第3話 運命が動き出す
フェンデル家の邸に大きな声が響いたのは王妃陛下のお茶会から数日後の事であった。
王城への出仕から戻ったフェンデル公爵がエントランスに入るなり大きな声で娘のミーシャを呼んだのだ。
「ミーシャはいるかっ!? ミーシャを呼んできなさい!!」
私室に居たミーシャと母親のルーシェが使用人に呼ばれて慌ててエントランスへ向かう。
「お父様そんな大声でどうなさったのです?」
「どうもこうも……」
「ユリウス様少し落ち着かれてください
先ずは場所を移しましょう?
誰か応接室にお茶を用意して」
冷静なルーシェは使用人にお茶の用意を伝え、夫のユリウスを応接室へ促した。
三人が応接室のテーブルセットに座りルーシェはユリウスへ言葉をかける。
「それで、ユリウス様は帰ってきたなりそんなに慌ててどうなさったのですか?
ミーシャに何かありましたの?」
次の父親の言葉をゴクリと息をのみミーシャは待っているとユリウスは少し落ち着き口を開いた。
「ミーシャ……お前、先日のお茶会でフィルジル殿下と何があったのだ?」
「えっ!?な、何がって……」
(えっ?
お茶会って……あの事がばれてしまったの!?誰にも言わないという事でおさまっていたのではなくて!?
今、考えれば……王子に対して数々の不敬ともとられかねない言葉や態度は自覚はあるけど……
それが、お城で大問題になっているの!?)
そんな事をミーシャがぐるぐると考えていると、母親のルーシェが口を開く。
「ユリウス様……?ミーシャと殿下が何かあったとは?」
「……今日……陛下から呼ばれて告げられたのだ……ミーシャが殿下の妃候補になったと……」
「ええっ!!?」
「ミーシャお前はお茶会に行くことをあんなにも嫌がっていたではないか……挨拶しかしないと言っていたお前がどうして殿下の妃候補になるのだ……」
「そんな事……」
(そんな事、私が聞きたいわよ!
王子に嫌われている自信はあるけど、妃に望まれる事なんて何もしていないのに!
それとも、これは罠!?妃候補にして、先日の行動の仕返しをするとか!??)
「……それで……ミーシャは殿下の正式な婚約者になった訳ではなくて、まだ妃候補なのですよね?」
「ああ……そう聞いてはいるが……陛下も人が悪い……人数が足りないから形だけの出席で構わないと申されていたのに……
ミーシャをあんな陰謀が渦巻く王家になど……」
「本当にユリウス様は野心がないというか権力に執着心のないお方ですわね
そして、ミーシャの事を真綿にくるむように大事になさって……
普通の貴族の父親でしたら娘が王族のしかも第一王子殿下の妃候補に選ばれたならば喜びこそすれ、こんなに悩まれる事もありませんでしょうに……ま、そこがユリウス様の良い所ですけど
取り敢えず、まだ候補なのですからそこまで深くお考えなさらずにね?」
そんな、冷静な母親のルーシェの言葉を聞いて、内心動揺していたミーシャも少し冷静になるが、やはり納得がいかない気持ちでいっぱいであった。
「取り敢えず……急ではあるが明日ミーシャと共に登城しろとの沙汰であるから、ミーシャの用意を頼む
それと、ミーシャ……お前は殿下との婚姻を望むのか?」
「はっ!?
そんな面倒な立場を私がすき好んで望むなどありません!
それに私が他人と関わる事が苦手な事をお父様もご存知でしょう?」
「そうであろうとは思ったのだよ……ミーシャが殿下に自分から近付く筈がないし、人違いだと何度も陛下には言ったのだがな……」
(ううぅ……木の上から王子の上に落ちたうえに言い合いまでしたとはお父様には言えない……
こうなったら、直接王子に妃候補の理由を問い詰めて撤回させなきゃ……)
◇*◇*◇
次の日、フェンデル公爵夫妻とミーシャは王城を訪れていた。
通されたのは謁見室ではなく、小ぢんまりとした応接室であった。
国王陛下と王妃陛下が応接室に入ってくるのと同時に三人は正式な礼をとる。
「ユリウス、公式な場でないし人払いをして我々だけであるからそんなに堅苦しくしないでくれ」
「陛下……いや……ヴィンセントっ!!これじゃあ話が違うじゃないか!!」
「いや……ユリウス……まぁ……どういう訳かこうなってしまってな?」
国王のヴィンセントとミーシャの父のユリウスは幼馴染みであり公的な場でない時は敬称を付けずにこのような口調になる事を話には聞いてはいたが、その様子を初めて見るミーシャにとっては衝撃であった。この国のトップの人間と権力に固執のしない父親が同等のやり取りを行っているからだ。
「そもそも、なぜミーシャなのだ?
人違いだろ!?」
「いや人違いではない
フィルが自分の口でお前の娘の名前を言ったんだよ」
このミーシャの妃候補に選ばれた理由はフィルジルがミーシャの名前をあげたからだとヴィンセントは話し始める。
それは、お茶会の後であった───……
国王夫妻は自分の息子であるフィルジル王子に問い掛けていた。
『どうだ、フィル気に入った令嬢はいたか?
そろそろお前の婚約者を決めなければならないのだが、勝手に我々が決めた相手にするのも忍びなくてな、少しでもお前の目に止まった令嬢がいればと思ったのだよ』
『父上っ!突然お茶会で婚約者を選べだなんて……早急すぎるよ!』
『フィル、まだ貴方の妃候補という形だけでもいいのよ……そうでないと、周囲の者が色々と動いてからでは貴方の意見なんて通らなくなってしまうわ
もし、今回あまりご令嬢方とお話できなかったのなら、またお茶会を催してもよいのよ?』
『……………
もう…あんなくだらないお茶会なんて開かなくていいよ……
わかった……誰でもいいのだよね?』
『身分は多少は考慮しなければならないがな……』
『…………っ!
本当に面倒な世界だな……
……心配しなくても十分な身分だよ』
『お前が目に止めたのは誰なんだ?』
『………フェンデル公爵令嬢……』
『何だって……?』
『だから、フェンデル公爵令嬢ならいいって言ったんだ!
まだ、妃候補なんだよね!?それなら、周囲の連中が妃候補が決まって少し大人しくしている間に自分の婚約者は自分で見付ける!』
フィルジルの珍しい自分からの願いに国王夫妻は驚いた───……
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