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第6話 二人の妃候補

 ミーシャが応接室へ入室するともうすでに王妃のリリアとティアラが室内で話していた。ミーシャは予定されていた時間よりも早めに着いたはずであったが、二人が揃っている事に慌てて頭を下げる。


「王妃様お待たせ致しまして申し訳ありません」


「あ、構わないのよ

 予定していた時間には遅れていないのだから気にしないで(わたくし)が早めにこちらに来たらティアラ嬢が既に待っていらしたの」


 ティアラはスッと立ち上がると綺麗な淑女の礼(カーテシー)をとった。


「お久しぶりでございます、ミーシャ様

 相変わらず何かとお忙しいようですのね

 (わたくし)は今日王妃様とお茶会で使われる物を一緒に選ばさせて頂ける事にとても嬉しくて早く登城してしまっただけですわ」


 ミーシャは目の前にいる可憐な笑顔を浮かべる小柄な令嬢のこの笑顔の奥に隠している本当の顔を察してから彼女へ極力近付かないようにしていた。しかし、同じ妃候補という立場から最近は今日のように席を同じくしなければならない状況が出てくるようになり、その度に気が重く感じた。


 様々な物を選んでいる途中ミーシャの隣に来た王妃のリリアが小声でミーシャへ話し掛ける。


「体調は大丈夫かしら?」


「えっ!?」


 ミーシャが顔をリリアへ向けるとリリアは申し訳なさそうな顔をした。


「どうしても今回は二人一緒でなければいけなくてね……」


(ああ……王妃様は私のこの厄介な体質を知っていらっしゃるものね……本当に王妃様はお優しい方……)


「気に掛けて頂きありがとうございます

 大丈夫です

 これでも、大分この体質をコントロール出来るようになったので……」


「無理は駄目よ」


 ミーシャの言葉にふわりと笑みをリリアは浮かべた。


 ミーシャは今までそんなに沢山の人間には会った事はないが憧れる女性として浮かべる人は母親のルーシェは勿論だがこの妃教育を受けるようになって王妃のリリアに憧れるようになった。どんな人へ対しても慈愛の気持ちを持って接しているリリアの真っ直ぐな心根をミーシャは感じとりそんな女性になりたいと強く思った。



 何とか今日予定されていたお茶会の準備の手伝いも終わり帰途につく為王城の馬車停めへ向かっていたミーシャは名前を呼ばれる。


「ミーシャ!」


「ルドルフ、貴方も今帰り?」


「そうなんだ

 良かったら馬車停めまで共にしても構わないかい?」


「ええ、勿論よ」


 ルドルフとの付き合いもフィルジルとの付き合いと同じだけあり気軽に話せる仲であった。

 そして、フィルジル程極端ではないが他の貴族の子息令嬢へ向ける顔とは違いルドルフもフィルジルやミーシャと共にいる時は素の自分をほんのりと出し気を緩めて接してくれていた。元々そこまで裏表がない性格のようではあるが、ルドルフが他の者と接している時にミーシャが感じとった感覚は悪どい事を考えている者達への侮蔑したような眼差しで信用がおけないと感じる者への視線は冷たいように感じた。しかし、ミーシャへ向ける感情は温かさがあり自分の事は認めてくれているのだなとぼんやりと思っていたミーシャであった。

 二人で回廊を歩いて馬車停めまで向かっている時ルドルフが口を開く。


「今日は何もされなかった?」


 ルドルフが気にしているのはティアラの事であるとミーシャもすぐわかった。


「心配してくれてありがとう

 そこまで二人で共に接する事もなかったし、なにより王妃様が気に掛けてくださったから何もなかったわ」


「でも……顔色が悪い……何かあったんじゃ……」


 ルドルフの指先がミーシャの頬へそっと触れる。

 そんな二人を柱の陰から見ている者がいた。

 金色の髪の毛が煌めくその人物の手には小振りな懐中時計が握られていた。


 少し前に王妃付の女官を見付けたフィルジルは今日のお茶会の準備の様子はどうだったのかと聞こうとした時、女官が持っている懐中時計に気が付く。ミーシャが先程まで王妃達と居た部屋に落としてしまっていた様でミーシャが帰る前に手渡す為に女官はミーシャを探していたとの事であった。自分が渡すからと女官から懐中時計を受け取りミーシャが向かっているだろう馬車停めまで急いで向かっていたフィルジルの目に入ったのはルドルフがミーシャへ声を掛けている姿であった。ミーシャ達と少し離れている場所にフィルジルはいた為に二人で何を話しているのか聞こえないが二人の姿をみた瞬間フィルジルは思わず柱の陰に隠れてしまった。そして、ルドルフがミーシャに触れた瞬間、自分の胸の中に広がる黒い感情に気が付く。それは、ルドルフがミーシャに触れた事に強い怒りを感じ、しかし何故そんな気持ちになるのかフィルジルは困惑した。

 そして、そんなフィルジルに声を掛ける者がいた。自分の名前を呼ぶその声に酷く不快感をフィルジルは感じる。


「フィルジル殿下ではありませんか?

 こんな所でお会い出来るなんて思っておりませんでしたわ」


 顔をその声の主に向けたフィルジルは普段他の者へ向ける外向きの笑顔が張り付けた。


「ティアラ嬢、奇遇ですねここでお会いできるなんて……本日は母上とのお茶会の件で登城されていたのですよね?」


「ええ、王妃様自ら教えて頂けるなんて光栄でしたわ

 でも……少し驚きましたの……王妃様主催のお茶会って……あんなにも王妃様自らが様々な事をお決めになるなんて……女官が決めても良いような些細な事まで今の王妃様は自らなさるのですね……

 まるで……仕える者が少ないお家でのお茶会かと思ってしまいましたわ……」


「………どういう事でしょうか……?」


「あっ……悪い意味ではありませんのよ?

 細部まで自ら確認なさるなんて大変そうと思って……公務などもおありでしょうから……

 でもあの準備の仕方が……王妃様主催のお茶会の準備の仕方の昔からの王家の習わしという訳でもないとの事でしたから、次の世代交代の時からまた変えていけたらと思いましたの」


 フィルジルは優しげな笑顔の下でこの目の前の令嬢に対してどろどろと黒い気持ちが渦巻くのがわかった。

 それでも、僅にもそんな様子は顔には出さずに綺麗な笑顔をティアラへ向けた。


「ティアラ嬢……一つだけ宜しいですか?」


「ええ、殿下なんでしょうか?」


「ティアラ嬢の今の立場ですが……貴女のお父上であるローランド公爵の強い推薦が通り妃候補の場所に立っているという事を忘れないでくださいね?」


「え…? 殿下?

 それは……どういう……」


「ご自分でお考えください。

 母上の……王妃陛下の行動に意見を提案できるくらい優秀な方のようですから……私の言ったこんな事の意味ぐらいすぐご理解出来る事でしょう?」


 複雑な表情を浮かべるティアラから先程のミーシャとルドルフがいた場所へ視線を移すとその場所に二人は既にいなかった。

 フィルジルは持っていたミーシャの懐中時計を握り締める。

 フィルジルの今の気分は最悪であった。ティアラの不快な話を聞き、ミーシャとルドルフが一緒にいる姿に頭の中は黒く染まった。自分でも手に余るような今までに感じた事のない不快感に苛立ちを大きく感じた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

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