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第59話 幻の妃

 キャロルの中に召喚されたというアイリーンという名の妖魔がいるという事を知った日の夜、ミーシャはなかなか寝付けなかった。

 そして漸く少しウトウトし始めた頃、それは起こった。


 私室のドレッサーの上に置いてあったジェドの物だと思われる魔石から眩い光が差し出したのだ。その光に眠りの浅かったミーシャは目を覚ました。


「え……何!?」


 ミーシャが光る魔石に近付こうと寝台から降りた時、その光の中に人影が見えた。


(誰……?)


 人影のように見えるそれは透き通り向こう側の壁が見える事からも生身の人間でない事にミーシャは気が付く。そして、その人影はミーシャの頭の中に呼び掛けた。


『驚かせてごめんなさい』


「あの……」


『私の魔力の波動と貴女の魔力の波動が同じで魂を同調させる事が出来たから、こうして貴女に私の残された力で語り掛ける事が出来ているの』


「魂を同調?

 あなたは……?」


 人影であったものがはっきりとしてくると、その容貌がわかる。透き通り色味はあまりないが、銀色らしい髪色に金色の瞳のほっそりとした女性であろうその存在は美しい容貌をしていた。


『私の名前はライラ

 人間界(この世界)ではライラ·ローディエンストックという呼ばれ方をしていたわ』


「ライラ·ローディエンストック……?

 ……っ……その御名は……」


 その名前は王妃教育を受けていたミーシャにはすぐわかる名前であった。

 この王国の建国王であり、魔王を封印したとされるルディ·ローディエンストック国王の正妃の名前であったからだ。ライラ王妃は婚姻して王子を出産後すぐに崩御されたと言われ幻の妃ともその当時ライラの存在を知る数少ない者から言われていたという。

 そして、先日ジェドから聞かされた真実……ライラ王妃は元精霊であったと……

 ミーシャは膝を折り腰を低く落とし最上級の礼をライラへ向けた。


「失礼な態度や格好をお許しください」


『そんな畏まらないで

 私の絵姿は残っていないはずで名前ですら今の時代に知っている人はごく僅かであるから

 この魔石に魂を移してずっと長い時を待っていたの

 私の力や魂と共鳴できる存在を……

 貴女のお名前は?』


(わたくし)はミーシャ·フェンデルと申します」


『ミーシャ、ジェドを……精霊王であるジェドを救って欲しいの』


「え……ジェド様を……?」


『ジェドは恐らくずっと悔恨の念にさいなまれてこの長い時を過ごしてきたのだと思う

 貴女の事をジェドがとても気に掛けているように私の魂が入ったこの魔石にも伝わってきたから貴女ならジェドの心に刺さった悔恨という棘を取り除けると思ったの』


「悔恨の念……?

 ジェド様が……?何故……」


『無関係の貴女にこんな事をお願いして巻き込む事は良くない事だとわかっているけれど、ジェドの心を救いたくて……

 もう……存在していない私が救う事は出来ないから』


「ジェド様に何があったのですか?

 (わたくし)で力になれるかはわかりません……

 ですが、ジェド様には何度も助けて頂いていて(わたくし)で出来る事があるのなら微力でも力になりたいです」


『ありがとう

 貴女はジェドとこの王国の建国王であるルディで魔王を封印した事は知っている?』


「学んで知り得る事であれば存じております

 後……(わたくし)自身ははっきりと認識していないのですが、ジェド様が仰有るにはこの王国の王太子殿下と(わたくし)が幼い頃、魔王の封印を解いてしまった時に無意識に魔王を浄化したと仰有るのです

 自分にそんな力があるとは信じがたいのですが……

 ジェド様は嘘をつく方でないと思っておりますので」


『そうだったの……

 魔王を浄化出来たなんて本当に良かった


 少し長くなる話だけれど良いかしら……?


