第44話 精霊王
『俺がミーシャの力になってやろう』
ミーシャはジェドの言葉にどうしたら良いのかわからず狼狽えていると私室の扉がノックされ声を掛けられた。
「姉上、こちらにいらっしゃるのですか?
変わりはありませんか?
僕達、今帰ってきたのですが少し話をしませんか?」
それは弟のリアンで、屋敷に一人残ったミーシャを気に掛けているかのような言葉であった。
リアンは先日ミーシャが学院で倒れてから今まで以上にミーシャの様子を過保護な程、気に掛けていた。
「あ、リアン……今は……その……」
「どうしたのですか?
少しだけでもいいので顔を見せてください姉上」
「おい、何で扉を開けないんだ?
弟なのであろう?
顔を見せてやればいいじゃないか」
「それはっ……」
(貴方がここにいるから扉が開けられないんです……)
ミーシャは全く自分の立場をわかっていないジェドの態度にモヤモヤとしながら、今この状況をどうしたら良いのかと悩む。
「姉上、気分が悪いのですか?
開けますよ?」
「えっ!? リアン! ちょっと待っ──」
リアンがミーシャの私室の扉を開き中の様子がリアンの目に入ってきた瞬間リアンの瞳が見開かれる。
「なっ!? お前は何者だ!? 何故、姉上の私室にっ!?」
「リアン少し落ち着いて、この方は──」
「姉上っ! 誰なんですかこの者は!?」
そんなミーシャの私室での騒ぎに使用人から呼ばれたユリウスとルーシェはミーシャの私室の中にいる存在に驚く。
「父上! 母上! 見知らぬ男が姉上の私室に──」
「貴方様は精霊王っ!?」
「え……」
ユリウスの発した名称にリアンは茫然とし、慌てた様子の両親の姿にも動じていないジェドに、これから起こりそうな事に不安が募るミーシャであった。
ジェドをあまり人目につかせる事がないよう考慮しミーシャの私室内でユリウス、ルーシェ、リアンも交えて話す事となった。
「精霊王……何故ミーシャの私室にいらっしゃるのですか……?」
「それは、別にどうでもいい
それよりも、先程ミーシャと話したのだがな一度光の魔力の保持者だと言われている娘を見てみたいと思っているのだ
王城へ行けば見れるのか?」
「はっ!? 光の魔力の保持者に貴方様がお会いになるというのですか!?
それは……本日は婚約式が執り行われており王国中の貴族が王城へ集まっているなど、人目につきやすいので控えられた方が宜しいのでは?」
「別に人目につこうが俺は気にはしないが、人が多いのは面倒ではあるな
それならば、どこでならその娘を見る事が出来るのだ?」
「明日からまたミーシャも通っている学院に来られるかとは思いますが……学院は貴族の子息令嬢が通う場所であり警備環境が厳しく、身元の確かな者でなければ入る事は難しいかと……」
「それならば、お前はこの王国の公爵という身分なのだろう?
お前が俺の身元を保証すればいいことではないか?」
「わ、私がですか!?」
「ミーシャやその弟の……」
ジェドがリアンへ目を向けると複雑な表情をしたリアンが自分の名前を口にする。
「リアンです……」
「この二人がその学院に行く時に俺も同行したら良い話であろう」
「同行って、学院へ同行出来るのは学生の家の使用人である執事やメイドであり……」
「それならば、俺がその執事とやらになればいい事であろう?」
「はっ!?
精霊王が……執事になるとは……そんな事は……」
「別に無礼だとかは気にしなくていいぞ、俺がなると言っているのだからな」
ミーシャは父親のユリウスとジェドのやり取りを見ていて頭が痛くなった。
恐らく、ジェドの性格は一度言い出すと他の意見は聞き入れないというような根っからの王様気質……であろうと感じたからだ。
(王様気質というか、事実王様であるのだけど……その王様が執事になるとか意味がわからないし……無茶苦茶だわ
何を考えているのかしらこの方は……)
リアンはジェドを警戒し、ミーシャの傍から離れなかった。
「そういう事だ、明日俺もお前達と一緒に学院に行くからな」
「(こんな偉そうな執事なんて見たことがないよ……)」
「リアンっ!?」
リアンが小声でぼそっと呟いた声をミーシャだけでなく少し離れていたジェドも拾ったらしくリアンの傍にやってきたジェドにリアンの顔はひきつる。
「リアンと言ったな? 俺に言いたい事があるならはっきりと言え」
「……でしたら、はっきりと言いますけど
姉上をこれ以上変に目立たせないでください!
明日はそれでなくても婚約式の次の日という事で姉上に対して酷い視線ばかりが降り注ぐかもしれないのですよ!」
「ミーシャは別に悪い事はしていないだろう?
だったら、こそこそと隠れるような事をせずに堂々としていればいいのだ
それとも、お前は自分の姉にそんな日陰のような場所ばかりを歩かせたいのか?」
「それは……」
「こちらが隠れるような真似なんてする必要などないと思うのだが? 違うか?」
「………違いません……」
「ミーシャ、そういう事だ
明日は堂々と学院へ行くといい」
「は、はい……」
ジェドが暫くフェンデル家に滞在すると言い出し、ユリウスは王城から帰宅したばかりであったが、国王であるヴィンセントへ報告しなければならないと、慌てて王城へ引き返していった。
ジェドは記憶を操作する事が出来るので公爵家の使用人の記憶をジェドは公爵家の縁戚と変え屋敷に滞在する事となった。
普段ミーシャとリアンは学院へ行く際は護衛の従者一人しかお付きとして付けていなかったが、次の日にジェドを執事として同行させる事に強制的にジェドに決定されリアンはとても不満そうな顔をし、ミーシャは不安しかなかった。
(こんな堂々として主より目立つ執事なんて不自然すぎるし……
どうやってもあの威厳や貫禄は隠せないのに……どうなってしまうの……?)
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