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第46話 精霊王の自由な振る舞い

 学院にある庭園でミーシャの頭を撫でるジェドへ咎めるように注意したのは二人を追い掛けて走ってきたリアンであった。


「ジェド様! 姉上に近付きすぎです!」


「リアン何だ?」


「だから姉上に対しての距離が近いのですジェド様は!

 ですが……あの令嬢から姉上を守ってくださった事は、ありがとうございました」


「守る? 俺は思った事をそのまま言っただけだ

 あの光の魔力を持つとされている娘だが……」


「何かお気付きになられたのですか?」


 ミーシャの問いにジェドは少し考え込むと、口を開く。


「まあ、そんなに急がなくとも何ともない

 後で話してやる

 それで? この学院とやらに来てお前達はどうするのだ?」




 ユリウスから話を聞いたヴィンセントが学院側に話を通していたのか、ジェドはミーシャの教室で他の生徒達に学院側から見学者がいると説明をされ講義の間、空いている場所で他の生徒達を眺めるように過ごしていた。

 そして同じ教室に居るフィルジルがピリピリとし、機嫌が悪い事をルドルフとミーシャは気が付き、ミーシャはそんなフィルジルに心配気な視線をこっそりと向けていた。


 講義が終わり生徒達が動きをみせるとジェドはミーシャの元へ行き机に手を付いた。ジェドの気配を感じ背の高いジェドを見上げるようにミーシャが顔を向けると思ったよりも近い距離に顔を近付けていたジェドにミーシャが狼狽える。


「ジェ、ジェド様っ!?

 ち、近っ……」


「他の者が移動しているようだが、これからどうするのだ?」


「あ、あの……この時間は昼食の時間になっているので、殆んどの学生は食堂へ向かっているのです」


「そうか、それならば俺達も行くとするか」


「えっ!? ジェド様も食堂で召し上がるのですか?」


「俺が行ったら駄目なのか?」


「そういう訳じゃ……」


 そんな言い合いをしているミーシャとジェドの間にミーシャの教室まで急いで来たリアンが割って入る。


「ジェド様っ!!

 朝もお伝えしましたが姉上に対して距離をもう少しとってください

 こちらの常識的に紳士がご令嬢へ接する為の距離感というものがあるのですが!」


「俺はここの住人ではないからその常識というものは知らん

 ほら、ミーシャそれにリアンも急ぐぞ」


 そして、またミーシャの腕を掴んで歩き出すジェドとミーシャを追い掛けていくリアンの姿を鋭い眼差しで見ていたフィルジルへジェドは教室を出ていく時に口端を上げ視線をフィルジルへ一度向けた事にフィルジルの瞳に怒りが点った。

 そんな事を知らないキャロルが空気も読まずフィルジルへ声を掛ける。


「フィル様! 今日は一緒に食堂へ行けますよね?」


「……………」


「フィル様っ?」


「………食堂だったね……

 いいよ、行こうか………」


 そんな言葉を返したフィルジルにフィルジルの今の感情に気が付いていたルドルフが声を掛ける。


「フィル、本気で今から食堂へ行くつもり?」


「何、ルドルフ?私が食堂へ行ってはいけない理由でもあるのかい?」


「いや……そういう訳じゃ……」


 ルドルフは今の様子のフィルジルをミーシャ達三人に近付けてはいけないのではと感じていた。昨夜、精霊王がミーシャの屋敷に現れ今日、学院に来ると話していると父親で宰相のドレイクから聞いていたのだ。

 精霊王の姿を自分が生きているうちに見られるとルドルフは思ってもいなかった。

 ドレイクから聞いた話ではフィルジルとミーシャは以前に精霊王と面識があるという事であったが、どういう内情で面識があるのかも知らされてはおらず、そして何故ミーシャを間にしてフィルジルと精霊王がこんなにも険悪な雰囲気になっているのだろうかと疑問が深まるばかりであった。

 それでも、この王国にとって精霊王は国王よりも尊重しなければならない存在であるという事はルドルフは学んで知っていた。


「フィルは相手がだれだか理解しているのだよね?

 問題なんて起こさないと思うけど……」


 フィルジルへルドルフがそう伝えるとフィルジルは感情を感じさせない表情(かお)をルドルフへ向けた。


「ああ」


 ──ゾクッ……


 ルドルフは全身でフィルジルの殺気を感じた。

 フィルジルを行かせるべきではない、そうルドルフの中で警告音が鳴るがフィルジルを止める事ができなかった。





 テラス席でミーシャはジェドとリアンと昼食をとっていた。

 食事をするジェドを思わずミーシャはじっと見詰めてしまう。


「どうした?」


「えっ!?

 あ、いえ……すみません見すぎてしまい……」


「別に構わんが、何だ?」


「あ……精霊でも食事をするのだなと昨日から不思議に感じていて……失礼でしたら申し訳ありません……」


「失礼ではないが、精霊だって食べる事は出来る

 人間と違って生きる為に必要な物ではないがな、食べなくとも精霊はずっと存在できるものだからな

 まぁ人間でいう嗜好品と捉えればわかりやすいか?」


「そうなのですか……」


 ジェドは皿の端に寄せていた人参のグラッセをフォークに刺し目の前へ持ち上げる。


「だが、俺はこういう野菜が甘いものはあまり好かないがな」


 そういうと、ジェドは(おもむろ)にフォークに刺した人参のグラッセをミーシャの口の中に入れた。


「んぐっ!??~~~!?」


 突然口の中に食べ物を入れられ驚愕するミーシャと、その場面を間近で見ていたリアンは怒り出す。


「なっ!? な、何をなされているのですか!?あなたは!!」


「何をそんなに怒っているのだ?

 残すのはこの食物に悪いだろ?

 だから、美味そうに食べていたミーシャにやったんだが?」


「意味がわかりませんっ!令嬢に対して自分の使ったフォークで口の中に直接入れるなど!!」


「だから、何が悪いのだ?」


「ふふっ」


 全く悪びれる様子もないジェドの様子にミーシャは思わず吹き出してしまった。


「姉上……?」


「ジェド様の行動に驚かされてばかりです

 ふふふ……」


 そんな笑顔のミーシャへ柔らかい笑みをジェドは向ける。


「リアン、お前はあまりいい状況に立たされていないミーシャが心配で気に掛けている事は昨日から俺にも伝わっているがな

 あまり、過剰に心配しなくともお前の姉はそんなに弱くないと思うぞ?」


「え?」


「誰からも隠すように守らなくとも、今までのように普通に接すればいいのではないか?」


「………どうして数回しか姉上に会った事がないあなたが、そんなに姉上の事を理解しているのですか……?」


「別に理解しているとかそんなものは俺は考えていない

 思ったようにやっているだけだ」


 リアンも感じていた。

 昨日のフィルジルとキャロルの婚約式の次の日という事もありミーシャへの視線は冷たいものが殆んどであろうと思っていたが、実際はジェドの突拍子もない行動に振り回されそんな視線をリアン自身感じず、同じようにミーシャもあまり感じていないのではないかと思っていた。

 久しぶりに見たミーシャの無理のない笑みにリアンの不安な気持ちは軽くなっていくのがわかった。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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