 本当に酷い戦いだったの……

 魔王の力で精霊界も人間界も人も地も荒れ果てていた

 その中でジェドとルディが魔王の力を抑えようと精霊界と人間界の枠を越えて手を取り合ったの

 私はその頃、ジェドの側近としてルディとも親しくしていた

 そんな戦いの最中にこんな感情を持つなんて不謹慎も良いところであったけれど、いつも前向きなルディへ何時しか恋心を抱いてしまった

 それが事の始まり……

 戦いの最中であるし、そもそもルディは人間で私は精霊である事からこの気持ちは決して誰にも知られてはいけないと心の中に封じ込めたわ

 だけど、感情というものは抑制が難しい事を思い知らされた

 精霊には基本人間のような複雑な感情はないものだとされている

 でもね、その例外もあって特に高位精霊は複雑な感情を持ち合わせる事があって、それが自分もそうなのだと悟った時は戸惑ったわ

 苦しい事も多いこの感情だったけれど、それよりも増して幸せを感じた

 そんな感情に惑わされた私は魔王の封印に集中しなければならない状況なのに、精霊にとって禁忌とされる術を使ってしまったの』


「禁忌の術……?」


『精霊が持つ永遠の命を絶ち人間と同じように限りある命にする禁薬を精製する術……

 もし、目の前で魔王の封印に失敗してルディの命が消えてしまう事がとても恐ろしかった……

 私の想いはルディに届かなくとも、ルディが居ない現実は見たくないという我が儘な思いからその術を使ったのよ

 全ての精霊の動きを把握出来る精霊王のジェドがその事に気が付かない訳もなく、物凄い剣幕でジェドは怒りを露にしたわ

 でも、私の勝手な感情はそんなジェドの言葉にも耳を傾けないでジェドの目の前で私はその禁薬を口にした

 永遠の命を失った精霊は精霊界にはいられない掟があり、私は人間界へそのまま降りたの

 状況をよく知らなかったルディは精霊界には暫く戻れないという私を傍に置いてくれた

 そんな状況の時にジェドやルディよりも前に人間界で潜んでいた魔王と私が偶然先にはち会う事になった

 私はこれ以上二人の足手まといになりたくなかった、だから自分の力を使いきってでもと思って魔王へ自分の力全てで滅する力を向けたの

 そのせいなのか、元々力を失いつつあったのかわからないけれど、魔王の力が弱まった時に駆け付けてきたルディとジェドによって魔王は人間界の地に封印されたわ


 私は知っていた永遠の命を失った身で自分の持つ精霊の魔力を使ったら脆くなった命がどうなるのかを……

 禁薬が精霊の永遠の命を限りある命にしても魔力は精霊の力のままである事も……

 こんな愚かな自分勝手な私は少しでも役にたてるのなら消えてしまっていいと思っていたから後悔もなかった

 辛うじて命がまだ僅かに残って生きながらえた私をルディは自分の正妃にしたいと言ってくれたの

 ジェドが私の憐れな感情と愚かな行動をルディに伝えたからだと、そんな事を言ったルディの真意に後で気が付いたわ

 でも、それがルディの同情からだとしても憐れみからだとしても、私はルディのその言葉が嬉しかった

 けれどね、私の命はルディとの子を出産出来ても、産まれてきた我が子を抱き上げる力までは残っていなかった

 なんとなく、そんな事がわかっていた私は魔石に自分の命が消える瞬間に自分の魂と魔力が移る術を施しルディとの子を産み落とすのと同時に私の命は消えたの

 私の死を知ったジェドは私が持っていた魔石をルディから譲り受けて、ずっと悔やんでいた事が魔石から伝わってきていたけれど、私の魂と同調する魂の存在が現れない限り私は魔石から思いを伝える事も出来ず長い年月が経ってしまったわ

 私の愚かな感情と勝手な行動のせいで二人の関係を崩してしまったの

 ジェドは私の一件から人間界には近付こうともしなくてルディとの交流も絶ってしまった

 ルディには要らない私という重荷を背負わせてしまった

 償いたかったけれど……償えない自分がずっと恨めしかった

 そして、漸く私の魂と同調出来る貴女を見付けたの

 突然貴女の前に現れた上にこんな勝手な事をお願いする事も自分勝手だと思うけれど、せめて今存在しているジェドに少しでも償いたい……

 私の勝手な想いを受け入れてくれる?』


 ライラの思いもよらなかった過去の話を聞いたミーシャはライラの瞳をじっと見詰めた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!


お話が逸れたのでは?と思われた方……今回のお話は今後の伏線になる予定なので逸れてはいない予定ですので……もう少し見守っていてください。

終始ライラの言葉での説明で読みにくかったら申し訳ありません。


作者の覚書


ライラ·ローディエンストック ……初代国王であるルディ国王の正妃

元高位精霊であり、ルディへの思慕から禁忌を侵し人間へなる禁術を使用した。

魔王を封印するジェドとルディを助ける為に人間になった身で精霊の力を使い魔王の力を弱めたが、自分の命を削り出産後すぐ亡くなる。

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