第39話 推測
フィルジルは一つ息を吐くと言葉を続けた。
「俺の見解を話しますので一度座ったらどうですか?」
大人達三人が各々椅子に腰掛けたのを確認するとフィルジルは話し始めた。
「まず、父上達はどこまで光の魔力について知識をお持ちなのですか?
恐らく、確信できるようなものは殆どお持ちでないのではないですか?」
そんなフィルジルの問い掛けに三人ともフィルジルを見据え、そしてヴィンセントが口を開く。
「その通りだ
光の魔力は不確かなものが多く、光の魔力について記されている書物や言い伝えられているものも他の魔力と比べても極端に少ない」
「俺が、王城中の禁書も含めた書物を調べた結果も同じでした
どの記述もまるで意図的かのようであるかのようにも思えるぐらいはっきりと記述したものはありませんでした
そして、調べていくうちにもう一つ不可解な事柄に気が付きました
この王国が建国されてから、数人という少ない光の魔力の保持者が存在し、その何れの保持者も王族と婚姻を結んでいます
それも、王族の中でも魔力の高い者で位の高い者……所謂、国王や王太子、王女などです
魔力の高い世継ぎの為にという考えもあり慣例となっていたのでしょう、今回の俺のように……
恐らく、俺のように足掻いた者は珍しい事例というか初めてだったのかもしれません
王国の取り決めとして、すんなりと納得し婚姻を結んだのか、どの者も正妃や王配として迎えられていました
そこまでは特におかしいとも思いませんでしたが……」
「どうした?
お前の話を聞こうと思っているから気にせず話しなさい」
「………光の魔力の保持者と婚姻を結んだ王族との間に生まれた子どもの何れも王位を継いでいないのです
魔力がより高い者を世継ぎにと考えられ婚姻したのにも関わらず……と、いうより生まれたはずの子どもが何れも生まれてすぐ亡くなっている……どの光の魔力の保持者の子どもも全てがです
それだけならば、悲しい偶然が重なったと不自然でも納得出来ようもありましたが、さらに不自然な記述が続いていました
光の魔力の保持者と婚姻を結んだ王族の全員が子どもが亡くなってすぐ廃太子となっているか、国王の座を譲位して別のものが王位を継いでいるのです
どの者も他の者よりも魔力が高く他の能力も優れて国王に相応しいとされていたのにです
数百年に一度くらいの頻度であるから、廃太子や若い時に国王の座を譲位していても埋もれてあまり目に付かなかったのかもしれません
俺のように光の魔力の保持者だけに関した記述を調べていない限り見落とす事でしょう
しかし、俺にはこの記述が不自然だとしか思えなかった
そして一つの事柄に目が止まりました
今はまだ推測でしかありません
ただ、俺には確証に繋がるものだと思っている」
「なんだ?」
「父上達は妖魔が古に存在していた事はご存知ですか?」
「妖魔……魔王の周囲に居て側近だとされている存在であるな?」
「そうです
この国の建国王と精霊王が封印したとされ、俺とミーシャが浄化したという魔王……
だが、本当に存在していたものだと理解しているのは今では王国内では一部の者だけで、多くの者はこの国が建国された時の昔話を盛り上げるような存在だとしか思っていないかのように風化されている存在……
何故、そうなってしまっているのかの疑問は今は置いておきます
そして、魔王の存在がそのような扱われ方で、妖魔にいたっては作り物としか認識されていない
しかし、妖魔の特徴が記されていた書物が王城に存在していました
厳重に封印され保管されている禁書の中に……」
「で……妖魔の特徴とは?」
「姿形は人と変わらず、しかし目を惹く容貌をしていたとされ、その妖魔を一目見た者は皆、他が目に入らなくなるくらいその魅力に取り付かれてしまう
そして、その妖魔の意のままに操られるかのように妖魔を心酔し崇める
何処か、今現在この貴族界隈で起こっている事柄と重なりませんか?」
「お前は光の魔力はないものだと言いたいのか?
保持者とされている者が……妖魔であると?」
「ストゥラーロ嬢が光の魔力を保持していると発覚した経緯はどうでした?」
そんなフィルジルの問い掛けに宰相のドレイクが答える。
「生まれた時には他の子どもでも時々ありますが魔力の種類がわからず、封印具を外すさいの試験で試験官が光の魔力を保持していると確認していると……」
「ルラン師団長の二重の確認は?」
「ストゥラーロ子爵令嬢の試験の際、ルラン師団長は辺境地を守る為の魔道具の定期確認の任で不在であり、後日報告を受け確認はしておりますが……」
「難色を示されていたのですね?」
「光の魔力の保持者だとの見分けは魔力を計る為の水晶の輝きだとされていて、それが光の魔力を見分けた時は温かく白に近い金色の光りが照らされると伝わっております
ルラン師団長が確認した際もそのような反応を水晶は示しましたが、ルラン師団長はすぐ確定を伝えなかった……」
「ですが、貴族内ではもう光の魔力の保持者が現れたとの話題で一杯だった
光の魔力ではないという疑念も同じようになく……暫定的に光の魔力の保持者だとされた……ではないですか?」
「そうだ
ロウルは未だに彼女が光の魔力を本当に保持しているのか疑っている
だが、目の前で魅了の力を感じ認めざるをえないと話していたんだ」
「魔術師団長が疑念を持っているのにも関わらず強引に確定した者という事なのですよね?
あと、もう一つ過去の王族との婚姻と子どもの件についてですが、妖魔にはまだ特徴があると記述されていました
妖魔と人間が交わった時……その度、人間の持っている魔力を妖魔が少しずつ吸い取っていくと……王族が廃太子や王位を譲位した理由は魔力の枯渇ではないかという俺の推測であります
魔力が全くなくなったり、微量しか残っていない状態ではこの国の国王の座に居続ける事は難しいですからね
それから、妖魔が人間と成した子どもは生まれたばかりの時に人の容姿をしていないという記述もありました
その容貌は肌の色は浅黒く牙が生え登頂部には角のような出っ張りがあり背には翼のような形をした骨が浮き出ているとされ、時間の経過で少しずつ人間の赤子と似た容姿に近付くと記されていました
そんな赤子を見た普通の人間はおそらく脅え恐ろしさのあまり、亡きものにしようと考えた者もいたかもしれない……それが王族の子どもや自分の子どもだとしても……
まだ、俺の推測でしかありません、しかし幾つも光の魔力を調べると不自然さが浮き彫りになるのです」
フィルジルは力強い瞳を向け大人達を見据えた。
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