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第56話 キャロル·ストゥラーロ ①

この回のお話はキャロルの過去のお話になります。

また、このお話には残酷な表現が含まれており、苦手な方はお気を付けください。

 今から12年前……市井でキャロルという五歳の愛らしい容姿の少女は母親()と裕福ではなくとも幸せに暮らしていた。

 そんなキャロルの日々が大きく変わったのは母親()と慎ましやかにくらしていた小さな家に、ある人物が現れた日からであった。


「こんな所に隠れていたのか……

 漸く探しあてたぞ……」


「貴方達はあちらの部屋に入ってなさい!」


 穏やかな母親が珍しく声を荒げてキャロル()を居間の隣の小部屋に入れた。居間からは母親と突然家に訪れた身なりの良い人物が言い争う声が聞こえ、そんな状況に不安を覚えたキャロルは膝を抱えた。その時キャロルに明るい声でキャロルの隣で一緒に座り込む者が声を掛ける。


「キャロルそんな顔をしないで?

 母さんが何とかしてくれるわ

 だって私達母さんと三人で今日まで力を合わせて頑張ってきたでしょう?」


「メアリ……うん……

 メアリはやっぱり凄いね

 こんな時でもビクビクしないで

 双子なのに弱虫の私とは全然違う」


「そんな事はないわ

 キャロルの優しい所とっても素敵よ」


 活発で、頭も良く器量の良いメアリはキャロルの双子の姉であり、美人姉妹とこの辺りでは有名な二人であった。

 二人の間に少しだけ穏やかな空気が流れたのも束の間、居間から聞こえる母親達の話しに幼くまだ難しい事はわからない二人にも良くない事を突然家にやってきた人物が画策している事がなんとなくわかった。


「旦那様がそんな恐ろしい事をお考えであったから、私はお屋敷から離れたのです

 あの子達をそんな恐ろしい事に加担させるなど……」


「たとえ使用人のお前が生んだ子供でも私の子でもあるのだ

 それに、双子が生まれるなどこんな貴重な存在は居ないのにお前が屋敷から逃げ出すからこんなにも成長してしまったではないか

 本来は幼ければ幼い程、術の成功率は上がると言われておるのに」


「あの子達は人間です!

 人形ではないのです

 親が好き勝手にしていい事はありません

 幸せにこれからの人生を過ごさなければならないのです

 お願いでございます! 旦那様、お考えを改めて──」


 暫く言い合いが続き、母親の声が聞こえなくなったと思うと小部屋の扉を家にやってきた人物が開けた。

 怯えた表情で二人がその人物を見上げると、その人物は笑みを向けた。


「驚かせてすまなかったね

 私は君達の父親であるストゥラーロ子爵と言う

 君達には母親と三人でこのような貧しい暮らしを強いてしまい申し訳なかった

 だが、もう安心していい君達を私が迎えに来たからこれからは豊かで幸せな暮らしをする事が出来る」


「母さんはどうしたのですか?」


「メアリ……」


「君達の母親には先に私の屋敷に向かってもらったよ

 君達を屋敷に迎える為の準備をしてもらう為にね

 さあ、君達も一緒に屋敷へ向かおう」


「本当なのですか?」


 メアリが疑うような目でストゥラーロ子爵を見つめるとストゥラーロ子爵は笑みを深めた。


「君はメアリというのだね

 とても賢そうだ

 そして、君はキャロルという名前であったかな?

 君は穏やかそうであるね

 屋敷までは少しだけ時間がかかる

 そうだ、こんな物を持っているのだよ」


 ストゥラーロ子爵は二人の前に綺麗な包み紙に包まれた物を幾つか乗せた手を出した。


「これは……?」


「キャンディというお菓子だよ

 食べた事があるかな?

