第24話 解錠
ミーシャは王城の応接室でフィルジルと二人きりでいる時にフィルジルから再度想いを伝えられ、ミーシャの気持ちも知りたいとフィルジルから問われていた。
(……自分の気持ちなんてずっと前から決まっている……だけど……)
自分はフィルジルには相応しくないとずっと思い悩んでいたミーシャにとって自分の気持ちに正直になるという事はとても怖いことであった。
ミーシャは昨日の不思議な声の言葉を全て信じている訳ではないが、それでもいつも真っ直ぐフィルジルはこんな自分へ想いを何度も伝えてくれており、以前から何度もそのような言葉をフィルジルが自分へ伝えようとしていた事はミーシャも気が付いていたが、それをずっと誤魔化していたのだ。
しかし、もう誤魔化せないような状況であった。
「私は……」
ミーシャの瞳は潤みフィルジルの表情がぼやけてよくわからなくなる。
(……泣いたらフィルをもっと困らせてしまう………)
そんなミーシャをフィルジルはそっと抱き締めた。
「そんな顔をお前にさせたい訳ではないんだ……
だけど……さっき父上がお前と二人で話をしていると聞いて怖さが勝った……
お前との婚約をどうにかされてしまうのではないかと……あの女との婚約の話が現実になるのではないかって……物凄く焦ったんだ……」
フィルジルの言葉を聞いてその恐怖はミーシャもずっと感じていた恐怖であった。フィルジルの隣を自分でない令嬢へ渡さなければならないという恐怖……
抱き締められフィルジルの鼓動をすぐ近くで感じられる今のこの状況がミーシャの頭の中にぼんやりと浮かんだ時であった、その抱き締められている存在が自分ではなくキャロルの姿と重なったその瞬間強烈な嫌悪感をミーシャは感じた。
そして口からポロリと出てきた言葉は……
「………嫌…………」
「ミーシャ……?」
「違うご令嬢をフィルが抱き締めるなんて……」
「ミーシャ……」
「そんなの……嫌……」
ミーシャの瞳から溢れた涙が零れ落ちていく。
「俺はミーシャ以外の者を抱き締めたりなんてしない」
「ずっと……私はフィルに相応しくないから……諦めようとしていた……」
「相応しくないなんてない!」
「私のせいでフィルに余計な手間を増やして煩わせたくなかったの……」
「お前が関わる事に煩わしい事があるわけがないだろ!」
「でも……自分はお荷物な存在だってわかっていたけど……
それでもフィルと離れたくなかった……
だから、仮初の婚約者になるなんて言ってずっとフィルの隣に居座っていた……」
「ミーシャ……俺は……自惚れていいのか?」
ミーシャとフィルジルの視線が絡む。
「お前は俺の事を……」
ミーシャはもう自分の気持ちに抗う事が出来なかった。
ずっと、抱えていた想いを……心の奥底でしまっていた想いを隠し通す事は出来なかった。
「好きよ……ずっと……フィルの事しか考えられなかった
フィルの事を愛してるの……」
ミーシャの言葉を聞いてフィルジルがミーシャを強く抱き締めた時であった、ミーシャのポケットの中で懐中時計の魔石が砕け強い光が二人を包む。
「きゃっ……」
「な、何だ!?
……………っ!」
フィルジルのミーシャを抱き締める力が強まった時、光の奥に何者かの影があるのをフィルジルは気付き、ミーシャを隠すように抱き締め腰に帯剣していた剣を抜いた。
「何者だ!?」
光がいつの間にか消え二人の前に立っていたのは背の高い白髪ではあるが年齢を感じられない存在であった。
その存在は金色の瞳を二人に向けた。
「ほぉ……二人とも随分と成長したな……」
フィルジルの心の中にはミーシャを目の前の男から守るという事しか考えられなかった。
(俺達の事を知っている……?誰だ……?)
目の前の男が自分達の方へ足を踏み出そうとしている事にフィルジルの警戒心は強まる。
「動くなっ!!
それ以上こちらへ近付くな!!」
手にしている剣をその男へ向けた。
「俺に刃を向けるとは……面白い
だが、人の作ったものでは俺には何もなさない」
「え……」
その男がフィルジルの剣に向けて手をかざすと剣の刃はボロボロとこぼれ何十年もの時間が経過したかのような状態になった事にフィルジルもミーシャも驚く。
(何だこれは……魔力か……?)
フィルジルは自分の魔力を解放し、氷の剣を具現化し手にする。
「成る程……魔力を使う力をしっかりと身に付けたようだな……」
「ミーシャ、下がっていろ……
あの男……得体が知れない……」
「そうか……お前達の記憶をまだ封印したままであったな
鍵を自分達で開けた事は褒めてやろう……」
「記憶だと?」
その時、応接室の扉が開かれ声が響いた。
「フィルジル、その氷の刃を下ろせ!」
「父上……?
下ろせというが、この者が何者かわからないのに下ろせない!!」
「いいから……下ろしなさい
精霊王……息子が失礼致しました」
フィルジルは目の前の男に向かって国王である父親が頭を下げている事に驚愕し、そしてヴィンセントの口から出た言葉に耳を疑った。
「精霊王だって……?」
ヴィンセントは外にいる護衛に指示を出す。
「宰相のスタンリー公爵と、外務大臣のフェンデル公爵、魔術師団長のルラン侯爵をここへ呼んできなさい
後、他の誰も中に入る事を禁ずる」
「父上……何を言っているんだ……?」
応接室の扉を閉め中へ入ってきたヴィンセントはフィルジルに目を向けると口を開いた。
「彼は正真正銘この王国に魔力を与えている精霊の頂点である精霊王であるよ」
「お前は……あの時の王太子か……?」
「ええ……今は即位し、この王国の国王となりました
貴方の魔力を感じ、この部屋へ赴いたところであります
二人の記憶を戻しに来られたのですか?」
「ああ……あの幼かった子どもがこんなに成長したとはな……
人の歳をとる早さは驚く程だ
この二人は自分達の意思で鍵を開けた
ならば、異存はないであろう?」
フィルジルとミーシャは精霊王だと国王が言った男と国王のヴィンセントの会話の意味がよくわからなかったが、自分達の事であるという事だけはわかった。
「父上……何の話をしているんだ?
俺達にもわかるよう説明をしてほしい!」
「そうだね……話さなければならない時がきたという事だね……」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価ポイントもありがとうございます!
漸くこのお話の本題へ入りました。




