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第38話 印

 短剣を手にしたフィルジルをミーシャは茫然と見詰める。


(フィル……そんなに、こんな決断をした私が憎いのね……

 だけど、それでもいいのかもしれない……)


 そんな気持ちがミーシャが胸の中に落ちた時、フィルジルは短剣で自分の親指を切り付けた。

 そんなフィルジルの行為にミーシャは驚愕する。


「なっ、何をしてるのフィル!?」


「俺がお前を殺すと思ったのか?」


「え……」


「悪いな、その方がお前にとっては楽だったかもしれないな」


「フィル……何をするつもり?」


「だけど、逃がしてなんてやらない……」


 フィルジルは指の腹から流れ出る自分の血液を舌先で舐めとり親指を口に咥えると傷口から血液を吸い出し自分の血液を咥内へ含んだ。そして、ミーシャの腕を掴み自分の方へ引き寄せ、ミーシャの顎へ指をあて自分の方へ顔を向けさせると、ミーシャの唇を塞いだ時、ミーシャの唇にフィルジルの歯が当たりミーシャは痛みを感じた。


「っ!?」


 その時、王妃教育で教えられた事が頭の中を過ったとの同時にフィルジルがミーシャの唇に出来たであろう傷口を吸い、さらにフィルジルの舌がミーシャの咥内へ入り込むのと同時に血の味を感じた瞬間、咥内へ注ぎ込まれたものを反射的に飲み込んだミーシャは狼狽える。


「フィル……あなた……」


 ミーシャの様子に構わずミーシャの手をフィルジルは持ち上げると自分の手をかざし詠唱し始め、ミーシャの手の甲が熱を帯び光に一瞬包まれた。


「熱っ!」


 熱さと同時に自分の手の甲に浮かび上がった紋章にミーシャの心臓はドクンと音をたてた。それは、王妃のリリアや自分の母親のルーシェの手の甲にも同じように印されている紋章と似ていたからだ。ミーシャの脳裏には幼い頃ルーシェの手の甲の紋章を問うた場景が思い浮かんだ。


 ………────


『お母様のおててには、どうして絵が書いてあるの?』


『これはね、お母様がお父様の唯一だという印なのよ』


『唯一?』


『貴女達のお母様は一人だけって事よ……』



 ───………



(あの時は、小さかったからよく意味がわからなかったけれど、今なら理解できる……この紋章は……)


 フィルジルはミーシャの手の甲へ現れた紋章を握っている自分の手の親指でなぞる。


「成功したな……」


「フィルっ! なんて事をしたの!?

 こんな事をして陛下や他の臣下達がどんな反応をするのかわかっているの!?」


「俺のいない場で愚かな取り決めを可決したからだ」


「だからって……これは……正妃の印……」


「そうだ

 王族の血筋の者だけに受け継がれている秘術だ

 本来は正婚式の後の初夜の直前にお互いの血液の入った杯を花嫁が口にした後、王族である花婿が親から受け継がれた詠唱を花嫁に向けて術が完成される

 この紋章のある正妃との間に出来た子に王族の血筋の者のみが保持している闇の魔力が受け継がれ、そして、なによりこの秘術は生涯で一人にしかかけられない秘術だ

 直系の王族には側妃の印という秘術も存在してはいるが、子に受け継がれる闇の魔力の大きさは正妃の印がある者から生まれた子に比べたら比べものにならないくらいの差がある」


「だって……キャロル様はフィルの正妃となる為に婚約するって……

 こんな事をしたら大問題になるわ」


「俺は正妃しか持たない

 そして、その相手はあの女じゃない

 俺の正妃になるのはミーシャ、お前だけだ」


「私は……婚約解消を……」


「許さないと言っただろう?

 お前が俺から逃げるというから俺に縛り付けたんだ

 この紋章も正妃の印なんて仰々しく言われているが、ただの執着の証しで、決めた相手を逃がさない為の手枷や足枷のようなものだ

 自分の所有物だと周囲へ見せ付けるかのような所有印でしかない

 俺がお前を手放した方がお前にとって苦難を強いられる事もなく幸せが沢山あるのだろうという事もわかってはいる

 だけど、それでも手放す事が出来ないんだ

 誰よりも幸せにしたいお前に辛さばかり強いている事がわかっていても手放せないんだ……

 こんな俺の勝手な執着心でお前の事を縛り付けた俺を恨んでいい

 だけど……もう二度と離れるなんて言わないでくれ」


「フィル……」


「それと、まだ確実なものではないが、あの女を今の立ち位置から引きずり下ろす事を臣下達が認めざるをえない事を掴みかけているんだ」


 椅子に背中を預けぼんやりと遠くを見詰めているフィルジルが呟いた言葉にミーシャがフィルジルを見詰めた時、応接室の扉をノックした音がし、ヴィンセントが扉の外から声を掛けた。


「二人ともそろそろ話は終わったかい?入るよ」


 応接室に国王のヴィンセントと宰相のドレイク、ミーシャの父親のユリウスが入ってきた時、ユリウスはミーシャの変化にいち早く気が付きミーシャへ近付くとミーシャの腕を掴んだ。


「殿下、私はここを離れる時にお伝えしましたよね?

 殿下と娘は婚約解消する間柄であると

 それなのに何故、娘にこのようなものが印されているのですか!?」


 ユリウスが持ち上げたミーシャの手の甲へ印されている紋章にヴィンセントもドレイクもすぐには言葉が出てこなかった。


「俺の正妃になるのはミーシャだけであるからです」


「殿下は御自分のお立場や今の周囲の状況をご理解しているのですか?」


「わかっているつもりです

 ですが、これだけは譲れない……」


「娘を巻き込む事は娘に対しての思いやりだとは思えません

 ただの貴方の傲慢な考えからではありませんか!?」


「お父様っ!

 そんなフィルばかり責めないで!」


「ミーシャ、この秘術で殿下が印をお前に刻むのにお前も同意したというのか?

 その唇の状態をみても私には殿下がお前の同意なしに無理矢理秘術を使ったとしか思えない」


「そうです

 ミーシャの同意なしに俺の独断で秘術を使いました

 しかし、その事を俺は謝るつもりはありません

 ミーシャを修道院になどにも行かせません」


「フィルジル、お前は事の重大さをわかっているのか?」


「ええ、この事が公になったら大問題だけでは済まされないでしょうね

 父上、御前会議で可決された俺とストゥラーロ子爵令嬢との婚約の件は了承致します

 しかし、了承するのは婚約だけです」


 そんなフィルジルの言葉に宰相であるドレイクが口を挟む。


「殿下、それでは臣下の者は納得致しません」


「別に俺が婚約しか了承していないという事をわざわざ知らせなくていい

 婚約の話が進み浮き足だっている奴らが気を抜いている間に全てを揃える」


「フィルジル、お前は何を考えている?」


 フィルジルはミーシャへ一度目を向け、そして目の前にいる三人の大人達を見据えた。




ここまで読んで頂きありがとうございます!


前回のダークな最後の部分から、このような展開に続いておりました。

一応……

このお話はフィクションでありファンタジーです!

皆様、フィルのような行為は絶対に真似しないでくださいね!(普通はしないと思いますが……念の為)


今回のお話で、フィルのミーシャへ向ける真っ黒な心理が少し伝わればと……

フィルはかなりの執着心の持ち主です。

どんな事をしてもミーシャを縛り付けたい心理を持ち合わせているようで……一歩間違えると危険な要素もあるように作者は感じております。皆様のフィルのイメージとかけ離れイメージ崩壊してしまっていたら申し訳ありません。。。

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