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第29話 深まる想い

 柔らかな風がミーシャの髪の毛や顔を撫でていく感覚にミーシャはゆっくりと目蓋を開けた。医務室の寝台で横になるミーシャが意識を戻した事に傍に付いていたフィルジルは気が付きミーシャの手を握る。


「気が付いたのか?」


「ええ……ずっと付き添ってくれていたのね……

 もう……午後の講義が始まってしまっている時間なのに……迷惑をかけてごめんなさい……」


「こういう時は、ただ『ありがとう』って言えばいいんだよ

 俺が付き添いたくて付いていたんだ

 気分は……?」


「ありがとう……

 もう……大丈夫……

 あのね……フィルにね……ずっと内緒にしていた事があるの……」


「内緒……?

 何だ突然……」


「さっき……私が倒れた理由……

 フィルに知られたくなくてフィルには言わないで欲しいって陛下や王妃様にも黙っていてもらっていたの……

 だけどね……フィルが……私へそのフィルの人前では外向きの振る舞い方をしている訳を教えてくれたから……私も教えてあげる……

 きっと、またこうやって迷惑をかけてしまうと思うから……」


「ミーシャ……?」


「私ね……幼い頃から相手が笑顔の下で隠している心の中にある悪意を感覚で察する事ができてしまって……その悪意が自分の精神に接すると体調を崩してしまうの……

 幼い頃よりはそのかわし方を覚えたけれど……それでも多くの他人と関わる事は未だに苦手ではある……

 以前、ティアラ様と妃教育で関わる事が多かった時は王妃様にとても気をつかって頂いて申し訳なかった

 気持ち悪いでしょう?

 他人には知られたくない内面を私は知ってしまうの……

 そんな気持ち悪い体質をフィルに知られたくないって……思っていた……」


(フィルから拒否されたくなかったから……)


「だから?」


「フィル?気持ち悪いでしょう?そんな自分の隠している内面を知られちゃうなんて……」


「別に、その知った悪意をお前が周りへ言いふらしている訳じゃないし、何とも思わない

 お前自身が自分の中で相手の悪意に苦しんでいるだけじゃないか

 そっちの方が余計に心配だし、そんなお前に何もできない方が辛い

 そんな事で自分を卑下するなよ」


「フィル……」


 フィルジルのそんな何も変わらない態度にミーシャの胸の中は温かくなる。


「で? さっき倒れたのはあの場にいたあいつらの悪意を感じ取ったからなのか?」


「本人は……悪意だと感じていないのだと思う……

 いつもと感じ方が全く違ったから……」


「悪意だと感じていない?」


「キャロル様が話していた通りに、キャロル様は自分の行動や考え方は当たり前と思っていて悪い事だと感じていない……

 婚約者の方がいる方とあのように仲良く過ごされる事も……

 その事で周囲の方がどんな不快感を感じるという事も理解していない……

 そんな感覚が私の精神にもぶつかって隠されている悪意よりも大きく不快感を感じてしまって倒れてしまったのだと思う……」


「裏で悪事を企んでいる輩よりも質が悪いな……」


「自分の婚約者のあんな姿をみたら……どんなに辛いかと思うと……

 あのご子息方の婚約者の方が心配でならない……」


「本当にお前は自分の事よりも他の人間の事ばかりだな……

 自分は蔑むような事を言われて頭まで下げさせられたのに」


「それは……フィルの今まで積み上げてきたものを崩したくはなかったから……」


「それが、人の事ばかりだって言うんだよ……

 俺は……お前にあんな事をさせてしまってまだまだだと感じた

 もっと上手く振る舞えばお前をあんなにも傷付けなかったのに……

 お前の事になると感情的になる事が止められないんだ……」


 フィルジルとミーシャの視線が絡み合った時、フィルジルが寝台へ手を置き寝台がキシッと音をたてた。


「フィル……?」


 フィルジルを見上げたミーシャとフィルジルの距離が近付きフィルジルの唇がミーシャのそれに重なる。

 すぐフィルジルは離れていったが唇に残る感触にミーシャの時は止まったような感覚を覚えた。


「俺が……お前を守るから……一人で苦しまないでくれ……」


「え……」


「今日の王妃教育は体調不良で休ませると城には伝えた

 フェンデル家の馬車ももう呼んである

 馬車寄せまで送るから今日はゆっくり休め」


「フィ、フィル!

 今……」


「今?何だ?」


「えっ!?そ、それは……その……」


 余裕な表情のフィルジルに反してミーシャは狼狽えてしまう。


「お前があまりにも無防備だからだよ……」


 そんな言葉を言ったフィルジルの顔がまた近付いたかと思ったら、再び重なった唇にミーシャの身体は固まり、少し顔を離したフィルジルから熱い瞳で見詰められた瞬間顔が熱くなる事がわかった。


「……………っ!!」


「本当に無防備すぎ……他の男に触れさせたりそんな顔見せたら許さないからな」


「触れさせるって、そんな事する訳がないでしょう!?

 そんな事よりも何でこんな事──」


「嫌だったのか?」


「えっ!?い、嫌ではない…………っ!

 ~~~~~………」


 ミーシャの口から出てきた言葉にフィルジルが口角を上げて笑みを浮かべた姿を見てミーシャの心臓はさらにドクドクと音をたてた。


「お前に触れていいのも、そんな表情を見ていいのも俺だけだ」


「っ!!」


 フィルジルのそんな言葉に動揺が止まらず、そしてフィルジルの余裕がある様子に悔しくなるミーシャではあったが、まだフィルジルの唇の感覚が残る自分の唇が熱く感じてしまい何も言い返す事ができないでいた。





 ミーシャを乗せた馬車を見送ったフィルジルは校舎へ向けて足を進める。

 フィルジルはミーシャの前では余裕な表情をしていたが、本当は余裕など全くなかった。

 十二歳のあの日ミーシャへの想いを自覚した時から、ミーシャの表情や態度に自分の感情を振り回されている自覚はあったし、ミーシャを傷付ける存在に対しては冷静になどなれなかった。

 今日、医務室でミーシャに思わず口付けてしまった時、ミーシャの前では余裕な表情を浮かべてはいたが、それは自分の持っている理性の全てでそれ以上進めたい気持ちを必死で抑えていたのだ。

 柔らかく自分の理性をもなし崩しにしそうな魅惑的なその感触に自分からした行為であるにもかかわらずフィルジルは自分の動悸を落ち着かせようとしてもなかなか収まらなかった。


 怖がらせたくない

 誰よりも大切にしたい

 ずっと慈しみたい


 フィルジルはこれだけ自分が夢中で愛しい存在を害しようとする存在には怒りしかなくこのままには絶対にしないと強く思い、自分達の前に立ち塞がる障壁の大きさに対して自分の力のなさに憤りしかなかった。



ここまで読んで頂きありがとうございます!



ほんの少し甘い空気感が出てきたでしょうか……?

技量が追い付かずなかなか甘さが出せなくすみません( ;´・ω・`)

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