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第26話 現実

 国王の話にミーシャとフィルジルは何も言葉を発する事が出来なかった。

 そして、国王の話が終わってすぐにミーシャの父親であるユリウスと宰相のドレイク、魔術師団長のロウルが応接室へ入ってきた。


「ミーシャ……お前は……」


「お父様……あの……」


 ユリウスはミーシャをそっと抱き寄せる。


「ヴィンセントから全てを聞いたのだね?

 魔王浄化の事も、自分の魔力の事も……」


「はい……」


「殿下の妃候補に決まった時からいつかこの日が来ると思ってはいたよ……」


 精霊王がミーシャとフィルジルの傍へ近付く。


「二人の記憶の封印を解く事に異論はないな?

 全国民の幼い頃の二人の関係性についての記憶はどうする?」


 精霊王のその問いにヴィンセントは少し考えフィルジルとミーシャへ目を向けた。


「お前達はどうしたい?」


 ミーシャは怖かった。

 今、フィルジルと幼い頃から知っている仲だったと聞かされ、それだけでなく自分の魔力の事や幼い頃起こしてしまった事に自分でも頭の中がいっぱいになり、さらに周囲までもが自分達が十歳から知り合ったという認識が崩れた時の周囲の反応が怖かったのだ。

 そんなミーシャの様子を感じ取ったフィルジルは口を開く。


「戻すのは俺達二人の記憶だけでいい」


「フィル……?」


 フィルジルがミーシャの手をそっと握る。


「混乱しているのは俺もだ……

 それに加えて周囲の反応まで今までと変わる事での余計な混乱までいらない」


 フィルジルの気持ちがミーシャには嬉しく、握られた手をミーシャは握り返す。


「そうか……

 それならば、お前達二人の記憶の封印だけを解こう」


 精霊王が二人の記憶の封印を解いた瞬間ミーシャとフィルジルの頭の中に急激に大量の記憶が戻り始める。全ての記憶が戻った時、忘れていた二人で幼い頃一緒に遊んだ優しい記憶と同時に魔王と接触した時の恐怖心も二人は思い出した。カタカタと震えるミーシャに気が付いたフィルジルは握っていた手に力を込める。


 二人の記憶を戻した精霊王はふわりとミーシャの頭を撫でた。


「記憶を戻す鍵を開けて俺を呼ぶ時に魔石が砕けたからな……

 俺の魔力を強めに入れた石をやろう」


「あ……ありがとうございます……」


 ミーシャを見詰めた精霊王はミーシャの手をとると手の甲へ口付けを落とす。


「……そんなに自分の魔力に不安にならなくとも何かあれば俺が駆け付けてやる」


 そんな二人の様子にフィルジルはミーシャの腕をひっぱると精霊王へ鋭い視線を向けた。


「幼い頃の自分達の行動から起きた事を助けてくださって大変感謝しておりますが……

 ミーシャには俺が付いていますので心配なさらないでください」


 そんなフィルジルの様子に小さく笑みを浮かべた精霊王は言葉を返す。


「余裕がなければ上手くいく事も上手くいかなくなるぞ

 気付かぬうちに一番大切なものをも己の手から溢れているかもしれない」


「何があっても絶対に手放しませんから……」


「人にはいらぬしがらみも多いが……どう対処するのか見ていてやろう……」


 そう言うと精霊王の姿は見えなくなった。


 その場が少し静寂に包まれた時にフィルジルはヴィンセントやユリウスに顔を向け口を開く。


「父上達は俺達の過去の事を知っていたのですよね?

 それならば、ミーシャの魔力の事もわかっていたって事で……

 俺達の婚約への障壁なんてないんじゃ……」


「フィル……ミーシャ嬢の魔力の性質を理解していないのかい?」


「え……」


「ミーシャ嬢が魔力を使う度に何を削られるのであったか理解しているのか?」


「………っ……」


 ヴィンセントの言葉にフィルジルは大きな恐怖に包まれ吐き気をも感じた。

 ミーシャが魔力を使うという事はミーシャ自身の命を削る事である事に身体が震える。

 フィルジルはミーシャが他の者よりも大きな魔力を持っている事が他の者へ周知されれば自分達の婚約を反対している者も大人しくなると簡単に考えた自分の愚かさに嫌気がさした。


「……それに、精霊王ですら初めてみるというような魔力を他の者がその魔力を見ずにそんな魔力があるのかと納得すると思うかい?」


 ヴィンセントの言葉に何も言葉を発する事の出来ないフィルジルにユリウスは言葉を掛ける。


「殿下……娘との婚約の事に関しては光の魔力の保持者の令嬢が存在している事も合わせて、簡単な問題ではなくなってきております

 遠くない日にこの問題に関しては然るべき決断をくださなければいけないかと思います

 ですから……殿下も娘の事を思うならその事を頭において節度ある態度で娘には接して頂きたい」


「……………………」


「ミーシャ、今日は失礼させてもらおう……

 今日は、一緒に屋敷へ帰るよ

 では、御前失礼致します」


「あ……お父様……

 陛下……失礼致します……

 フィル……また……学院でね……」


 ユリウスはその場にいる者へそう言うと応接室をミーシャを連れて後にした。

 俯いているフィルジルの肩へヴィンセントは手を置くと言葉を掛けた。


「お前の気持ちはわかる……

 だが、少し冷静になって今の状況やお前の置かれている立場を考えて自分のとるべき行動を考えなさい」


 ヴィンセントはそう言い、フィルジルを応接室に残し大人達三人も部屋を後にした。その場に一人残ったフィルジルの強く握られた拳の震えは暫く止まらなかった。






 カラカラと音をたて屋敷へ帰る馬車の中でミーシャはぼんやりと外を眺めそして口を開く。


「……お父様………」


「なんだい?」


「私と……フィルに残されている時間はどれくらいなのかしら……」


「ミーシャ……」


「自分の気持ちだけではどうしようもできない世界に自分が置かれているという事は理解している……

 本音はそんな事を理解していない幼い頃に戻りたい気持ちでいっぱいだけれど……」



 ────フィルと気持ちが通じあったから尚更強く思う……このまま時間が止まってしまえばいいと………



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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