第43話 本来の光の魔力
ミーシャは自分の私室に精霊王と言われる存在であるジェドがいる事や、精霊王の事を名前で呼ぶ事になっている事にも頭が追い付かなかったが、ふと脳裏に浮かんだ事はフィルジルが調べているという光の魔力についてと妖魔の存在についてだった。
ミーシャがジェドに聞こうか迷っている姿がお茶を口にしているジェドの目に入った。
「何だ? 俺に聞きたい事でもあるのか?」
「えっ!? あ……あの……」
「話してみろ」
ジェドの言葉は抗うことが難しくなるような雰囲気がありミーシャは迷っていた聞きたい事を口にした。
「………ジェド様は光の魔力という力はご存知でしょうか?」
「懐かしい名称が出てきたな
で? 何故、光の魔力について知りたい?」
「先程お話した王太子殿下の婚約者に選ばれた方というのは光の魔力の保持者と言われているのです」
「ほお、周囲が本人の想いを阻む事は何時の時代も変わらないなこの世界の者は……
それで、お前は王子の隣をその光の魔力の持ち主に奪われたという事か?」
「それは……」
ジェドはミーシャの手を持ち上げ言葉を続ける。
「こんなものまで王子に刻まれながら……」
「あ……」
ジェドはミーシャの着けていた手袋を取り外し正妃の印をあらわにする。
「王子はその光の魔力の持ち主とされる者とは婚姻するつもりがないのだろう?
この印を見れば明らかだがな
だが、周囲の状況がそうはさせないと障壁となっている
そんなところだろ?」
ジェドの言葉はまるで今までミーシャ達の置かれている状況を近くで見ていたかのような言葉であった。
「そもそも光の魔力と名付けられたのはルディが精霊と契りを結んだのが事の始まりだ」
「えっ!?」
ジェドの思いもよらない言葉にミーシャは驚きを隠せない。
ルディとジェドが気安く言っているのはこの王国の建国王とされる初代国王の事であり、その国王が娶ったのが精霊だとジェドは言ったのだ。
そもそも、人間と精霊が結ばれるなんて事があるのだろうかとも疑念がわく。
「その表情は信じていないのか?
俺は嘘は言わぬ
ルディは俺の側近をつとめていたライラという高位精霊と気持ちを交わしあって、魔王の封印を行う戦いの最中ライラは精霊という立場を捨てルディの元へ降りたのだ
精霊という立場を捨てるという事は精霊に与えられた永遠の命をも捨てたという事だ
ただ、永遠の命を捨てても魔力はそのままであり、人間と違う力を他の人間が忌み嫌わぬようルディは光の魔力を持ち合わせていると他の者へ吹聴したのだ
だから、人間には光の魔力を持ち合わせるという事はないはずだったが、お前のような者が現れた
光の魔力の持ち主と言われるべきは本来ならお前の事であるのだ」
「え……それじゃあ……妖魔の存在は……光の魔力の持ち主は妖魔ではないの……?」
ジェドのあまりにも衝撃的な話の内容に、ミーシャは思わずフィルジルが仮説として話していた事を口にしてしまう。
「妖魔?
それはまた、懐かしい名称を出すな
光の魔力の持ち主が妖魔な訳がない」
フィルジルとの未来に僅かな希望と考えていた事がいとも簡単に否定されミーシャは愕然としてしまう。
「それじゃあ……キャロル様は何……?
本当の光の魔力の保持者なの……」
「おい」
「私とフィルは……」
「おい……聞いているのか?」
ミーシャの瞳から一粒の涙が零れ落ちた時にそっと頬に落ちた涙を拭われた。
「え……?」
「どうした? 全て言ってみろ」
「あの……───」
射抜くような目線でジェドから見詰められミーシャはフィルジルが調べたという事をジェドへ言っていいのかわからなかったが、精霊王と言われる目の前の存在は自分達の敵ではないという直感から口を開いた。
ミーシャがフィルジルから聞いた事をジェドへ伝え終わるとジェドは表情は変えず背を椅子に預けた。
「王子が調べたという話だが……
まず、俺が認識している光の魔力の持ち主は妖魔ではない
だが、ルディの元へ降りたライラのような精霊の力を持った人間は俺が知る限りお前が初めてだ
では、王子が調べた中に記されていたという王族に保護されるべき光の魔力の保持者とは何なのだという事だが、俺は長らくこの人間界に降りてはおらぬので数人居たとされる光の魔力の保持者の事は知らぬ
だが、お前のような人間にはない精霊の力を持った者が現れその力を使えば必ず気が付く
それは人間が使う魔力は精霊が力を貸しているからだ
そんな、精霊界で気が付かない力は妖魔のような魔界の者の力であろうと思うが、魔王を封印するさい魔界の入口は閉ざした筈で、そして魔王の側近である妖魔達も滅ぼしたはず……
妖魔の認識としては王子が調べた事と違いは殆んどない
その数百年毎に光の魔力の保持者が現れるというのも、よくわからぬな……魔界の者も精霊と同じように永遠の命というものを持っており、ある一定の事をしないと滅ぼす事ができないのだ、それならばその数百年毎に現れたという妖魔は誰かに滅ぼされたのか? そうでなければ、どこにいったのかという謎も残る……」
「………………」
表情を失くしたようなミーシャの様子に目を向けたジェドはミーシャの髪の毛を一束掬い上げ自分の唇へ寄せた。
「俺もその問題に手を貸してやろう」
「え……? ですが……」
「なんだ? 俺が手を貸す事は不満なのか?」
「そんな事はありません! ですが、精霊王とされるジェド様のお手を煩わせるなど……」
「俺が手を貸そうという気になっているのだから、遠慮など要らぬ
それに、お前の事が気に入った事もあるしな」
「えっ!?」
「まあ、いい
それは、後々ゆっくり話させてもらおうか
その不可解な光の魔力の保持者とされる者を一目見てみたい」
「それは……」
色々な事実を知り頭が一杯な様子のミーシャにジェドはまた軽々しく簡単に出来ない事を言い出しミーシャは狼狽えるばかりである姿に「くくっ」と、笑みをジェドは浮かべた。
「一先ず気持ちは落ち着いたようだな?」
「え?」
「少しはマシな表情になった」
「あ……」
「あまり気に病まなくていい
お前の名は確かミーシャと言ったな
俺がミーシャの力になってやろう」
そうジェドはミーシャへ言うと口端を上げた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
作者の覚書
ジェド ……精霊王であり、昔ローディエンストック王国の建国王であるルディ国王と共に魔王を封印した。
ミーシャとフィルジルが幼い頃、魔王の封印を偶然解き、浄化させた時に幼い二人の身を案じ精神を守る為に記憶を封印した。
白髪に金色の瞳で年齢を感じさせない容貌をしている。
長身であり、キャラクターの中で一番背が高い。