 とても甘くて美味しいんだ

 私も好きでねよく口にする」


 そう言ったストゥラーロ子爵はそのうちの一つを口に入れた。

 そんな行動が二人の安心を誘ったのか二人とも戸惑いながらもキャンディを一つずつ手に取る。

 そして包み紙の中に包まれていたガラス玉のように綺麗なキャンディに目を輝かせてそれを口に入れた。


「甘い……」


「美味しいねメアリ」


「うん」


 そんな二人に笑みを向けていたストゥラーロ子爵は言葉を発する。


「さあ、では君達の母親も待っているから

 屋敷に向かおう

 家の前に馬車を待たせているから乗りなさい」


 初めて乗る馬車にキャロルもメアリもワクワクとした胸の高まりを感じた。

 フワフワの椅子に馬車が走る揺れもあったが、不自然な程の強烈な眠気を感じた二人はそのまま寄り添いながら眠りに落ちた。

 そんな二人に父親であるストゥラーロ子爵は笑みを深める。


「漸く我々の計画を始められる……

 先ずは術の成功を祈るだけだ……

 どちらを選ぼうか……

 これは天のお導きかもしれない

 第一王子とこの子達が同じ年齢だという事も、この子達が女であったということも……

 王太子妃に宛がう事が決められていたかのようだ……」


 そんなストゥラーロ子爵の呟きも馬車の走る音にかき消された。





 ぼんやりと瞳を開けたキャロルが一番始めに感じたのは床の固さと冷たさであった。辺りは薄暗くはっきりと何があるのか誰がいるのかがわからない。

 その時、キャロルに話しかけてきたのは黒いローブを被っている父親だというストゥラーロ子爵であった。


「キャロル、目が覚めたのかい?」


「ここは……?

 母さんとメアリは何処?」


「メアリも近くに居るよ

 さあ、これを飲みなさい少し飲みにくいが、君の為のものだ

 絶対に溢さず一滴残らず飲み込むんだよ」


「あの……」


「さあ……

 これを飲んだらメアリに会わせてあげよう」


 ストゥラーロ子爵が差し出した杯を手に取ったキャロルはあまり疑いもせずその杯を口にするが、中身の生臭く異様な味に顔を歪めた瞬間目の前にいるストゥラーロ子爵は声を荒げた。


「吐き出すことは許さぬぞ!」


 その声にキャロルは震え口にしている物を咄嗟に飲み込むが口の中に広がる不快感が収まらない。キャロルは涙を浮かべストゥラーロ子爵を見上げると目の前の子爵はキャロルに向かって詠唱を唱え始めた。

 その光景に、怯えるキャロルは周りを見回すと、段々と暗闇に目が慣れてきていた事もあり、周りの様子が明瞭ではなかったがぼんやりと見えてきた。キャロルの目の前にいるストゥラーロ子爵の向こう側に祭壇のようなものが目に入り、その上には何か蠢くものがあった。


(あれは……何?)


 キャロルの瞳に映ったのは自分と同じくらいの背丈で、自分と同じような髪の色で、そして自分とそっくりな顔の少女の姿だった。


「メアリ……?」


 手枷と足枷を付けられ祭壇に縛り付けられているメアリの姿にキャロルは息を飲む。

 血だらけのメアリはまだ息があるようでメアリは身を捩ると顔をキャロルへ向けた。

 メアリの視線にキャロルは震える。

 何時もと違うメアリの様子に……この異様な状況に……キャロルの臆病な気質がメアリを助けなければというキャロルの感情を拒み、恐怖の方が勝った。

 恐怖でガタガタと震え身体が動かないキャロルの目の前でストゥラーロ子爵が最後の詠唱を唱え終わるのと同時に掲げた剣でメアリを貫いた姿にキャロルの息は一瞬止まった。辺りに生暖かい風が吹きキャロルの周りを纏う。キャロルの居る床には赤黒いもので書かれていた魔方陣が浮かび上がりキャロルを囲んだ。

 目の前で起きている信じられない様子に幼いキャロルの心は追い付いていかない。キャロルの左目から一粒涙が溢れ落ちた時、キャロルは自分の左目に強い痛みと熱さを感じたが、それ以上に心が悲鳴を上げた。


 辺りが落ち着きを取り戻し、祭壇から滴るメアリの血が床に落ちる音が響いた時、キャロルは自分なのに自分でないような違和感を身体に感じ、そして自分の声なのに自分では口にしていない言葉が発せられた。


「私の依り代となったのは幼児(おさなご)か……」


(何? 私は喋っていないのに勝手に言葉が……)


「あなた様をお呼びしましたストゥラーロと申します

 依り代となりましたのは私の娘にございます」


「そして……?

 呼び寄せる為の供物は、この幼児(おさなご)と同じ血の匂いね?

 そう……もう片割れを供物にしたという事……血が濃い程、成功率が上がる事を知っていて……なの……?

 自分の娘を使うとは限り無く強欲な者であるわね

 それに……この瞳の痛み……

 印が瞳に刻まれたのではない?」


 ストゥラーロ子爵はキャロルであってキャロルでない者の言葉にキャロルの瞳を注意深く見る。


「これは……素晴らしい……

 印を隠さなくともこれならば目立たない」


 ストゥラーロ子爵が行った禁忌の術で必ず印される印はキャロルの左目の瞳孔の中に印されており、瞳を覗き込むようにじっくりと見なければわからなかったことに、もろ手を上げ子爵は喜んだ。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!


このお話はかなり残酷な表現があり、なるべく生々しくならないように気を付けましたが不快になりましたら申し訳ありません。

このお話はフィクションであります!


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