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第22話 過去への鍵

 午前の授業が終わり昼食をとるためミーシャに声を掛けようとしたフィルジルに先に声を掛けた人物がいた。


「あの……フィルジル様……」


 その声の人物にフィルジルは嫌悪感を抱いたが、そんな事は顔には出さず穏やかな笑みを貼り付け顔をその者へ向ける。


「ストゥラーロ嬢どうしましたか?」


「フィルジル様と昼食をご一緒したいと思ったのです……」


「………残念ですが、先約がありますので……」


「あ……そうなのですね……あの……」


「まだ……何か……?」


「あの……お父様からフィルジル様からこの王国の事や王族の事を色々と教えて頂いたら良いと聞いて……

 それで……休み時間に教えて頂きたいと思っていたのです……」


 キャロルの話した内容にフィルジルは怒りを覚えた。

 ストゥラーロ子爵は娘を王族へ嫁がせる事を確信しているような内容であったからだ。


「………ストゥラーロ嬢は王族の事をお知りになりたいのですか?」


「えっ……それは……私が暮らしているこの国を纏めている方々ですので……」


「それでしたら、学院での学びでも十分な知識を得る事ができますよ」


「フィルジル様は……いえ……なんでもありません……

 また、お時間がありましたら、私も昼食をぜひご一緒させてください」


 フィルジルはキャロルが会話を始めてからずっと違和感を感じており、先日父のヴィンセントが話していた魅了の力をキャロルが使っているのではと考えていた。そして、今キャロルが躊躇って言わなかった言葉はどうしてキャロル(自分)に好意を向けないのかという事をフィルジルへ問いたかったのではと思った。


「貴女の気持ちはありがたいけど、私は今自分の婚約者をしっかりと手中におさめる事で手一杯だからなかなか余裕がないんだ……

 ストゥラーロ嬢は貴女自身でこの学院生活を楽しんだらいいと思うよ

 では、時間もないので失礼するね」


「あ……」


 フィルジルは今後もキャロルとは関わるつもりはないという事を言葉を濁して伝えるとミーシャのもとへ行きミーシャへ声を掛けた。


「ミーシャ待たせたね

 食事に行こうか」


「で、でも……」


「私は君と食事を共にしたいのだよ

 それとも、何かあるのかな?」


 フィルジルは有無を言わせない雰囲気でミーシャを見つめ、そのフィルジルの視線にはミーシャは抗えなかった。


「い、いえ……」


「そう、では行こうか」


 ミーシャはキャロルがこちらをずっと見ている視線を感じながらフィルジルに手を引かれ教室を後にした。

 執務室にはフィルジルとミーシャ二人きりであった。

 しかし、執務室に入ってもフィルジルの機嫌の悪さがおさまっていない事はミーシャもわかっていたが言葉を発する。


「フィル……ずっとキャロル様が見ていたわ……」


「だから……?」


「あまり……事を荒立てない方がいいと思うの……」


「どうして…俺があの女に気を遣わなければいけないんだ?」


「それは……キャロル様は……」


「光の魔力の保持者だから……

 だから、何だって言うんだ?」


「でも……王国の取り決めで……」


「…………っ!!」


 ミーシャの言葉に気持ちを抑えられなくなったフィルジルはミーシャの前まで大股で歩いていくと両肩を掴む。

 ミーシャに対しても令嬢に対する紳士的な接し方でいつも接していたフィルジルには珍しい荒々しい行動で突然の事にミーシャは驚いた。


「どうしてっ!

 お前は俺の気持ちがわからないんだ!!」


「フィ、フィル!?」


「俺が婚約者に望んでいるのも、俺が婚姻を結びたいのもお前以外になんて考えられない!!」



 ───駄目よ……



「俺の気持ちを知っているくせに……」



 ───それ以上言葉にしないで……



「俺はお前の事を……」



 ───離れられなくなってしまうから………



「誰よりも愛しているんだ……」


 フィルジルがミーシャへの想いを言葉で伝えた瞬間ミーシャのポケットに入れていた懐中時計に嵌め込まれている魔石にひびが入った。それと同時にミーシャの身体の力が抜けミーシャは意識を失う。


「え………?」


 ミーシャが倒れる寸での所でフィルジルがミーシャを抱き止める。


「ミーシャ……!?

 ミーシャッ!!」





 ───────…………



 ────…………



 ──…………



『──このまま忘れたままでいいの………?』



 辺りが何も見えない暗闇の中でミーシャは何者かの声に気が付く。



(…………子供の声……?)



『───フィルは自分でその鍵を開けたわ………』



(………誰……?)



 ミーシャが声の方へ視線を向けると暗闇の中ではっきりとはしていなかったが、見覚えのある人影があった。



『───ミーシャ()はこのまま自分の気持ちに嘘を付き続けるの?』



(………幼い頃の自分()……?)



 言葉を発している存在がまだ三歳ぐらいの幼い頃の自分だとミーシャが気が付いた時、頭の中に一つの映像が浮かんだ。



『フィル……こっちよ!』


『ミーシャ……待って……』


 それは王城を走り回るまだ三歳ぐらいの二人の幼い子どもの姿。

 一人は幼い頃のミーシャで、もう一人は、ミーシャの知っている子どもの頃のフィルジルよりもずっと幼い姿であるが、それでもフィルジルの面影があった。


(フィル……?

 ………え……だって……私は十歳の時にフィルと初めて会って……

 それ以前のフィルの事は私は知ら……ない……筈なのに……)



『───鍵を開けるには自分の気持ちに嘘をついていては駄目……』



「嘘って……貴女は昔の私なの!?

 忘れたままって、どういう事なの!?

 フィルと私のあの幼い頃の姿は何!?

 鍵って何なの!?」



『───このまま忘れたままでいたくないなら、自分の気持ちに嘘をつかないで……』



 幼いミーシャ(少女)はそんな言葉を残すとその姿は消えてしまい、次にミーシャが目にしたのは青い顔をした現在のフィルジルの姿であった。


「ミーシャっ!!」


「フィル……?」


「何が……急に意識を失うなんて……」


「私……」


 その時、ミーシャはフィルジルに抱き締められ、ミーシャの心臓が波立つ。


 ───トクン……


「フィ、フィル……?」


「良かった……」


 フィルジルに抱き締められドクドクとミーシャの心臓は鳴り響いていたが、フィルジルの腕の中は暖かく安心もした。

 ミーシャは、フィルジルの腕の中で先程ミーシャが見た幼い頃の自分は何であったのだろうかと感じた。


(………あれは……夢……?

 だけど……フィルは鍵を開けたって………

 それに……私はフィルともっと昔に会った事があるの……?)



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