた

 まるで、書物を引き出した時に隠していた鍵が落ちたかのように……)


「……………………」


 フィルジルはそこに入るはずの書物に目を向ける。

 他の書物と同じような装丁の書物の題字は『精霊の魔力』と記されていた。ただ、中を少し捲ると精霊の魔力や精霊の永遠の命について通常は知り得ない事柄がさっと見ても書かれている事がわかる。

 そして、ある頁に古い紙片が挟まれている事が目に止まった。


(これは……?

 それに、この鍵と紙片にはこの部屋から持ち出す事の出来ない魔術がかけられていない……?)


「………………」


「殿下? どうかなされましたか?」


「いや……何でもない

 ここを出る時間であったな?」


 フィルジルは見つけた鍵と紙片をそっと自分の懐に忍ばせた。





 それから半刻程してフィルジルが居たのは王族しか立ち入れないとされている書庫であった。

 フィルジルは書庫内のある場所へ足を進め、王家の成り立ちに関する内密文献が収められている一つの書棚の前に立つとその書棚のある棚のいくつかの書物を取り出す。


(どうして……こんな場所を紙片に記した?

 しかも、書物でなく棚?

 何も変わった所はないが……)


 先程禁域で見付けた書物に挟まっていた紙片にこの場所が記されていたのだ。

 書物を取り出した棚に手を添え何もないか探っている時、背板が微かに動いた事にフィルジルは気が付く。

 ゆっくりとその背板の端から端までを変化がないか手で辿っていくと小さな突起を見付け、その突起は横に動くようであった。突起を横にずらすと棚の背板がその場所だけ外れ背板の向こう側に少しの隙間を見付けた。その隙間は薄めの本ならば立てておけるくらいの幅でそしてその隙間の端には古い一つの書物が一冊入っている事に気が付く。

 書物には鍵で封がしてあり、フィルジルはこのような手の込んだ隠し方をしている事に何か意図があるのかと感じた。




 フィルジルは自分の私室へ戻り私室に置いてある机で先程見付けた書物の封に禁域で見付けた鍵を差し込むとやはりこの封を開ける為の鍵だったようで封が解かれた。何が書かれているかわからない書物に目を向ける事に不安と期待と怖れなど様々な気持ちが綯交ぜになるが、現状全ての手を絶たれていたフィルジルにとって、もしかしたら……という一縷の望みをかけ表紙を開き、一頁一頁慎重に目を通していく。


「…………………」


 途中まで目を通したフィルジルは息をのむ。そして椅子の背に身体を預け天を仰いだ。

 そんなフィルジルの頭の中にはミーシャの顔が浮かんだ。


「………ミーシャ……」




 ◇*◇*◇*◇*◇



 その頃、ミーシャは自分の私室で思案顔で椅子に座っていた。

 手には昨晩事が起こる切っ掛けとなった魔石が握られ、そしてミーシャの頭の中では未だに昨日の朝と夜中に起こった事が信じられず、衝撃を感じていた。そんなミーシャの前にジェドが精霊界から戻ったのか現れた。


「ジェド様……」


「まだ、そのような表情(かお)をしているのか?」


 ミーシャは魔石を握り締めている手にさらに力をいれた。


「ジェド様

 これはジェド様の持ち物ではありませんか?」


 ミーシャがジェドの前に差し出した魔石にジェドは眉を少し歪め手に取った。


「落としていたのか

 そうだ、俺の物だ」


「ジェド様……不躾な質問で失礼かと思いますが、答えたくない事でしたら答えなくとも構いません

 あの……ライラ様の事を今はどう感じていらっしゃいますか?」


 ミーシャの問いにジェドは訝しげな表情を浮かべる。


「何故、突然そのような事を俺に問う?」


「昨晩……ジェド様がお忘れになられたその魔石から(わたくし)の魂と同調できると仰有ってライラ様のお声を聞く事が出来たのです」


「ライラの声を聞いただと?」


「はい

 そして、ライラ様は(わたくし)にあることを委ねられました」


 ジェドがミーシャへ向ける視線がより鋭くなった事がミーシャもわかったがその視線をミーシャは受け止めミーシャ自身もジェドを見据えた。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます。


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