第28話 悪意と思わない無垢な感情
ミーシャを探し食堂まできたフィルジルとルドルフへ満面の笑みを浮かべキャロルは近寄る。
「フィルジル様! それにルドルフ様も!
私、フィルジル様と昼食をご一緒したいとずっと思っていたんです!」
「………残念ですが、もうお昼の休憩時間は残り少ないですから今日一緒に貴女と食事をとる事は難しいですね」
「そうですよね……残念です……
ですが……これからずっと長い期間お傍で一緒に過ごす事になるのですから、今日は諦めます
次こそはご一緒しましょうね!」
キャロルの言葉にフィルジルは怒りを露にしそうになるがそれを抑え、目の笑っていない作った笑みをキャロルへ向けた。
「私の傍で過ごしたいと思われる気持ちが少しでもあるのであれば……多少ご自分の行動を省みてくださらないとお辛い立場になるのでは?
そのように、婚約者の居る子息の方と気安く関わられたりする事もどうかと思いますが……」
フィルジルの言葉にキャロルはキョトンとした表情を向ける。
「私……何も悪い事なんてしていませんよ?
皆さん、貴族社会や学院に慣れていない私を助けてくれているんです
皆さんの婚約者の方が心配であるなら私達と一緒に過ごしたらいいじゃないですか?
それに、私の振る舞い方がどんなものでも、フィルジル様と一緒に今後過ごす事はこの王国の決まりだと教えてもらいました
それならば、フィルジル様と私も少しでもお互いの事を知って仲良くなったらいいと思うんです」
ミーシャもフィルジルも自分とキャロルの考え方のあまりの違いに何も言う事が出来なかった。さらにキャロルは言葉を続ける。
「フィルジル様はどうしたら私と仲良くなってくれるのですか?
こんなに、余所余所しい態度をずっととられるなんて私、初めてです」
「……気分が悪い……これ以上話ができそうにないので失礼する……」
フィルジルは人前にも関わらず珍しく素っ気ない態度でキャロルに言葉を発した。その時、ずっと黙っていたミーシャが口を開く。
「あの……キャロル様のお考えもあると思うのですが……それでも皆様の婚約者の方々は不安になると思います
自分の婚約者の方が……自分よりも他のご令嬢を優先している姿を見てしまったら……」
ミーシャの言葉にキャロルは眉を下げ悲しげな表情を浮かべた。
「私は……そんなつもりはありません……
ミーシャ様からそんな風に言われたら……」
目に涙を浮かべている様子のキャロルに彼女の隣にいた子息達が声をあげる。
「フェンデル嬢、キャロル嬢へ敵意を向けるのはどうかと思われますよ?」
「え……敵意?」
「貴女のような人を下に見ているような方よりもキャロル嬢は無垢であるのにそのようなきつい言葉を発するなんて淑女としてどうなのですか?
貴女のお立場が揺らいでいるとはいえ……それは当て付けのようだ」
子息達の言葉にフィルジルの纏う空気が急降下とした事に他の者は気が付かなかったがミーシャとルドルフは気が付いた。
「それは……どういうつもりでの言い分であるのだ?」
「フィルっ! 大丈夫だから……」
(こんな所でフィルの今まで積み上げてきたものを崩す訳にはいかない……)
「私は、キャロル様へ敵意を向けた訳ではありませんが……誤解を生じたならば私の言葉が足りなかった為でありますので……
申し訳……ありませんでした……」
この王国の貴族の慣習として自分よりも下の位の者へ頭を下げる事はあまり良い事ではないとされているが、この場をおさめる為にミーシャはキャロルへ頭を下げた。
その事にフィルジルの怒りはさらに上乗せされる。
「ミーシャ……この者達へ君が頭を下げる必要はない
頭をあげなさい
私の婚約者への蔑むような言葉はしっかりと聞かせてもらった
ミーシャは私の婚約者である前に我が王国の由緒ある公爵家の一つであるフェンデル公爵令嬢だ
その令嬢へ向けての言葉としてもどうかという事、そなた達はしかと考えるべきであると私は思うが……私の考えも間違っていると言うのだろうか?」
フィルジルは少しの間を空けてさらにもう一言キャロルへも忠告した。
「ストゥラーロ嬢、ミーシャを今後貴女の勝手で振り回さないでほしい」
「私は振り回してなんていませんよ?
私の方が……言い掛かりだと思う事を言われました……」
うるうると目を潤ませたキャロルの様子と言葉にフィルジルは怒りを露にしそうになる事をグッと抑えた。
「…………っ!
……ミーシャに貴女の偏った考えを私は聞かせたくはない……
失礼する……ミーシャ行くよ」
フィルジルはキャロルへそう伝えるとミーシャの手をとりその場を後にした。
「……………いなくなればいいのに………」
そんな小さなキャロルの呟きはその場を離れていくミーシャやフィルジル、ルドルフの耳には届く事はなかった。
食堂を出てすぐミーシャの顔色の悪さにフィルジルとルドルフは気が付き足を止める。
「ミーシャ?どうした!?その顔色……」
「ちょっと……気分が……悪……くて……」
(……人の表の顔に隠された裏の悪意に調子が悪くなることは今まで沢山あったけれど……これは違う……
あの場にあったのは隠された悪意ではなくて……何も偽っていない相手を害しているとも思っていない偽りのない思い……その思いが周りに与える影響のように真っ直ぐ私の精神にぶつかってきた……
気持ち悪い………怖い………悪意だと本人が感じていなく隠されていないから尚更……)
「ミーシャっ!?」
ミーシャはそのままうずくまり意識を失っていった。
「気を失っているだけだと思うけど……念のため医務室へ連れていった方がいいかもしれない」
ルドルフの言葉に同意し、フィルジルはミーシャを抱き上げ医務室へ向かう。そして隣を歩くルドルフへ言葉を掛けた。
「あの女の事を徹底的に調べる……
絶対に許さない……」
「あの周りにいた子息達の様子をみても普通でない事は明らかだね……
あの子息達は力を持っている侯爵家の人間だし、以前はあんな振る舞い方をするような人物達ではなかった筈だよ」
「…………………」
ずっと思案顔のフィルジルへ、ルドルフは目を向け言葉を発した。
「いいよ……」
「ルドルフ?」
「今のミーシャの状況でフィルが動いたらよけいにミーシャを苦しめる事になるでしょう?
それに、ミーシャの気持ちを聞いたのだろう?」
「それは……」
「そうやって、気を遣われる事の方が面白くないけど?
それに、二人の気持ちが通じていても二人の様子や周囲の状況をを見ていたら二人が幸せ一杯ではないのはわかるしね
まだ、僕が完全に負けた訳ではないと思っているし?
人の気持ちは移ろいやすいから……
今回は僕が動くよ、だけどフィルの為ではないよ?
僕だってミーシャへのあんな仕打ちは怒りで一杯だからね……」
「わかった……」
そんな言葉を二人で交わしながらミーシャを医務室へ連れていった。
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