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第27話 昼食への誘い

 次の日の朝、ミーシャが馬車で学院の馬車寄せまで着いた時にはフィルジルはもう着いていてミーシャの到着を自分の馬車内で待っていた。ミーシャの家の馬車の扉が開くとそこにはフィルジルが柔らかな笑みを浮かべ手を差し出していた。


「ミーシャ、おはよう」


 ミーシャはフィルジルの手に自分の手を乗せる。


「フィル……おはよう」


「このまま先に執務室へ向かっても構わないかい?」


「ええ……構わないわ……」


 フィルジルはミーシャの手を自分の腕に乗せ学院に用意されている自分の執務室へ向かった。フィルジルの護衛や侍従、メイドは執務室の扉の前で待機させ執務室の扉が閉められるが、なかなかフィルジルは言葉を発しない。そんなフィルジルの様子にミーシャが口を開く。


「執務……たまっているのではなくて?

 話がないのなら……フィルの執務の邪魔になってしまうし私は先に教室へ行っているけど……」


「……昨日あんな事があったばかりだ……気持ち的にもまだ落ち着いていないだろう?

 大丈夫か……?」


「いつも通りとはいかないけれど……思っているよりも変わりはないわ

 フィルこそ大丈夫……?」


 フィルジルはミーシャの手を握りそのままその手を自分の口へ寄せた。


「フィ、フィル……!?」


「俺から……離れていかないでくれ……」


 それは……まるで自分の心の中を見透かしたような言葉のようにミーシャは感じた。


「フィル……どうして……そんな事を……?」


「気持ちが通じ合った筈なのに……お前が遠く感じる……

 どうして……こんなにも多くの障壁があるんだ……

 お前が俺から離れていくなら……いっその事……」


 フィルジルが飲み込んだ続く言葉がなんとなくわかりフィルジルの気持ちが痛い程ミーシャには伝わってきた。自分が想いを寄せている相手がここまで自分へ気持ちを向けてくれる事は本来ならたまらなく嬉しい事であろうが、ミーシャはとても苦しくなる。


 ───いっその事……自分の立場を全て投げ捨てられたのならどんなに簡単であろうか……


 フィルジルは、言葉にして伝えられなかった気持ちを飲み込み、ミーシャの頬へ指を滑らした。そんなフィルジルの行動にミーシャがピクッと震える。二人の視線が絡んだ時にいつの間にか開いていた扉の方から声を掛けられた。


「いくら婚約者同士だからといっても締め切った部屋の中で男女が二人きりで過ごす事はあまり良い噂を生まないよ?」


 突然の声に二人が扉の方向へ顔を向けるとそこにいたのはルドルフであった。


「………ルドルフ……」


「そろそろ、講義の時間になるけれど教室へ行かないの?」


「ルドルフ教えてくれてありがとう

 急がなければ遅刻してしまうわね

 フィル……教室へ向かいましょう?」


「ああ……」


 教室へ向かう時にミーシャとフィルジルの二人の様子を見ていたルドルフは思案顔で二人の後ろ姿を見詰めた。




 ◇*◇*◇*◇*◇


 それは、ある日の午前の講義が終わってすぐであった。


「ミーシャ様……」


「え……?」


 ミーシャへ声を掛けたのはキャロルであった。


「キャロル様、どうされましたか?」


「あの……今日、私と一緒に昼食をご一緒しませんか?」


「え……それは……」


「いつも、ミーシャ様はフィルジル様やルドルフ様とばかり昼食をご一緒されていますけど、私もミーシャ様と色々お話したいと思っていたんです」


「お話……ですか……?」


「ええ!これから一緒に過ごす事が多くなりますよね?」


 キャロルの言葉の意味がよくわからなくミーシャは聞き返す。


「多くなる……って……クラスが一緒だからという意味でしょうか?」


「違いますよ!

 私、お父様から色々お話を聞いて色々な事を教えてもらっているんです

 ミーシャ様も私と一緒に学院を卒業したら王城で過ごすのでしょう?」


 そんなキャロルの言葉にミーシャの胸は苦しくなっていく。


「何年もフィルジル様の婚約者の立場にあったミーシャ様ならフィルジル様の事を色々と知っていますよね?

 私とフィルジル様はまだ知り合ったばかりで、フィルジル様の事を何も知らないから色々と教えてくださいね

 本来なら、光の魔力を持った方を優先するらしいですけど……私はミーシャ様と一緒でもいいですよ

 王族の方は何人もの奥さんがいるものだとも聞いたので、それは仕方がないかなと思っていますから」


 突然のキャロルからの話の内容の衝撃に胸の中でザワザワと音をたてたかのような感覚をミーシャは覚えた。

 そして、くる時がきたのかもしれないと感じる。

 キャロルの周りはキャロルをフィルジルの妃へ宛がうように動いているのだと感じ、そしてキャロルもその事を望んでいるかの様に思えた。


「………………」


「だから、仲良くしましょうね

 今日、イェーガー侯爵家のコリン様とサイモン侯爵家のシェーン様のお二人と昼食をご一緒するんです

 お二人とも色々と私によくしてくれるんですよ?

 ミーシャ様も一緒に行きましょう!

 楽しい時間が過ごせますよ!」


 ミーシャの腕を引っ張り食堂へキャロルはミーシャを連れていった。




 他の用事で教室にいなかったフィルジルとルドルフが教室へ戻るとそこには既にミーシャの姿はなく近くにいたクラスメートに問うとキャロルと食堂へ向かったとの返答にフィルジルの人前での作られた表情に僅かに怒りが浮かんだのをルドルフは感じ取った。




 学院の食堂の一角では高位貴族の子息である二人の子息から好意的な振る舞いをされ、にこやかに食事をとっているキャロルの姿をミーシャは同じ席でぼんやりと眺めていた。

 そこにいる二人の子息には確か彼らと同じ高位貴族のご令嬢の婚約者がいると王国の全貴族の名前や経歴、関係を妃教育で学んでいたミーシャは知っていたが、その子息達はまるでキャロルが自分の一番の想い人かのような接し方で接していた。

 本来婚約者がいる者は婚約者に誤解や不信感を与えるような他の異性との交流は控えるべきであるとされている。

 しかし、目の前の光景は何なのであろうか……これでは不信感どころか堂々と他の異性へ気持ちがあると公衆の面前で示しているかのようにも思えるとミーシャは感じ、そんな子息達の様子は勿論、それを当たり前のように思っているかのようなキャロルの様子にも不快感を感じた。

 そんなキャロルがフィルジルの相手になるのかもしれないと思うとさらに不快感が大きくなっていく。


「ミーシャ、こんな所にいたのだね」


 その時、ミーシャに声を掛けたのはいつもミーシャの傍に居てくれる存在であった。


「フィル……」


 顔色の悪いミーシャの様子にフィルジルは人前であるにも関わらず眉根を寄せる。


「随分探したのだよ

 心配させないでくれ……」


 そんなフィルジルが機嫌を悪くしている事にも気が付いていないような様子のキャロルが満面の笑みをフィルジルへ向けた。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

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