表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/76

第21話 真実の理由

 王城には、ある一定の身分の者しか入室できない禁域とされている場所が幾つかある。

 そのうちの一つでもある王族しか入れない書庫に、あの入学祝いパーティーの次の日からフィルジルは訪れていた。フィルジルが探していたのは公になっていない光の魔力についての情報であった。

 書庫の入り口に人の気配を感じてフィルジルが目を向けると扉に身体を預けフィルジルの様子を伺っている者がいた。


「父上何かようですか?」


「見つかったのかい? フィルの探し物は?」


「………父上は光の魔力について知っている事が幾つかありますよね?」


「まぁ……基本的な事はね?

 これでも、国王であるからねぇ

 何? 光の魔力に興味を持ったのかい?」


「悪い意味でなら持ちましたよ」


「悪い意味?」


「………最近、学院の生徒で様子が変わった者が数名いるという話が増えてきました

 それは全て高位貴族の子息達であり、そしてどの者もある者との接触があってから様子が変わったと……

 以前はその子息達は自分の婚約者へ好意的に親しく接していたのが、ある日突然婚約者への態度が素っ気なくなり、反対に違う者へ好意を見せるような態度をとっていると……

 その好意を向けている者が別々であるのなら、気持ちの変化として特に気にする事もありませんでしが、様子が変わった子息達が好意を向けている相手が皆同じ相手だという事に不自然さを感じました

 そして、その相手が例の子爵令嬢だという事に……

 恐らく、子息達の態度の変化は彼女の魔力によるものではないかと推測しています」


「お前は彼女と関わった事が何度もあるだろう?お前は何か変化があったのかい?」


「初めて会った時に彼女の視線というか……瞳……に違和感を感じましたが、特に変化はないかと思います」


「お前は闇の魔力を持っているからな」


「……闇の魔力は己に向けられる幾つかの例外を除いて全ての魔力を無にするという特性がある……

 光の魔力には精神に及ぼす特性がある…という事ですか?

 文献を調べても光の魔力に関して殆んど詳しく説明されてはいなく、どれを読んでも濁されて表現されていた……まるで、故意的に記述していないかのように……」


 フィルジルの言葉に表情は変えずヴィンセントは書庫内に入り書庫の扉を閉めた。


「ここからは、他言無用だよ

 フィルは魅了の力……というものを聞いた事はあるかい?」


「………物語の中ではよくある力であるとは記憶していますが、実在する力では……」


「いや……物語の中で作られた力ではなくて、現実に存在する力であるんだよ

 私も、実際に目にしたのは先日が初めてであったけどね」


「先日、初めて目にしたって……彼女との謁見の時の事を言っているのですか?

 …………光の魔力には魅了の力があると?

 しかも、その力を国王である父上の前で使ったというのですか?」


「私には闇の魔力があるから効果はないけどね……

 彼女が魅了の力を持ち合わせていて、さらに私との謁見の場で彼女がその力を使ったと気が付いたのは他の者では私程の力ではないが、同じく闇の魔力を持ち合わせている宰相のドレイクと魔術師団長のロウルだけかな」


 ヴィンセントの話した内容にフィルジルは憤り、その表情(かお)には嫌悪感を滲ませた。


「なんて事を……無意識だとしても咎められる行為であるのに……」


「彼女は封印具を外す試験を通っているから、無意識では……ないだろうかな?

 それが、どういうつもりで使ったのかまだわからないが……」


「どうして、そんなに落ち着いているのですか?

 魔力の使用を禁止されている謁見の場で魔力を使うなんてありえない……

 しかも、精神に及ぼす魔力を国王の前で使ったのですよ?」


「そうではあるが………その状況こそが、王族が光の魔力の保持者と婚姻を結ぶ取り決めの公にされていない理由だからだよ」


 フィルジルの眉間に皺が寄る。


「…………理由……?」


「万能の力だと言われている謎の多い光の魔力をもってしても、王族に与えられた闇の魔力の前では全く意味は成さない

 周囲が気が付かず操られてしまう力にコントロールされる事は絶対にないとされているからね

 闇の魔力は王族の血筋である者だけに与えられる力で、それは秘術で受け継がれる事になっている、その理由は王国を守る為の力であるからだ

 表向きは光の魔力の保持者を保護する為王族が婚姻を結ぶとされているが、その本当の理由は万が一悪意を持って王国を揺るがそうと力を使ったとしても防波堤になる事が出来る、そういう理由から王族は光の魔力の保持者を掌握していなければならないんだ、王国のトップとしてね」


「………だから……その防波堤に俺がなれと……?」


「お前の弟であるフィリップは彼女と年齢も離れているし、何より身体が弱いからね……

 それに、国王となる者が光の魔力の保持者を掌握する事が一番望ましいとされている」


 フィルジルは感情をずっと押さえて父である国王のヴィンセントと話していたが、感情を抑えることが出来ずに怒りを露にする。


「どうして……っ………

 俺があんな女と婚姻を結ばなければならないんだ!!

 俺にはずっと決めた相手がいる事を父上は知っているだろ!?

 昔から取り決めだとか、王子の望ましい姿だとか周りがごちゃごちゃ五月蝿いんだよ!!」


「………幼いお前に負担をかけて、作られた王子の姿を今もお前が被り続けている事は私の責任だ……

 だが……光の魔力を持つ者が現れてその者を掌握しなければならない事は王族としての義務でもあるのだ」


 そのヴィンセントの言葉にフィルジルは渇いた笑みを浮かべた。


「父上の時代にそんな忌々しい存在が現れなくて良かったですね……

 父上に俺の今の気持ちがわからないとは、言わせない……

 周囲に反対されながら無理矢理母上との婚姻を結んだのだからな……

 そんな父上は俺にその言葉を普通なら言えないだろっ!?」


「……………………」


 そんな自分の感情をヴィンセントにぶつけてフィルジルは書庫を後にした。

 ヴィンセントはフィルジルの気持ちが痛い程よくわかった。自分自身、周囲の反対を押し切り王妃のリリアと婚姻を結んだ事は今でも後悔は一つもなかったが、その時に今回のように自分の力ではどうする事もできないような状況に陥っていたならば恐らく王太子という立場を放棄していたかもしれないと思ったからだ。自分自身の無理矢理押し切り婚姻を結んだ事で自分でなく妻であるリリアだけでなく、息子の幼いフィルジルにも多大な負担をかけた事は苦しい過去であった。そんなフィルジルに降りかかった現状に胸が痛んだ。

 願うべきは息子の幸せな未来であるが、それが許されない現状……


「………どう……すべきなのか……困難な状況であるな……」


 書庫の中にヴィンセントの呟きが響いた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