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第36話 決断

 ある日の王城の王太子用の執務室では休憩時間にある報告書に目を通しているフィルジルとその横で雑務を片付けているルドルフの姿があった。


「取り敢えずここ最近の彼女の周りの目についた動きかな」


「…………なんというか、ここまで推測通りだと逆に気持ち悪いな」


「それはね……僕も気にはなった

 こちらの動きをわざとはかっているのか、気付かれても特に支障がないと自信があるのか……」


「後者……のような気がする……

 俺が目を通す書類で急ぐものは今のところないか?」


「そうだね、午前中フィルが休憩時間もいれずにさばいてくれたから大丈夫かな?」


「午後、ルラン師団長に時間を作ってもらっているんだ

 少しここを離れるから、ここを任せていいか?」


「禁書の閲覧の許可を陛下から貰ったの?」


「漸くな……」


 フィルジルが自分の執務室を離れ王城の他の者は知らない王族だけが知る隠し通路を進み辿り着いた場所には魔術師団長であるロウルがローブ姿で待っていた。


「ルラン師団長、待たせてしまい申し訳ありません」


「いえ」


「今日は時間を作って頂きありがとうございます」


 ロウルはフィルジルの顔を少し見つめる。


「何か?」


「陛下は珍しく渋られましたね」


「父上は俺が感情で動く心配をしていたのだと思います」


「それだけフェンデル嬢に本気なのでしょう?」


「…………それでは王太子として、将来国王に即位する身として良くないと身に染みました

 父上は、自分の感情よりも冷静に周りを見て采配していかなければならないという俺が置かれている立場を理解させたかったのだと思います

 感情で動けば最終的に自分へ、そのつけがまわってくるということも……」


 フィルジルとロウルがさらに奥へ進むと行き止まりのような壁の前で立ち止まる。


「術は完全に学んで身に付いておられますか?」


「はい、失敗はしたくはありませんので」


 二人がこれから行おうとしているのはこの見た目は何ともない石で出来た壁にかけられている封印の術を解く魔術を発動させる事であった。


 王城には限られた者しか閲覧出来ない禁書があり、この壁の向こう側にも禁書である書物が保管されている。しかし、他の禁書とは違いこの場所に置かれている書物は一番厳重に保管されていた。

 ここは魔術に関する書物が置かれている場所であり、その魔術は人が知る事を禁じられているものばかりであったからだ。何故、禁じられているのか……それは人や大地を害する禁断の術だからである。

 その為、一人でこの入り口の封印を解く事は出来ない。

 歴代の魔術師団長と、直系の王族しか封印の術を知る事は出来なく、魔術師団長と王族の一人が同時に其々の術を発動させて初めて入り口が現れるのだ。

 フィルジルは父親のヴィンセントにずっとここの禁書の閲覧の許可を願い出ていたが、なかなかヴィンセントは首を縦に振らなかった。フィルジルの年齢や感情的な性格を危惧していた事もあったからだ。

 そして、漸くヴィンセントから許可が出てこの場所に魔術師団長であるロウルと共にやってきたのだ。


 フィルジルとロウルが壁へ掌をあて其々詠唱していく。

 大きな金色に光る魔方陣が現れ最後の詠唱を終えた時魔方陣が消え扉が現れた。

 さらに、二人が違う詠唱をしていくとその扉の鍵が開かれた。


 ここまで厳重な封印であるのは、それだけ危険が伴う書物があるのだろうとフィルジルは納得する。


「ルラン師団長は、この中に入った事は?」


「師団長を務めるようになって十数年になりますが、数回ですね」


「そうですか……」


 中は空調管理が魔術でされているのかカビ臭さや埃っぽさはなかったが古い書物が幾つも保管されていた。


「術の解放時間は一刻ほどです

 私はこちらで待機しておりますので、気にならさらないで殿下がお知りになりたい事をお調べください」


「わかりました」


 フィルジルは分類に分けられている棚を見渡し自分の求めている書物がありそうな棚の前で足を止め一冊の書物を手に取った。

 どの書物も年代物で、今フィルジルが手にしている書物もかなり古いものであり、少しでも雑に扱えばすぐ損傷してしまいそうであった。


(なるべく多くの書物を調べたいが、気を付けて取り扱わないといけないか……)


 そんな事を考えながらページを捲る手をフィルジルは止めその一文に目を止めた。






 フィルジルが禁書を調べている頃、フェンデル家では珍しく休日をとっていたユリウスがミーシャを執務室へ呼んでいた。

 ミーシャが執務室へ入るとユリウスは椅子には座らず窓の外を眺めていた。


「お父様、お話って何でしょうか?」


「…………………」


「お父様?」


「ミーシャ……力の足りなかった私を許してほしい」


「え……」


 何時もは自分へ接してくれる時は笑顔で話してくれる父親が自分の顔も見ずに話し始めた事にミーシャは良くない話だとすぐわかり、その話しがどんな内容なのかも察する。

 外へ顔を向けていたユリウスが固い表情を自分へ向けた事にミーシャの考えは確信へ変わった。


「お前の気持ちを踏みにじるような結果になりそうだ」


「…………残された時間がなくなってしまったという事なのですね」


「お前は昔から物分かりが良すぎだな……」


「私は物分かりなんて良くありませんよ?

 本心は我が儘を言ってこの気持ちを押し通したくていっぱいです

 だけど……そんな事をしたら……自分の大切な人を困らせてしまうから……」


 ミーシャの瞳には涙の膜がはる。


「それが、物分かりが良いというんだよ

 本当にすまない」


「お父様は何も悪くはないじゃないですか

 こんな魔力の足りないとされている私が今までフィルの婚約者で居続けことにどれだけお父様のお立場を悪くしたのかはかり知れません」


 ミーシャの瞳に溢れた涙が一粒零れ落ちていった。


(いつの間にこんなに想いが深くなったのだろう……

 初めは本当にただの同情心からの約束であったのに……

 フィルと時間を共にしていく中でどんどん彼に惹かれていく自分がいた……

 フィルが王子だとか、そんな事は関係なくてただフィルの隣に居られる事が心地好くて……

 こんなに好きなのに離れたくないのに……だけど、それ以上にフィルが自分の事で苦しんで苦労する姿を見たくない弱い自分がそこにいた)


「まだ……側妃という道も残っているが……」


「それこそ、そんな事をしたらフィルを板挟みにしてしまう……フィルは優しすぎるから……

 キャロル様がただ一人のお妃様であればフィルも少しは想いを彼女へ寄せる事も出来ると思います……」


(違う……そんなのただの綺麗事で自分を正当化する言い訳だ

 私へあんなに気持ちを伝えてくれているフィルの気持ちを踏みにじるような選択をするくせに……

 自分以外の女性(ひと)を隣に置いているフィルを傍で見ていたくないだけ……

 だって……

 きっと、そんな場面を傍で見たら私は嫉妬に狂ってしまうと思うから……

 そして、そんな醜い自分をフィルに知られたくないっていう自分勝手な考えだ)


「ミーシャ……」


「王太子殿下との婚約解消を受け入れます」


「わかった」


「お父様……一つだけ私のお願いを聞いてくれますか?」


「願い? 言ってみなさい」


「お父様には迷惑をかけてしまうと思います

 ですが───………」


ここまで読んで頂きありがとうございます!


伏線の多い回で分かりにくく申し訳ありません。

もう少ししたらフィルジルとルドルフの会話の意味がわかるかと……

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