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第50話 精霊王の推測

ミーシャの私室にまた突然現れたジェドが自分へ何かを伝えに来たのだと察したミーシャはジェドへ問う。


「それで……ジェド様は精霊界へ何をお調べに戻られていたのですか?

こちらへ戻って来られたという事は(わたくし)達が全く無関係ではないのでしょう?」


笑いながらリアンの説教をかわしているジェドはミーシャの言葉に振り向いた。その表情はミーシャが思っているよりも真剣な表情でミーシャは胸の中で嫌な感覚を覚えた。


「そうだ、光の魔力を持っているという娘についてだが……

ミーシャは知りたいか?」


ジェドの言葉にミーシャの心臓はドクンと音をたてる。

そしてミーシャが感じたのは知りたいという気持ちが半分、知らないままでいたいという気持ちが半々のような複雑な気持ちであった。


「あ……あの……」


そんなミーシャの気持ちを察したのかジェドはふわりとミーシャの頭を優しく撫でた。


「俺も全てがわかった訳ではない

確証があるのはほんの僅かで、あとは推測にすぎん

だが、今俺がわかる範囲の事はお前に知らせるべきであるかとは思ってな

ただ、無理をする必要もない

知るのが怖ければ時間をかけてもいい

だが、それを決めるのはミーシャお前自身だ」


ジェドの言葉にミーシャはジェドを真っ直ぐ見詰め、その瞳は強い力がこめられていた。


「…………本音を言えば全部知る事は怖いです……

ですが、今の状況を変えるには知らなければいけない事である事も理解しております……

ですから(わたくし)に教えて頂けますか?」


「わかった

では、一つずつお前の心の準備が出来たとわかったら伝えていこうか

始めに伝えておこうと思っていた事だが、俺が確証が持てる事は今のところこの事だけなんだ

あの娘とお前が王子から聞いたという王子の推測である妖魔との関連だがな……」


「……はい………」


「あの娘自身は只の人間だ

妖魔ではない」


「……っ………」


ジェドの言葉にミーシャはすがるような思いであった可能性の一つが失くなってしまったという大きな落胆を感じた。

ミーシャが胸の前で握り締めていた手はカタカタと震えがなかなか止まらなかった。

そんなミーシャの様子にジェドは思案顔を向ける。


「おい、大丈夫か?」


「姉上、一先ず座りましょう?」


リアンがミーシャを椅子へ座らせると、椅子へ腰掛けたミーシャはポツリと一言呟いた。


「……抗う事はできないのね………」


そんなミーシャの姿にリアンは顔を歪め口を開く。


「姉上……何故そんなにも傷つけられているのに殿下の事を信じようとされるのですか?

姉上一人で何故そんなにも苦しまなければならないのですか?

殿下から離れれば……」


「傷付いて苦しんでいるのは私だけではないと思っているから……」


「姉上……」


「フィルの方が私よりももっと自分の今置かれている状況に苦しんでいると思うの

それに、私はフィル以外なんて考えられないから、例えこの先フィルの隣に立つ事は出来なくとも他の道を探すという選択肢は私の中にはないの……

その考えは揺るがないけれど……こう目の前で打開できない現実を突き付けられるとやっぱり辛いわね」


椅子に背を預け深く腰掛けたジェドは足を組み言葉を続けた。


「俺はミーシャから話を聞き、あの娘が魅了の力を使えるという事がずっと引っ掛かっていた

人間が使う魔力は精霊が力を貸して初めて使う事ができる事はお前達も知っているな?」


ジェドの問いにミーシャもリアンも頷く。この国の者では当たり前の事であり、ある程度の年齢であれば知らないものはいない事であった。


「はい」


「精霊は相手の精神に干渉する力も持ち合わせているが、人間自身はそのような力は持つ事が出来ないとされている

だが、時折人間で相手の精神に干渉する力を手にする者がいる

その力を何て人間界(この世界)で呼ばれているかは知っているか?」


そのジェドの問いにミーシャもリアンも表情を固くした。


「黒魔術……黒の魔力を持った者が使う力の事ですね……?

そして、その力を手にする事はこの王国では禁忌とされており、万が一でも保有すれば重罪となるという事は存じております」


「黒の魔力は精霊は力を貸していない魔力だ

そうなれば、その力は何が人間に与えているのか?

黒の魔力は人間が保持した時に魔界の者が力を与えていると言われている

だが、魔界の者が人間界や精霊界へ現れ災いを起こす事もなく魔王も封印されていたから今までは俺はそこまで大事にはしていなかった

人間界で黒の魔力を保持した者へ処罰を行っていた事も知っていたからな

黒の魔力を保持した人間に印される紋章を入口として魔界の者が人間へ力を与えているとされているが、その紋章が人間界で見付かれば入口を滅する為にその紋章のある場所をその人間から切り離しその紋章は消滅の力で滅し入口とされている紋章を消すようにしているという事は俺も知っている

あの娘が使うという魅了の力を実際に見ていないからその魔力が魔界の者が力を貸しているのかどうなのかわからない

魔力の波動が魔界の者によるものなのかわかればあの娘の力の真実を解明出来るのも早いが……

どうしたものか……」


ジェドが語った事にミーシャは動揺が隠せなかった。


「キャロル様の力は黒の魔力だとジェド様は考えておられるのですか?」


「確信がある訳ではない

だが、あの娘がただの人間である事は疑い様がない

それなのにも関わらず魅了の力を使うとすれば黒の魔力が一番怪しい」


「ジェド様お言葉ですが、あそこまで殿下は様々な事を調べていながら僕達でも知っている黒の魔力に疑いを殿下が持っていない事はただの殿下の見落としだと思われているのですか?

疑いを殿下が持たない理由があるのでは?」


「そうだとは思うが、俺は王子と殆んど話をしていなからわからんな

まぁ、それを含めてもやはりあの娘の魔力を目の前で見てみたい」


そのジェドの言葉に不安気な視線をミーシャが向けるとジェドは笑みを浮かべた。


「俺の事を案じているのか?

精霊は精神に干渉する魔力は効かないから心配しなくともいい」


「そう……なのですね……

でも……こんなにもジェド様のお手を煩わせてしまい本当に申し訳ありません……」


ジェドは立ち上がり、俯いたミーシャへ近付くと頭をポンポンと撫でる。


「俺から首を突っ込んだのだからお前は気にしなくともいい

お前の気持ちの準備を待つといいながら一度に全てを話して悪かったな」


「いえ……色々と調べて頂き感謝しております」


ミーシャがジェドへ不安そうな表情も見え隠れしていたが笑みを向けた事にジェドは柔らかな笑みを浮かべた。




ここまで読んで頂きありがとうございます!


今回も動きのない説明のお話ですみません。


今年もどうぞ宜しくお願い致します!

少しでも楽しめるお話を綴れればと思っております!

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