第35話 疑惑
月日が少し流れ学院でミーシャ達は次の学年に上がり、新しい新入生が入学してきた。
クラスは持ち上がりのためあまり環境は変わったような気はミーシャはしなかったが、一つ大きな変化は弟のリアンが昼の休憩時間の度にミーシャの元へやってきて、フィルジルと険悪な雰囲気になるというような事であった。
「さあ姉上昼食を食べに行きましょう」
「えっと……」
「リアン……入学当初は学院に慣れていない事もあって君とミーシャが共にする事に口を挟まなかったが、もう入学して一月だ
そろそろ自分の交流を深めた方がいいのではないのかい?」
「お言葉ですが、殿下
殿下が姉上の私的な時間もご自分との時間に強要した結果姉上は昨年度殆んど自分の交流を深める事は出来なかったようなのですが?」
「私と一緒に未来の側近になるべく者達との交流は一緒に出来ているから問題はないよ」
「僕はそういう事を言っているのではありません!」
「あの……二人とも
それじゃあ、三人で一緒に食べましょう?」
「「えっ……」」
ミーシャの提案に二人とも渋い表情を浮かべた様子にこのままでは終わらないと思いミーシャは言い合いを終わらせる為強めに言葉を二人へ言った。
「嫌なの? 嫌なら私一人で食べるからいいわよ
ここで二人でずっと言い合いをしてて」
フィルジルもリアンも納得いっていない様子ではあったが、ミーシャから強く言われしぶしぶ同意した。
食堂のテラス席へ向かうとそこで三人で昼食をとることにした。
テラス席は一グループしか座れない広さであり、周りに他の生徒達がいないので、フィルジルもあまり気を遣わないで過ごせるかと思いミーシャが選んだのだ。しかし、この場には以前は一緒に居たルドルフはいなかった。
ミーシャは食堂内にいるあるグループへ目を向ける。
そこには、キャロルを囲む高位貴族の子息達数人と一緒にいるルドルフの姿があった。
「……………」
「気になるのか?」
「え……あ……ううん……
ただ、最近あまりルドルフとは話をしていないなと思っただけ……」
「あいつに言おうか?」
「それじゃあ、ルドルフが困ってしまうわ
大丈夫よ」
そんな二人の様子を見ていたリアンは言葉を発する。
「殿下はあちらへ行かれなくて大丈夫なのですか?」
「あちら?」
「ストゥラーロ嬢のお隣へですよ……
側近候補のルドルフ殿ばかりが彼女のお側にいるようですが?」
「何故、私が彼女の側へ行かなければいけないと思ったのだい?」
「………僕はいつまでも部外者扱いですので父上や姉上が隠されている事は知りません
ですが……ここだけの話ですがあんな方と言ったら言葉は良くありませんが……あんな方に姉上が劣るなど僕は身内としての贔屓目を除いたとしても考えられません
あのように自分達が周りからどんな風に思われているのかわからなくなっている子息達の様子も信じられませんし
何より──」
「思った通りだな……ちょっとその先を話すのを待て」
「え……?」
フィルジルは自分達の座っているテーブルの周りを防音の魔術で囲む。
「話を続けてもいいぞ」
「え……殿下……その口調……
やはり貴方の今までの姿は作り物だったのですか!?」
「気付いていたんだな
さすが、ミーシャの弟というかだな
この事に関しては俺の気が向いたら教えてやる
それで? さっきお前が言おうとした話の続きだ
あの女……お前に接触したのだろ?」
「なっ!!?」
「リアン大丈夫
私は勿論お父様やお母様に陛下や数人の方がこの本来のフィルの姿の事は知っている事だから警戒しないで
その訳は色々複雑だから、それはフィルが貴方には話してもいいと認めれば話してくれるわ
さっき、何を話そうとしたの?」
「もうっ! 何なんだよ……本当に僕は部外者だったのだね!
今日のところは問い詰めませんが……後でしっかりと説明してくださいね!
さっき話そうとしたのは、大した事ではないかもしれませんが……
あの方が、今殿下が言ったように入学してすぐに僕へ話し掛けてきたんです
絵姿で彼女がストゥラーロ嬢だという事は知っていましたが、僕に何の話が?と、思いました
始めは学院生活でわからない事があれば教えるという上級生のような言葉でしたが……あの方の目線に違和感を持って……引き込まれるというか……笑顔が怖いと警戒心が働き、その時は当たり障りのない事を伝えてその場を離れました
その後も何度も話し掛けてくる事が多くて、ただの厚意からでないような気持ち悪さを感じたのです
今のような周囲に子息方を侍らしている事も普通の令嬢にはあってはいけない事だと僕は感じますし、しかも、周囲にいる子息が偶然ではありえないような……まるで人選したかのようではないですか?
ただ、そこにルドルフ殿が居るのは些か不自然ではありますけど……ルドルフ殿にくわえてさらに僕を取り込むとしたらなんとなく意図が察して
それは強力な人選になると……」
リアンの言葉に口端を上げフィルジルは笑みを溢した。
「ここまで裏側を知らずに推測するなんてさすがはフェンデル公爵家嫡男というか、ミーシャの弟というかだな
お前達の父親であるフェンデル公爵そっくりだ」
「は……?」
「お父様とそっくり?」
「ああ、ミーシャは以前お前の父親は権力に固執しなく野心はない夢見るような人と言っていたが、そんな言葉通りの腑抜けた人物が外務大臣なんて重要な役職を何年も続けていけると思っていたのか?
ま……権力には固執もしていないし野心なんてものがないのは事実だろうが、人当たりの良いあの表情を真に受けて侮れば確実に窮地に落とされる
下手したら父上やルドルフの父親の宰相よりも頭の回転が速すぎて怖い人物であるよ
この王国が他の国よりも栄えているのに、ここ十数年他の国との争いがないのはお前達の父親であるフェンデル公爵の手腕が大きいのだと俺は思っているし、恐らく父上や宰相、そして他の臣下達もそう考えている
そんな頭脳と頭の回転の速さをミーシャもリアンも受け継いでいるんだなと改めて思ったよ
リアン、お前が考えている通りだ
彼女の周囲に居る人物達の後ろにあるものは偶然としては出来すぎているんだ
そこに、ルドルフやそしてリアンに声を掛けてきたということは、ただお前達が高位貴族だからじゃない
王族に近しいスタンリー家嫡男と、フェンデル家嫡男という立場だからだと俺は考えている
本来はあそこに俺も加えたいのだろうだがな……」
「彼女が故意的に有力な子息達を集めているとでも?」
「まだ、確証はないが……俺はそう考えている」
「………どうして……僕にそんな大事な考えを話したのですか?
僕が彼女の手に落ちていて貴方を陥れようとしているとは考えなかったのですか?」
「お前の目を信じたからさ
ミーシャを守ろうとしている気持ちは真実だろう?
そして、お前も彼女のあの視線に違和感を持ったという事もあったしな」
「殿下は……何をお考えなのですか?」
フィルジルはリアンの問いに何も答えず目の笑っていない笑みをキャロル達のいる方向へ向けた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
作者の覚書
リアン・フェンデル ミーシャの一つ下の弟でフェンデル家嫡男
ミーシャと同じ色の肩より少し伸びた銀髪を後で結び灰色の瞳をしている。
ミーシャの事を慕っている(少々シスコン気味)その為かフィルジルへ敵対心を持ち胡散臭いと思っている。




