第33話 王太子への批判
王城の謁見の間では国王と宰相、王太子であるフィルジル、王太子付の補佐を行っているルドルフ、フェンデル公爵が待つ場へ近衛騎士に連れられた男二人が床へ座らされた。
数日前に起こった王太子の婚約者であるフェンデル公爵令嬢を乗せた馬車を襲った事件の尋問をする為である。
「陛下、並びに殿下
何かの間違いであります……
我が息子がそんな大それた事を企てるなど……」
イェーガー侯爵の言葉を制し、宰相が言葉を発した。
「イェーガー侯爵、そなたの発言はまだ許していない
イェーガー侯爵家嫡男であるコリン・イェーガー
そなたは、先日王太子であるフィルジル殿下の婚約者フェンデル公爵令嬢の乗った馬車を襲うよう破落戸へ金を握らせ企てた罪の疑いがかかっている
何か、申すことはあるか?」
「しくじりやがって……」
コリンが呟いた言葉にフィルジルはギリッと奥歯を噛み締めた。
そんなコリンの言葉と態度に父親であるイェーガー侯爵は窘めようとした。
「コリンっ!」
「認めるのだな?」
「私は感謝されるべきであって咎められる事はしておりません」
コリンの言葉にフィルジルは黙っていられなかった。
「感謝だと……?」
「王太子殿下、貴方が大切にしなければならないお相手を見失っておられるのではないですか?
貴方はこの王国を明るく導ける力を持っているキャロル嬢を蔑ろにしすぎではありませんか?
あんな魔力も乏しい悪女に入れ込む姿を臣下へ見せるなど愚かでしかない
学院では噂の的でありますよ、他の生徒達との交流よりも婚約者であるフェンデル嬢を優先させ、挙げ句には王太子へ用意されている執務室に彼女といつも入り浸っていると
中で何をされているのやら……」
そんなコリンの言葉に怒りを露にしようとするフィルジルよりも先にルドルフが言葉を発した。
「口を挟んで申し訳ありません
今のイェーガー子息の言葉は些かご自分のお考えが入り湾曲していて事実とは異なります
殿下が執務室に空き時間を見付けてはいらっしゃる訳は王太子になられて大量に増えた政務を学院でもさばく為で、その時は僕もかならず同席しております
フェンデル嬢が度々執務室を訪れているのは、そんな執務に忙殺されている我々にお茶汲み等をしてくれているからであり殿下が私欲の為に執務室を使用している事実はありません」
「公爵家の令嬢がお茶汲み?
そんな言い訳にもならない嘘は止めて頂きたいですね
お茶汲みなど学院に連れてきているメイドの仕事ではないか」
「殿下はご自分が気を許していない者を近くに置く事を好んでおりません
これは、公にはされておりませんがこの場にいる陛下や宰相である僕の父も知っている事ではあります
しかし、その理由を貴方に述べる必要はないかと……
ですから、普段は殿下自らの手でお茶汲みなどもしておられますが、そんな時間も惜しんで殿下が政務を取り組んでおられるのをみかねたフェンデル嬢がご自分がお茶汲みの雑務を行う事に自ら手を挙げてくださったのですよ」
「………しかし、スタンリー殿はわかっておいでなのではありませんか?
誰が国母に相応しいのか……」
「何が……?」
「貴方は最近キャロル嬢を慕っておいでですよね?
ならば、彼女の素晴らしさを身を持って感じておいでだと我々は思っているのですが……
あの光の魔力による癒しはこの王国の未来へ素晴らしい糧となる……」
キャロルの事を語るコリンは恍惚とした表情で、それはキャロルに心酔仕切っているかのような様子で異様にも思えた。
宰相であるドレイクはその異様な空気を打ち破るように口を開く。
「イェーガー子息の申したい事はわかった
ではイェーガー侯爵、今回の子息の過ちを親として家長としてどう責任をとるとお考えであろうか?」
「責任と宰相は言われますが……それは私の騎士団総指揮長という役職を降りろという事でありますか?」
「私は何もまだ裁決はくだしてはおりません
貴方ご自身はこのご子息の過ちの件で自らがどのような責任をとられる事があたいするのかと考えを聞いたまでです」
「息子が犯した失態は私の役職返上と息子の嫡男という立場を取り消しましょう
しかし、ならば私もここにいる皆様へ殿下の行動について言いたい事がある」
「言いたい事とは?」
「殿下がフェンデル公爵令嬢が賊に襲われた事をどうお知りになったのかはわかりませんが、自らの御身で救出へ向かわれた
こちらへ何もご相談する事もなく勝手に近衛を動かしてです
たかが、臣下の娘の為に万が一ご自分の御身へ何かあったらという危機感もなく……ご自分のお立場を全くご理解していないそのご行動は如何なものかと……
さらに、殿下と現場へ供にした近衛の者が話しておりましたが、犯人を殿下自らの御手で始末されようとなさったのだと……
然るべき尋問もせずにそのようなご行動はどう釈明なさるのですか?
その時の殿下のご様子は鬼気迫るようなお姿であったと……
ご自分の感情のまま行動に移すなど冷静さが必要な国王に将来、即位なさる御身としてその資質を問われかねない振る舞いなのではないでしょうか?」
イェーガー侯爵の言葉にフィルジルの強く握られた拳は震え指の間からは赤いものが滴った。
「この件の沙汰は追って言い渡す
それまで二人を牢獄で沙汰を待つ事をこの場で言い渡す」
そう国王のヴィンセントは言い渡し、イェーガー侯爵と子息のコリンは騎士に連れられその場を後にした。
「ユリウス悪かったな
お前には聞くにも耐えられないようなあの者達の言い分であっただろう?」
「いえ……殿下の婚約者に娘の名前を挙げられた時からこの様な事も覚悟はしておりました……」
「フィル、よく感情を抑えたな」
「……………」
「それと、ルドルフも冷静な学院での様子を述べてくれた事、お前の成長を見させてもらった」
「いえ……いつもの様子をただ説明しただけにすぎません
それに、イェーガー子息の言い分はあまりにもストゥラーロ嬢へ偏っていて、そしてミーシャへあまりにも敵意が剥き出しだった事も気にかかります」
「それは、我々も気が付いていた……
光の魔力へ心酔していたとしてもあまりにも異様な言葉であったな……」
「陛下……御前失礼致します」
そんな国王達の会話にはフィルジルは入らずフィルジルは一言言葉を発すると謁見の間を後にした。
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